この記事をまとめると
■ポルシェ912について詳しく解説
「やっぱポルシェは空冷だよ」はナゼ? 渋滞で「地獄」を見ても乗りたくなる理由とは
■356と911の間を埋めるために急遽ラインアップに加わった
■911のボディに356のエンジンが載せられた
356と911の間を埋めるべく誕生!
ポルシェといえばクルマ好きなら脊髄反射的に「911でしょう!」となりがち。ですが、そんなグランドマイスターの陰に隠れてひっそりと咲いた地味ィ~な「912」というモデルがあったことご存じでしょうか。だいたい、出自からして「911が高すぎて、併売していた356と価格差がありすぎた」という理由ですから、場つなぎというか、いきあたりばったりみたいな印象を持たれても致し方ありません。とはいえ、出来栄えそのものは悪いものでもなく、廉価版911と思えば可愛らしく思えてくるから不思議です。
1964年に発売された911は、それまでの356シリーズをはるかに凌駕する高性能スポーツカーだったことはご承知のとおり。初期Oシリーズについては操縦性にクセがあったりしたのですが、ポルシェは持ち前の技術力とド根性でこれをクリア。ホイールベースが伸びたBシリーズに至っては破竹の勢いでレースシーンを席巻するまでになったこと、これまた説明するまでもないでしょう。
ところが、911には操縦性以外にも決定的な弱点がありました。それは、356シリーズに比べてはるかに高価となってしまった価格でした。当時、356は1万6000マルク程度だったのに対し、911は2万2000とか3000マルクとおよそ4割増しという設定。同時代のメルセデスベンツ230SLですら2万マルクちょぼちょぼという値段でしたので、せっかくデビューさせた911が評判こそ先行すれども、高すぎて売れなくなることが大いに危惧されたのです。
そこで、バイザッハは356と911の間を埋めるモデルを急遽ラインアップすることに。とはいえ、当時のポルシェにとっては356と911の2モデルを製造すること自体がかなりの重荷になっていました。貧弱な製造ライン、それでいてドイツの高品質が求められるわけですから、3モデル目なんて作り始めたらブラック企業へまっしぐらだったに違いありません。
で、911の開発リーダーだったペーター・ファルク博士が、会議でポロっと「911に356の水平対向4気筒、載せてみる?」とつぶやいたところ、財務担当者と生産管理担当者の顔がパッと明るくなったとか。
もっとも、高性能を掲げていた911に旧世代のエンジンを積むわけですから、言い出しっぺながらファルク博士は難色を示したようです。それでも、廉価版の売り上げでもって「911のレース活動、できるんじゃないっすか」とそそのかされたりしたのでしょう。まんまと356用の1.6リッターOHVを製造ラインから引っこ抜き、911のボディにすっぽり載せることになったのです。
コストカットはエンジンだけにとどまらない
もちろん、エンジンベイは6気筒を前提に作られているので、いわゆるポン付け。しかもフラットシックスに比べて4気筒は小さいうえに、50kgほどの軽量化も果たすことに。すなわち、リヤオーバーハングの慣性モーメントで生じていた操縦性のクセを見事に解消することができたのです。911そのものはBシリーズの登場までフロントバンパーにウェイトを積んだりするなど苦心惨憺していたのですが、912の目覚ましい運動性能が良き影響を与えていたことは想像に難くありません。
さて、912のコストカットはエンジンだけにとどまるものではありませんでした。たとえば、ステアリングが総プラスチック製になったり、ダッシュボードが鉄板むき出し&ボディ同色だったり、昔の軽自動車みたいなチープな仕上げだったのです。が、その甲斐あって価格は356と同等の1万6000マルクを実現。ヨーロッパ&北米では大いに歓迎されたのです。
また、マニアならよくご存じでしょうが、当時の正規ディーラー「ミツワ自動車」が912のパトカー仕様を製作して、4台も寄贈しています。神奈川県警などは展示もしているようですから、ポルシェ博士になりたい方は必見ですよ。
ところで、912の後を継いだのはミッドシップの914(1970)だったのですが、あちらは逆に4気筒からスタートして、レーシングモデルなどで6気筒や8気筒を搭載するに至っています。その際、914/6とか914-8といったネーミングが用いられていました。この名付け方だと、911に4気筒を積んだら911/4とか911-4などと呼ばれるのがセオリーかと。どうして911に枝番がつくことがなかったのでしょうか。
諸説あるようですが、もっとも有力なのは「912は911の派生モデルでなく独自の設計番号が割り振られていたから」というもので、911(元は901)の直後にファルク博士が設計部に発注した際、システム上「912番」となったというまっとうな理由(タイミングによっては902だったかもしれませんね)。一方の914の枝番については「派生モデル」扱いということで、オリジンの914はそのままにカスタマーカウンターが帳簿整理をしやすいように「/6」と振り分けたとか、「-8」はレース部門が便宜上そう呼んだとか、わりとアバウトなようです。
いずれにしろ、当時は「プアマンズ911」などと不当な扱いを受けていた912ですが、振り返ってみれば356と911のいいとこどりをした好バランスなモデルといえるのではないでしょうか。実際、現在の中古車市場では決してプアマンが手を出せるプライスではありませんからね。
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