新時代の開発基盤技術「ENLITEN」の初採用で話題の、ブリヂストンの新たなフラッグシップタイヤ「REGNO GR-XIII」をテストドライブ。クローズドコースと公道での試乗で見えてきたのは、タイヤの丸さと軽さ、そして「薄さ」がもたらす様々な恩恵だった。
開発ノウハウの集大成「エンライトン」を、国内リプレイス商品に初採用
タイヤ設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を、市販リプレイス用タイヤとして初めて採用したREGNO GR-XIII(ジーアール クロススリー)はブリヂストンにとって、国内向けリプレイスタイヤヒエラルキーの頂点に立つ存在です。
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おそらくは「AQ DONUTSII」以来となる先進性技術の「ニックネーム」を、まずはフラッグシップブランドに掲げることで、ブリヂストンのタイヤ開発が新たなステージに立ったことがわかりやすくアピールされているように思えます。
「エンライトン」とは、「光を当て導くもの」という意味を持つ「enlighten」に由来する造語です。もっとも、初めにそのネーミングを聴いたとき「円」と「Light」をひっかけて「丸くて軽いってこと?」とシンプルに解釈、脳内アイコン化していたおかげで、ドーナツなみに親しみを感じることになりました。
エンライトンそのものは2019年、電気自動車への装着を想定した「転がり抵抗が低く、ライフ、燃費性能に優れたタイヤを開発する技術」として発表されました。ブリヂストンにとっては「持続可能な事業戦略を支える基盤技術のひとつ」です。
実用化されたのは、フォルクスワーゲンID.3向けのOEタイヤから。以来、国内メーカー向けにもOEでの製品化を拡大しながら、モータースポーツとの関連性といった「魅力」もアピールし続けてきました。
ただし今回、アフターマーケット向けに市販化されたものは、これまでとは少しニュアンスが違っているようです。開発の現場においてGR-XIIIに投入されたENLITENは、「Generation 1」に当たるのだそう。同じエンライトンであっても、新たな一歩を踏み出す「第一世代モデル」と解釈できます。
では結局、エンライトンとは、いったいなに?
タイヤ開発におけるプラットフォーム的なもの、と考えればいいでしょう。「基盤」と呼ぶとおり、パターン/構造/ゴムといったタイヤ性能を左右する要件すべてをバランスさせるために生まれた、開発ノウハウの集大成です。
そこには、市販タイヤだけでなくモータースポーツ向けタイヤの開発現場などで磨かれてきた、ブリヂストンならではの知見と経験、研究成果のすべてが盛り込まれているように思えます。
タイヤに求められる性能全般を高めながら、個性も表現
エンライトンがまず目指したのは、より丸く、軽く、そして薄さという、タイヤに求められる基本要素を磨き抜くことでした。タイヤの性能を判断するメルクマールとしてはしばしば、レーダーチャートが使われていますが、エンライトンでははじめに基本的な性能円をトータルでひとまわりもふたまわりも大きな円に拡大しているのが特徴です。
つまり、何かの性能を高めるために相反する別の要素を犠牲にするのではなく、すべての性能を引き上げているのです。その上で、市販タイヤのカテゴリーごとにユーザーが求めるであろう性能を、カスタマイズ=特化していきます。ブリヂストンはそれを「エッジを効かせる」と表現しています。
エッジ(=個性)を際立たせるために多少、アベレージが下がる性能要件があったとしても、もともとの基本性能全体が引き上げられていることから、「すべてが従来型以上のポテンシャルに仕上がる」というロジックです。
新しいレグノGR-XIIIにおけるエッジは、プレミアムブランドとしての快適性を進化させること。同時に、運転のしやすさにつながる操縦性に関しても性能を引き上げています。
今回の試乗会では、クローズドコースと一般道において、エンライトンとしての「引き上げられたトータル性能」と、GR-XIIIとして際立つ「エッジ感」の両方を、体感することができました。
クローズドコースでは、先代モデルであるレグノGR-XIIの比較試乗を実施。同じ車種・サイズで、変化する路面状態でのノイズや乗り味の変化を確認するとともに、高速走行やスラローム時を通して操縦安定性の進化ぶりを体感するメニューです。
従来型のGR-XIIはもともとレグノブランドとして、こと乗心地も含めた快適性には定評があります。それだけに試乗前は、快適性や静粛性に関しては、新しいGR-XIIIとの明確な違いを表現するのはなかなか難しいかも・・・と、ひそかに危惧していました。
実際に乗ってみると、従来型でも快適性に関しては不満のないレベルで想定通り。それでも、たとえば首都高速の継ぎ目を想定した小さな凹凸を乗り越える時には明らかに、GR-XIIIの方が振動の伝わり具合がマイルドになっていることを感じ取ることができました。
高速道路を想定した周回路でも、GR-XIIIの乗り味はよりしなやかさを伴っています。逆に硬さが伴うぶん、しっかり感という意味ではGR-XIIのほうがわかりやすい印象もありました。そのため、ドライバーの好みによっては、先代の方がしっかりしてる、と思われるかもしれません。
ハンドリングはちょっと大人の味付け。後輪の締まりが違う
しかし、一般道でのレーンチェンジや緊急回避をイメージさせるスラローム(速度は40km/hほど)を走ると、実は先代のしっかり感よりも、新型のしなやかさの方が「安定した走り」につながっていることを実感させられます。
先代では剛性感を伴って思い切りのいいハンドル操作が楽しめますが、リアタイヤの収束が遅れ気味。コース後半は、クルマの挙動もハンドルの舵角も、無駄な動きが増えていきます。新型はスムーズにリアが追従してくれるので無駄に速度が上がることなく、最後の最後までリズミカルに落ち着いて走り切ることができました。
クローズドコースにおける高速走行時の印象も含めると、GR-XIIIの進化は「もっとストレスフリーになった」という表現が、似合っているように思えます。レーンチェンジ時のダイレクト感は従来型の方が上かもしれませんが、それは同時に緊張感を伴うもの。GR-XIIIの乗り味は、より大人のドライビングスタイルにマッチしている、と言ってもいいかもしれません。
公道でのテストでは、そうしたGR-XIIIならではの「エッジが効いた」洗練感を、よりわかりやすく体感することになりました。一般道レベルの速度域でも、タイヤから発生するさまざまなノイズが抑えられていることがわかります。どちらかと言えば、風切り音の方が気になってくるほど高い静粛性を、実現しています。
乗り味も尖ったところの少ないジェントルなフィールに終始しますが、興味深いのが、装着されている車種それぞれの個性もまた、しっかり洗練されているように思えたことです。
たとえばメルセデス・ベンツEQEやトヨタ プリウスのように、そもそもコンフォートネスを重視している向きでは、路面の凹凸に対する反応はもちろん、ハンドリングについても、よりなめらかさが際立っていました。
一方でBMW i4のようにより積極的にドライビングを楽しみたくなるモデルでは、BMWのフルバッテリーEVらしいドライバビリティがしっかり残されたうえで、より質感の高い挙動を楽しむことができます。
それもそのはず。実はGR-XIIIの開発に当たってブリヂストンは、開発におけるターゲットをさらに広げていことも進化の重要なポイントとしているのだそう。従来は国産車寄りの目線で開発が進められていましたが、欧州車、あるいはBEVなど、より広い視点に立ったターゲッティングに取り組んでいるのでした。
レグノGR-XIIIはエンライトンの採用によって確かに、タイヤ単体としての性能円をより大きく広げることができました。加えて、対応する車種のバリエーションという「世界観」に至るまで、バランスよく広げることに挑戦し、見事に成功しているようです。
[ アルバム : ブリヂストンREGNO GR-XIII試乗 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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