スーパーGT 2019
スバル STIの先端技術 決定版
2019年3月10日「STIモータースポーツDAY」で、スーパーGTに出場する「BRZ GT300」の公開シェイクダウンテストでは、ボディのエアロダイナミクスをアップグレードした姿を初披露。そのきめ細かいアップデートを解説していこう。
空力性能のアップデート
2019年仕様のBRZ GT300で一番の進化といえるのは空力対策だろう。もちろん大幅なボディ・デザインの変更ではないが、着実に進化させたといえる。空力性能の目指すところは空気抵抗をより低減して最高速を伸ばすと同時に、ダウンフォースを確保するということだ。2019年仕様の目標は、Cd値は6%、ダウンフォースは7%向上させることを目指している。
その対策はフロント部分に集中しており、リヤ・フェンダーなどボディの後方部分は2018年仕様と同じだ。しかしフロントフェンダーの前側部分は丸くなり、少し上方に膨らんだデザインに変わっている。つまりバルジ形フェンダーになっているのだ。これは側面から見るとWECマシンの空力コンセプトと似ていることがわかる。
バルジ形フェンダーにすることで、一つはピッチング時の空力特性の変化を穏やかにすることができる。ウェッジ形の場合は加速時にフロントが浮き上がりやすく、アンダーステアになりやすいのだ。もう一つの効果は、盛り上がった左右のフェンダーの効果で、前方からの気流がフェンダーの外側に引きずられにくくなり、気流が内側にも流れて、その気流はリヤウイングにより向かいやすくなるのだ。
もうひとつはフロント部に新型のカナードと、スプリッターの形状を改良したことだ。この2つの空力デバイスにより、カナード、スプリッターの端部から渦流が発生する。つまりボルテックスジェネレーター(渦流発生器)であり、誘導抵抗渦を発生させる仕組みになっている。
そのボディの側面下側に渦流を発生させるメリットは何か? 一つ渦の流れにより圧力が下がりフロントホイールハウス内のエアを吸い出す効果がる。ホイールハウス内の圧力が下がればそれだけダウンフォースは大きく発生する。もうひとつはボディ側面の低い位置に渦流ができると、ボディのフロア下側のエアを吸い出す効果もある。この効果によりフロント正面からの気流がフロア下面に流入しやすくなり、これによってもフロントのダウンフォースを増加させることができるのだ。このようなきめ細かな空力対策により、高速コーナーでのアンダーステア傾向を抑え込もうというわけである。
戦闘力アップのための対策
ところで、BRZ GT300のチーム体制には変更はなく、レース運営はR&Dスポーツが担当し、ドライバーは井口卓人選手、山内英輝選手の組み合わせ。そしてSTIの渋谷真総監督がチームを束ねる。
2019年シーズンを戦うBRZ GT300は空力のアップデートも含め、基本は前年のマシンを継続使用し性能全体をアップデートしようという方針だ。
改めて、2018年の課題をあげてみると、まずエンジンの信頼性に不安があったこと、最高速度の追求とダウンフォースのバランスが悪く、高速コーナリング時には終始アンダーステア傾向が解消されなかったこと、コーナーからの立ち上がり時がもたつくこと、そしてピットインし給油する時間とタイヤを4本交換することによるピット停止時間が長すぎることである。
エンジンに関しては、部品の設計、製造、使用時の管理法などを徹底的に見直し、信頼性を高める。
性能向上策としては、ターボの制御システムを改良し、レスポンのさらなる追求。さらに従来より低フリクションのエンジンオイルを採用し、レスポンス向上、出力アップを目指している。またトランスミッションのギヤ比も、最高速度やコーナーからの立ち上がりに合わせて改めて設定することになっている。
次に、高速コーナーなど横Gが強いコーナーでのアンダーステア傾向を改善するために車体フレーム剛性の前後バランスの見直し、サスペンション・ジオメトリーの改良、さらにスプリング/ダンパー/スタビライザーの設定を見直し、コーナリング時の内輪接地荷重を従来以上に確保することにしている。なお既存のボディ・フレームの剛性を検討するため、加振器を使用しての剛性の計測とFEM解析(有限要素法=微分方程式の解析解を数値化する方法)を併用しているという。
ピットストップ時間の短縮対策は?
また、BRZ GT300の最大の課題とも言える、ピットインごとのタイヤ4本交換だ。300km程度のレース距離ではタイヤグリップを確保しつつ、無交換で走れることで解決したい。もちろんこれはタイヤメーカーとの協業なしには実現不可能だが、STIとしてはサーキットの各コースでのタイヤの負荷=グリップ状態のシミュレーションデータを蓄積し、そのデータからタイヤの負担を減らすこととラップタイムの相関関係を探ることにしている。同時に、ホイール剛性の適正化、サスペンション・ジオメトリーのセッティングにより、タイヤの接地面積を大きくし、タイヤの負荷を減らす方向を目指すという。
タイヤを無交換とするための対策と同時に、ピット停止時間を少しでも短縮するための燃料タンク、ウォーターインジェクション用タンクの対策も行なっている。燃料タンクは容量が規則で決まっているため容量を変更することはできないが、給油口からタンクに接続される燃料配管をよりストレート形状とうることで短くし、わずかでも給油時間の短縮を図る。またこれまでピットイン時に補給していたエンジンのウォーターインジェクション用の水タンク容量を増大し、レース中の補給をなくしている。
今回の公式シェイクダウンテストでは、細かなセッティングを調整しながら順調にテストを消化した。今回の走行データをもとにより熟成を行ない、3月16日~17日に行なわれる岡山国際サーキットでの公式テストに臨む。ここでは、より性能を向上させているであろうライバル達の実力と、アップデートした2019年仕様のBRZ GT300がパフォーマンスがもっと明確に見えてくるはずである。
スバル STIの先端技術 決定版
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*取材協力:SUBARU TECNICA INTERNATIONAL
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