「Hand built in England」で英国の誇りでもあるアストンマーティン。ドイツ製やイタリア製、日本製とは一線を画す良い意味での手作り感・英国風が魅力のアストンマーティンだが、DB11 V8のエンジンは、AMG製V8ツインターボである。それでも、アストンマーティンらしさは、英国らしさは満喫できるだろうか? ジャーナリスト世良耕太がアストンマーティンDB11 V8を試乗した。TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
最近ちょっと、アストンマーティン(Aston Martin)というブランド名に敏感だ。第一の理由はル・マン24時間レースを含むWEC(FIA世界耐久選手権)にアストンマーティンが参戦しているからで、現在進行中のシーズンではLMGTE Proクラスに参戦するヴァンテージAMRを新型に切り替えた。ボディやサスペンションにブレーキ、そしてエンジンやトランスミッションと、大がかりな手を加えて一気にモダンになっている。2018年11月の第5戦上海6時間では今季初優勝を果たした。
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レースつながりでいくと、F1にもアストンマーティンの名前がある。レッドブル・レーシングのスポンサーを務めており、エントラント名はアストンマーティン・レッドブル・レーシングだ。しかし、2019年シーズンを戦うRB15が搭載するパワーユニットはホンダ製で、アストンマーティン製ではない。
にもかかわらず、ASTON MARTINのロゴと、コガネムシの仲間であるスカラベの羽をモチーフにしたエンブレムのほうが、HONDAのロゴとHマークより大きいし、目立つ。タイトルスポンサーなので当然だが、我が物顔だ。
WECに参戦する新型ヴァンテージAMRのエンジンはAMG製4.0ℓ・V8ツインターボエンジンで、量産ヴァンテージが搭載するユニットをベースにしている。今回試乗したDB11のV8モデルもやはり、AMG製4.0ℓ・V8ツインターボエンジンを搭載する。アストンマーティンらしさはどこにある? イギリスらしさは?
と疑問が湧こうというものだが、眺めても触れても乗っても、アストンマーティンであり、イギリス風味にあふれている。そして、ハンドビルドだ。手造りの安っぽさではなく、職人が手作業で作り上げた確かな品質の意味するハンドビルドである。大量生産された包丁と、刃物鍛冶職人がいくつもの工程を経て作り上げた工芸品的価値を備える道具くらいの差が、自動化されたラインで生産された量産車と、アストンマーティンとの間にはある。
「そうなんですよ」と乗り降りするたびに乗員に知らせているのが、サイドシルに貼られたシルバー(アルミ製)のプレートだ。「Hand built in England」と記してある。イギリスらしさを感じさせるステレオタイプな演出なのだろうか、トランクリッドを開けると床にこうもり傘がくくりつけてあるのが目に入る。トランクルーム(彼の地ではブートと呼ぶ)自体の使い勝手もよさそうだ。
インテリアはレザーが標準である。試乗車はブルーとホワイトのコンビネーションだったが、これぞイギリス的な高級感の醸し出しかただと感じたし、クオリティは高い。ドイツがやってもフランスがやってもイタリアがやっても、こうはならない。という意味で、実にアストンマーティンらしい空間である。
トランスミッション(8速ATをトランスアクスルで搭載)のモードセレクトはアストンマーティンにお決まりのボタン式で、センターコンソールの中央、空調ルーバーの下にある。ど真ん中がスタート/ストップボタンだ。深呼吸気味に息を整えてからボタンを押すと、V8ユニットは雄叫びを上げて目覚め、このクルマがハイパフォーマンスカーであることを思い出させてくれた。高級なムードに酔いしれている場合ではない。
「AMGのエンジンかよぉ」と嘆いていた人は、DB11 V8に乗って考えを改めるに違いない。降りたときには、「AMGのエンジン、いいじゃないか」に変わっていること請け合いである。実にいい。ターボエンジンだが、くぐもったような音質は一切なく、抜けがいい。いい音だから積極的に響かせたくなる。いっそ、DB11 V8の最大の魅力は、375kW(503bhp)/675Nmを発生するAMG製の4.0L・V8ツインターボエンジンだと言い切っていいくらいだ。全域でスムーズ、かつ低回転域から扱いやすく、とてつもなくパワフルである。
大磯プリンスホテルを起点に、箱根ターンパイクの中腹で折り返してくるルートで試乗し、箱根ターンパイクまでは西湘バイパスを利用した。DB11 V8の世界観に圧倒されて(?)、気づかなかったことがある。この日はDB11 V8を手始めに5台の輸入車を同じルートでドライブしたのだが、2台目に乗り換えて気づいたことがある。
「西湘バイパスってこんなに継ぎ目があったんだ」と。短いインターバルで道路の継ぎ目が連続する区間があり、音と振動でその存在を知らせてくるのが通常(クルマ側としてはあんまり乱暴には知らせたくない)。しかし、DB11 V8はその存在を忘れさせるほど、乗り心地が良かった(のだと思う。後から振り返ってみれば)。
ダンパーは調整式で、ステアリングにあるスイッチを操作することでGT(デフォルト)、Sport、Sport+の3段階に切り替えることができる。Sport、Sport+に切り替えるごとに引き締まり感は増すが、このクルマが全般的に備える紳士的な印象を損なうほどではない。DB11 V8は「スポーツ」という表現で形容するにふさわしいクルマだが、同時に「ラグジュアリー」であり「ジェントル」である。
ちなみに、純正装着タイヤはブリヂストンのポテンザS007だ。念のために繰り返しておくが「007」である。このチョイス、イギリス人的なユーモアのセンスと勝手に結びつけておくことにする。
アストンマーティンDB11 V8
■ボディ寸法
全長×全幅×全高:4750×1950×1290mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1760kg
駆動方式:FR
■エンジン
形式:V型8気筒DOHCダーボ
排気量:3982cc
ボア×ストローク:83.0×92.0mm
圧縮比:10.5
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:675Nm/2000-5000rpm
使用燃料:プレミアム
■トランスミッション
8速AT
価格○3846万2615円
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