Z3 Mクーペの生産は1112台のみ
極秘プロジェクトと呼ばれるものには、大概特別な何かが潜んでいる。クルマの場合も同様。主力モデルとは異なる、情熱的な技術者の結晶といえる成果が導かれることも少なくない。
【画像】アナログなFR BMW Z3 M ロードスターとクーペ 現行のZ4とM240i、M4と比較 全74枚
今回ご紹介するBMW Z3 Mも、そんな1台に加えられるだろう。一生モノのドライビング体験を与えてくれる、腕の試しがいのある、通常のZ3とはひと味違うレアなスポーツカーだ。
このZ3 Mは、BMWの上層部が希望したクルマではなかったものの、M部門の技術者たちによって非公式に開発が進められた。最終的に量産化が認められ、1997年にロードスターが、1998年にクーペが発売されている。
どちらも2002年まで生産が続けられたが、ラインオフしたのはロードスターが1万5322台だったのに対し、クーペはわずか1112台。結果として、Z3 MクーペはBMWの量産車として最も生産数の少ないモデルの1つになった。一部からの支持は今でも熱い。
長いボンネットに当初納められたのは、E36型のM3と同じ、自然吸気の3.2L直列6気筒エンジン。S50型ユニットと呼ばれる名機の1つで、欧州仕様では最高出力321psを発揮した。0-97km/h加速を5.0秒でこなす、俊足の持ち主だった。
一方で北米仕様の場合、排気ガス規制に伴い馬力が大幅に絞られている。エンジンはS52型ユニットとなり、243psに留まっている。
NA直6+5速MTのオールドスクールな喜び
2000年にマイナーチェンジを受け、新エンジンが登場。3.2Lの直列6気筒であることに変わりはないが、S54型へ変更され、最高出力は325psへ引き上げられた。後期型では、北米仕様にもこのエンジンが搭載されている。
また、電気信号で制御されるバイワイヤー式のスロットルが採用され、レスポンスが改善。安定性を高めるダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)も後期型から導入されている。
小さなボディにパワフルな6気筒エンジンで、操縦性はワイルド。典型的なBMWらしいFRレイアウトであり、リミテッドスリップ・デフを搭載し、リアタイヤを思い切り振り回せる。
マイナーチェンジ前のZ3 MにはDSCが装備されておらず、やんちゃなBMWを飼いならすのはドライバー本人。それなりのスキルが求められる。
登場から20年以上が経過するが、その個性や魅力は薄れていない。ストレート6をレッドラインまで回せば、爽快なパワーと聞き惚れるサウンドが放たれる。トランスミッションは5速マニュアル。そのオールドスクールな喜びに、酔いしれてしまうことだろう。
Z3 Mのスタイリングは、万人受けするものではないかもしれない。クーペは特に、ピエロの靴というあだ名も付けられた。ひと癖ある見た目が理由の1つになり、大ヒットにはつながらなかったものの、近年は価値が認められ価格は上昇の一途だ。
アナログな素晴らしいドライバーズカー
当時はまだM部門の活動は今ほど幅広くなかったが、パワフルな自然吸気エンジンという存在は、現行モデルでは入手困難。アナログなZ3 Mと最新のZ4 M50iとを乗り比べれば、その違いに驚くことだろう。
現在の英国の中古車市場を俯瞰すると、状態の良い例ではZ3 Mクーペに6万ポンド(約960万円)以上の価格が付いている例もある。だが、条件を緩めれば1万8000ポンド(約288万円)程度から悪くないロードスターが見つかるようだ。
価格帯はS50エンジンのロードスターが1番手頃で、S54エンジンのクーペが最も高い。とはいえ、どちらを選んでも素晴らしいドライバーズカーに乗れることには間違いない。新車のマツダMX-5(ロードスター)に並ぶ価格は、うれしい悩みといえる。
新車時代のAUTOCARの評価は
驚異的なスピードで長距離を疾走できる。動力性能だけでなく強力なブレーキやグリップには、かなりの腕利きドライバーでも感動を覚えるだろう。BMWの技術の高さが光る、大胆なマシンだ。
一方で、ロータス・エリーゼやポルシェ・ボクスターとは異なり、多くのドライバーが恋に落ちることはないかもしれない。自慢できる能力の持ち主でありながら、ルックスには否定的な人もいるだろう。 (1998年1月28日)
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
エンジンオイルの交換は、S50エンジンで1万1000km毎、S54エンジンでは1万8000km毎の指定となっている。アイドリング時にカチカチという音が大きく聞こえる場合、バルブクリアランスの調整が必要かもしれない。
S50エンジンでは、ヴァノス・ユニットの故障も疑われる。ソレノイドのOリングが劣化し、オイル漏れする場合もある。また、スロットルケーブルが伸びてしまうことがある。交換は簡単だ。
トランスミッション
シフトレバーが、やる気なさそうに5速の方へ傾いている場合、リターンスプリングの劣化のサイン。交換費用は高く付く。1速と2速が入りにくいのは、クラッチホースの加熱でトランスミッション内の油圧が下がることが原因かもしれない。
ディファレンシャルのマウントが劣化すると、荷室フロアに当たり、変形させることがある。劣化状態は確認しておきたい。
サスペンションとブレーキ
サスペンションのアッパーマウントは、10万km前後でだめになる。路面の段差などを通過して、異音が出ていないか確かめる。ダンパーは、ビルシュタイン社製などにアップグレードされている例も少なくない。また、ブレーキキャリパーは固着しがち。
ボディ
基本的には錆びにくく、目立って傷んでいる場合は過去の事故が原因かも。リアフェンダーやサイドシル、ボンネットの前端部分などは、錆びやすいポイントではある。クーペの場合は、リアガラス周辺のゴムシールやリアワイパーの状態も確認ポイント。
インテリア
シートにガタが出ていないか、パワーウインドウが軽快に上下するか、ライトスイッチが故障していないか、各部を触れて確かめる。ドアやフロントガラスの上部など、ゴムシールが劣化していないか確認する。水漏れの原因となる。
ソフトトップは、プラスティック製のリアウインドウが劣化すると白濁してくる。表面を磨いて寿命を伸ばすことは可能。ソフトトップ自体は堅牢で、交換を迫られる率は低いようだ。
知っておくべきこと
BMW Z3 Mには、同年代の他モデルから部品が流用されている。エンジン以外にも、例えばブレーキをE36型M3と共有している。
一方で、通常のZ3よりワイドなボディに合わせて、ホイールはZ3 Mの専用品。4本出しマフラーやZ3 M限定のボディカラーなどが、違いを主張するポイントだ。
専門家の意見を聞いてみる
ダン・ノリス氏:ミュンヘン・レジェンド社代表
「わたしはZ3 Mの見た目が気に入っています。当時から、クラシックな雰囲気を漂わせていました。時代を超越したデザインだといえ、クルマに乗るだけで1つのイベントになります」
「Z3 Mは当初量産の予定はなく、今後もこんなクルマが作られることはないでしょう。エキサイティングで、癖になってしまう魅力があります。現在の中古車価格も、妥当な範囲だと思いますよ」
「メカニズムまわりの信頼性は、かなり高いといえます。不具合もある程度は予想可能です。内装の製造品質などは、現在のBMWに劣ることは否定できませんが」
英国ではいくら払うべき?
1万8000ポンド(約288万円)~2万4999ポンド(約399万円)
英国では、初期のZ3 Mロードスターが見つかる。状態がそこまで悪くないものも含まれている。走行距離は、価格が安いほど伸びていることが通例。
2万5000ポンド(約400万円)~2万9999ポンド(約479万円)
状態の良いZ3 Mロードスターが英国では出てくる。クーペもチラホラ。
3万ポンド(約480万円)~4万9999ポンド(約799万円)
この価格帯に入ると、Z3 Mクーペが中心になる。前期モデルの方が全体的に価格は手頃。価格が高くなるほど、新車時に近い見た目のクルマが狙えるようになる。
5万ポンド(約800万円)以上
S54エンジンを搭載したZ3 Mクーペの、極上コンディションを英国では探せる。走行距離は短く、ノーマル状態を保っている例が多いはず。
英国で掘り出し物を発見
BMW Z3 Mクーペ(英国仕様) 登録:1999年 走行距離:8万300km 価格:4万3995ポンド(約704万円)
Z3 Mらしいブルーに塗られたクーペ。状態は良好でBMWのディーラーが取り扱っている。これまで専門ガレージによって整備され続けており、走行距離も年式を考えれば短い。直近の16年間は、1人のオーナーが大切に乗っていたという。
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