この記事をまとめると
■TIME誌が2017年に「史上最悪のクルマ50台」を発表した
前のほうがイケメン? マイナーチェンジで理解しがたい見た目になった国産車トップ5
■クルマに詳しい著名コラムニストの「ダン・ニール」がセレクト
■衝撃を受けるほどの辛口批評をしている
「史上最悪」の名の通り超個性的すぎるマシンがランクイン
いきなり「史上最悪のクルマ50台」なるタイトルを目にしたら、クルマ好きなら興味を惹かれるより、むしろ気を悪くするかもしれません。が、これはアメリカ特有のちょっとしたアイロニー(皮肉)をこめたものであり、読めば筆者ダン・ニールの慧眼やクルマに対する愛情、熱意に胸が熱くなること請け合いです。 この「史上最悪~」が掲載されたのは2017年のタイム誌。ご存じの通りアメリカを代表する有名雑誌ですが、そもそもダンはロサンジェルスタイムスやウォールストリートジャーナルでコラムを担うような逸材で、2004年には「卓越した批評」に与えられるピュリッツァー批判賞も受賞。つまりは腕っこきのコラムニストということ。
しかも、本国のカーアンドドライバー誌スタッフライターや有線放送のクルマ番組に出演するなど、大のクルマ好きときたら「史上最悪」が面白くないわけありません。もっとも、面白さもさることながら修辞学的な行き過ぎから、本人がやり玉にあがることもしばしば(多くは同じ批評家からのやっかみ半分な悪口)。以前、当コーナーでご紹介したピール・トライデントというグラスキャノピーをもったマイクロカーも彼が選んだ50台にランクイン。「太陽光で乗員が生きたまま調理される」などと評されたほか、先代P-50などは「最速のバースツール(バーによくある椅子)」呼ばわり。
50台は年代別に区切られ、1899年製ホーシー・ホースレスなる偽馬車(クルマの先頭に模造した馬の首があるシュールな乗り物)から、2004年のシェビーSSR(GMのレトロチックなトラック、商業的には失敗とされています)までさまざまなジャンルが網羅され、いずれも秀逸な批評が寄せられています。
例えばMGAツインカム(1958年)はダン自身がそれまで乗っていたMG TDに代わって手に入れた「高性能マシン」でしたが、「点火タイミング、燃料オクタン価、回転数の制限など絶対的な献身」が求められたものの、エンジンは不調のままだったようです。数年後に「特定の回転数で共振することで燃料が泡立ち、結果としてピストンが焼き付く」とキャブレターに問題があったことがわかり、「私の鉄ブロック、プッシュロッドの芝刈り機はそんなこと一度も起らなかった」と結んでいます。
同じく1958年のロータス・エリートもランクインしていて、コーリン・チャップマンが選んだグラスファイバー製ボディを「軽量、安価」と称賛しつつ、「とはいえサスペンションマウントがモノコックを打ち抜く」「強化されていないグラスファイバーは歪む」として、「チャップマンのクルマはいつも失敗というオプションが欠かさずついてきた」のだそうです。
さらに1956年のルノー・ドーフィーヌに至っては加速性能があまりにひどかったらしく、「加速は(ストップウォッチでなく)カレンダーで測らねばならない」とか、「横にいると錆びるのが聞こえてくる」「こんなクルマが世界で200万台以上売れたというのは、どれだけヒトがクルマを欲しがっていたかの指標となる」とまで。辛口もいいところですけど、ロード&トラック誌のテストでは0-60マイル加速に32秒かかっていますから、カレンダーというのも無理からぬところかもしれません。
日本で人気だったあのクルマもランクイン!
1975年以降になるとランクインの台数がグッと増えています。レアなところでは1970年代初頭、アメリカの排ガス規制で走れなくなったモーガンプラス8をカリフォルニアの熱心なディーラーがプロパンガスで走るように改造したモデル。こちらは「液化プロパンのタンクがリヤバンパーの上に乗っていて、危険極まりない」と斬り捨て、トライアンフTR7に至っては数々の不具合、仕上げのひどさから「ブリティッシュレイランドの労働者が国の貿易収支を妨害しているかのよう」と述べており、どうやら英国車への思い入れのあるダンらしく、厳しい言及が続きます。
アストンマーチン・ラゴンダ(1976年)は、「鉛筆の箱みたいなデザイン」「機械的には大惨事で、アストンマーチンにとってダンケルク(第二次大戦中、イギリスが敗走した悲劇的な地)にほかならない」「コンピュータによる駆動制御はNASAにだって作れない(ほど難解でダメダメだった)」ためにランクイン。
当然、というべきかフェラーリからもモンディアル8(1980年)が選ばれ「大きくて重い2+2は赤い災害」「矯正歯科医の手が届く安いフェラーリ」とケチョンケチョンですが「最終的にモンディアル8ははるかに良くなった」と気休めのようなフォローも。
また、マセラティ・ビトルボもダンの修辞学が炸裂「ビトルボはイタリア語で『高価なジャンク』を意味します」で始まり、「破産という排水溝を這いずりまわっている絶望的で資金不足の会社の産物」「(ディーラーから送られる)サービスアドバイスを集めたら、グーテンベルクの聖書(ぶ厚いことで有名)並み」で、日本では馴染み薄のクライスラー・ルバロン(このクルマも『たるんだFF4気筒エンジン、敗者専用車』との評価)のバッヂ替えバージョンである「マセラティTC」にも触れ「恥ずかしくないですか?」と酷評中の酷評。膝を叩いて頷く方もいれば、大きく嘆息する方もいらっしゃることでしょう。
とはいえ、これくらいであれば「アメリカ流辛口ジョーク」で聞き流しても良さそうですが、2003年のハマーH2については「911直後に導入されたのは悪い時期」であり「傲慢、巨大、あからさまにアメリカの軍国主義を主張している」また、当時GMがリース事業を展開していた電気自動車「EV1」にとっても、その相反するキャラクターから「PR上の大惨事」としています(結局、GMはEV事業から撤退することに)。こうしたことから、ダンは「H2はGMこそ自動車業界のディック・チェイニー(史上最悪の副大統領として有名)というイメージ作りに貢献した」と結論し、さすがピュリッツァーを受賞する批評家ぶりを見せています。
史上最悪とはオーバーな表現かもしれませんが、しがらみが支配する日本では到底望めないリスト。そういう意味では、ダンの毒舌も、またそれを受け容れる文化まで羨ましく思えてしまうのは、筆者だけではないでしょう。
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