もはや百花繚乱の感? 空冷911のレストモッド
創業1793年の名門オークショネア「ボナムズ」社では、世界各地で自社開催のオークションを開催していますが、もちろん本拠であるロンドン・メイフェア地区のニュー・ボンドストリートに構えたショールームでも、ハウスオークションを大々的に開催しています。2024年12月12日に挙行された、クルマとオートモビリアのオークション「The Bond Street Sale Important Collectors’ Motor Cars and Automobilia」は、ロット数こそ多くはなかったものの、その内容は地元でのオークションということでかなりのレベルでした。今回はその中から、昨今流行りの「レストモッド」の空冷ポルシェ911。イギリスのポルシェ・スペシャリスト「リント(Rindt)」の製作した1台をピックアップし、その概要とオークション結果についてお伝えします。
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女性オーナーが特注したレストモッド911は、どんな内容?
多くのエンスージアストにとって「スポーツカーの真髄」と崇拝されるポルシェ「911」からは、過去60年以上の間に数え切れないほどの特装モデルが生み出されてきた。
もちろんその大部分は、ポルシェ本社ファクトリー「ゾンダーヴンシュ(Sonderwunsch=スペシャルリクエストの意)」からの特注品によって占められるが、とくに近年ではそれらと並行して「RUFオートモビル」、「シンガー・ヴィークル・デザイン(Singer Vehicle Design)」、「トゥティル・ポルシェ(Tuthill Porsche)」、「ランザンテ(Lanzante)」、そして「リント・ヴィークル・デザイン(Rindt Vehicle Design)」といった独立系スペシャリストによる「レストモッド(レストア&モディファイ)」シーンの拡大も大きく貢献してきたことも、ポルシェ愛好家にとっては見逃せない事実であろう。
2024年末のボナムズ「The Bond Street Sale Important Collectors’ Motor Cars and Automobilia」に出品した女性オーナーが、英国バークシャーを拠点とする「リント(Rindt)」社に依頼したレストモッド911は、彼女が生まれた1974年に生産された「Gシリーズ」をドナーカーとした1台である。
シュポルトマティックを搭載した1台だった
英国『クラシック・ポルシェ』誌2024年8月号に掲載された6ページのインタビューに応じたリントの創業者ブライアン・リチャードソンは、その理由を次のように語っている。
「私たちの顧客は、彼女が生まれた1974年に製造された車両をベースにしたオーダーメイドの911が欲しいという強い希望を持っていました。しかし、彼女はドナーカーの年式以上に特別なリクエストを携えていました。外観については、50年前に“JWオートモーティブ”のポルシェ917がまとっていたガルフのカラーリングから多大な影響を受けていることは一目瞭然ですが、往年のレースシーンにインスパイアされた外観にもかかわらず、彼女はツーリング仕様の911が欲しい、理想的にはオートマチック・トランスミッションが搭載されている911が欲しいと明言してきたのです」
それゆえ、このクルマは2ペダル。かつてのポルシェに採用されていた4速セミオートマチック「シュポルトマティック」ギアボックスが搭載されているのだ。
見た目はレーシーなナナサンカレラRSR風
女性カスタマーからの特別注文を受けるにあたって、リント社はまず適切なドナーカーを探すことから始めなければならなかったが、そのミッションは自社のコネクション内でこなし、エンジンとギアボックスなどの主要メカニズムはすべて除いた「バスケットケース」状態で北アイルランドから移送されることになる。
当然ながら、ベース車両はフルレストアが必要な状態。とくにボディシェルのコンディションが悪かったため、リントの工房にあるボディ治具に載せて4カ月かけて改修が行われる。必要な部分には新品のシートメタルが使用され、オーバーフェンダーのついた「RSR2.7」スタイルに改造された。
ボディカラーは、映画『栄光のル・マン』でもおなじみ往年のJWポルシェ917に塗られていたガルフ石油のカラーリングである「パウダーブルー」。同じくガルフカラーの一端を担うオレンジ「マリーゴールド」で仕上げられた。グループ4カンパニョーロ・レプリカホイールがレーシーな雰囲気を完成させている。
また、リアエンドの「ダックテール」エンジンフードを開くと、オリジナルのGシリーズでは2.7L+ボッシュ燃料噴射だったのに対し、排気量3.2Lにリビルドされ「Jenvey Dynamics」の燃料噴射キットと再プログラム可能なECUも装備したフラット6ユニットが姿を現す。
中身は快適なツーリングカー
いっぽうフルオーダーされたインテリアには、964シリーズ純正のヒーターつき電動シート、「KENWOOD」のタッチスクリーン式インフォテインメント&GPSナビシステム、クラシックなレトロフィットエアコン、「ガルフ」にインスパイアされたタータンチェックのファブリック装飾、「MOMOプロトティーポ・ブラックエディション」ステアリングホイール、オレンジとブルーのステッチが施されたリネン本革シート、クイックフィットのセーフティ・カスタムシートベルト、ツインの英国スミス社製ストップウォッチ、レザーで縁取られたダッシュボードのトップロール、オーナーのイニシャルをあしらってパーソナライズされた文字盤などが採用されている。
日本のケンウッド製の2DINサイズモニターには「Apple CarPlay」が内蔵され、バックカメラの表示も可能。フロントとリアのパーキングセンサーも装備されている。そしてリントのロゴは、インテリア、エクステリア、そしてクーリングファンのブレードにまで施されている。
このユニークなポルシェ911はレストア作業の完了以来、2024年初頭に英国内で行われたコンクール・デレガンス「サロン・プリヴェ」を含む数多くのイベントに参加し、ポルシェ愛好家の間で頭角を現すことになった。
リビルドが終了してからの走行距離はわずか1000マイル(約1600km)ほどに過ぎず、これから同じようにレストモッド化したいのならば、現在では今回の設定価格よりもかなり高額の費用を必要とすることは間違いないだろう。
そのあたりを踏まえたボナムズ社は、今回の出品にあたって完璧なコンディションをアピールするかたわらで、16万ポンド~20万ポンド(邦貨換算約3168万円~3960万円)という、昨今流行のレストモッド車、しかも空冷911をベースとしたものとしては、かなり控えめなエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが2024年12月12日、ニュー・ボンドストリートのボナムズ・ショーケースで行われた競売では予想外にビッド(入札)が伸びなかったようで、残念ながら流札に終わってしまった。ひょっとすると2ペダルであることが災いしたのかもしれない。
そして現在では、13万ポンド~18万ポンド(邦貨換算約2570万円~約3550万円)までプライスダウンしたうえで、継続販売中のようである。
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