この記事をまとめると
■308として3世代目を数えることになる新型308をプジョーが発表した
A・B・Cと続くが「Dがなく」てE? メルセデス・ベンツの車名に「抜け」がある謎
■プジョーは101から909までの真ん中がゼロの3桁の数字を車名として登録している
■901で発売しようとしたポルシェは認められなかったのにフェラーリ308はお咎めなしだった
101から909までの真ん中ゼロの3桁数字を登録しているプジョー
春先より、日本市場にもついに導入されたプジョーの新しい308。ぼやっとしていると忘れがちだが、「308」というネーミングですでに3世代目に突入しており、フランス本国や欧州では区別する際には「308III」とか、ローマ数字を末尾にかまして世代を表すことになってしまった。まるで革命前のフランスでルイと名のつく王様が、18世代あたりまで続いたように……。
「308」が308でネーミング上では時を止めた理由は、「309」が存在していたことが大きいといわれる。プジョーの出世作にして売れっ子ハッチバックだった「205」と基本コンポーネンツは同じながら、ノッチバックボディに小さなトランクを備えた、あれだ。あちらには後があったのに、今になって後がなくなったとでもいおうか。
プジョーのネーミングは、合理的なようでナゾに包まれていることが多々ある。戦前の自動車黎明期、エンジンにスターターというものがなくてクランクで回していた頃、車名のゼロがちょうどクランク棒を突っ込む穴になっていた、というのは有名な話。そして1930年代、まだ欧州でも登録商標という概念ができて間もない頃に、将来の車名を考えて3桁の101から909までの真ん中ゼロの数字を、プジョーは全部登録したといわれる。第二次大戦でガラガラポンが訪れた1950年代にもプジョーは再度登録したとか。
それで1960年代になって、まだシュトゥットガルトの小さなメーカーだったポルシェが「901」の名で新しいスポーツカーを発表した際、プジョーに嚙みつかれて「911」となった逸話は、あまりに有名だ。
ところが例外は当然、フェラーリ308GTB/GTSだ。21世紀のコンパクト・ハッチバックと丸かぶりすることが1975年の登場時に予想していなかったことも考えられるが、そのため万難を排して901の時はポルシェに噛みついたプジョーが、なぜフェラーリには無抵抗だったのか?
フェラーリには1気筒辺りの排気量をネーミングに使っていたが、1970年代頃は排気量を頭の数字にもってきて後の2桁が気筒数を表す、というロジックとの過渡期だった。365BBか512BB、当初400iが後に412になったりしたのも、そんな理由による。問題の308は1975年に登場。
246ディーノの後継という位置づけで、この頃になるとエンツォ・フェラーリもさして興味のなかったロードカーの重要性を意識するようになっていたといわれる。よって308のネーミングには新しいロジックが適用され、排気量3.0リッターに8気筒エンジン、という意味で真ん中はゼロとなった。
エンツォの愛車とピニンファリーナが暗黙の了解を生んだ?
フェラーリがプジョーに許可を求めたという話も記録もないし、プジョーの側でも許諾したという公式な話はない。なのに、なぜ揉めもせず? というナゾには、諸説ある。
ひとつは、フィアットと合併する以前、エンツォ・フェラーリが1960年代からプジョー404を普段使いで乗っていたという事実。いわばプジョーにとっては顧客であり、文句をいえる筋合いになかったという説だ。もうひとつは、そもそも実用車然としたプジョーと、エキゾチック・スーパーカーの粋であるフェラーリとは、世界観がまるで違うから、真ん中ゼロの似たネーミングでも混同される恐れはないだろう、そんな暗黙の了解があったというもの。互いの領分を認め合っているからこそ、という話だ。
もうひとつ有力なのは、1970年代頃からプジョーはピニンファリーナをデザイン・コンサルタントとして仰いでいた。当然、その顧客にはフェラーリも名を連ねており、各社のお偉いさんレベルが互いに赤の他人であるはずも、仏伊間でワインや食事を挟まない交流などあるはずも、ない。というわけで雑談的紳士協定が結ばれていたことは、ビジネス期間の長さを考えれば確実……というものだ。
その後、1980年代半ばになってプジョーが自社のデザインスタジオから生まれた205を大ヒットさせ、そのカブリオレ・バージョンのリデザインと生産をピニンファリーナの生産拠点が請けたことが、転換点だった。
むしろスーパーカーの領域を侵したのはプジョーの側だ。2004年、プジョーはデザインセンター「ADN(英語でいうDNA)」落成の記念として、V12気筒のスーパースポーツGTコンセプトを制作した。それが907で、大口グリルに攻撃的なとんがりノーズは、初代こと308Iに継承された。手がけたのは当時のスティル・プジョーを率いたチーフデザイナーで1970年代からの生え抜き、故ジェラール・ヴェルテールだ。彼は自分のプライベートチームでル・マン24時間に参戦するほどのカーガイでもあった。
つまり308とは、308Iの当時に立ち返れば、「スーパーカーになろうとしたコンパクト・ハッチバック」。308II、308IIIになってもシュッとした見た目のカッコよさは欠かせない要素で、スーパーカーに文句をいえる立場では全然ない! という一台なのだ。こんな成り立ちのクルマが先代あたりから、あの生真面目なゴルフを越える完成度にまで高められたと評されているのだから、世の中すっかり変わったものだ。
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