■ベントレーとロールス、どっちが好きかと問われれば……
新型コロナ禍に全世界が翻弄された2020年には、取材のためテストドライブをおこなう機会も例年より大幅に減ってしまった。
高級車の車検は高い!は本当か 新車時4000万円「ベントレー」の車検費用は?
それでも「Stay Home」の空白期間の前後に乗せていただいたクルマたちは、最新モデルからクラシックカーに至るまで、いずれもなかなかの精鋭ぞろいだった。
今回は、筆者が2020年になって初めて乗ることのできたクルマのなかでも、とくに印象に残ったものから新旧3台をセレクトして紹介しよう。
●ベントレー新型「フライングスパー」
2020年の第一四半期に初めて運転する機会を得た、ベントレーの3代目「フライングスパー」は、間違いなく「心に残る」素晴らしい1台だった。
これまでの歴代フライングスパーと同じく、ベースとなったのは「コンチネンタルGT」である。こちらも3代目を迎えたGTは、FR由来となるMSBプラットフォーム上に構築されることから、前後の重量バランスが大幅に向上。
ロール角/ロールスピードともに緻密な制御をおこなう48Vアンチロールバーの効力も相まって、まるで良くできたFRスーパースポーツのごとく洗練されたハンドリングマナーを披露する。
そして新型フライングスパーでは、電動式の後輪操舵システムをベントレーとしては初めて採用。この効果は目覚ましいもので、ホイールベース/全長ともコンチネンタルGTより40cm以上も長いのに、タイトコーナーでの回頭性はほとんど変わらず、気持ちよいほどにクイックな動きを、それも極めてナチュラルに体感させてくれたのだ。
新旧ベントレーをこの上なく敬愛する筆者は、今年春に生産を終えた旧き良き「ミュルザンヌ」が大好きだった。だから、その後継車としての役割も背負うことになった新型フライングスパーに対して、いささか複雑な思いを抱いていたのも事実である。
でも、このクルマの洗練されつつも雄々しい魅力が、筆者のちょっと悲観的な想いなどたちどころに吹き飛ばしてくれたのだ。
●ロールス・ロイス新型「ゴースト」
実はこのクルマ、今回の企画の依頼があった時点では、「2021年に乗ってみたい」リストの筆頭にあったのだが、11月末になって突然テストドライブの機会を得たこと、そして予想以上の素晴らしさに感銘を受けたことから、「2020年、心に残るクルマ」へと軌道修正することにした。
これまで筆者は、初代「ゴースト」の上品かつスタイリッシュなドライブフィールを高く評価し、自動車専門誌のインプレ記事でも「クルマとウィンナー・ワルツを踊るかのよう」という、少々難解な比喩表現とともに讃えてきた。
一方、新型ゴーストは4輪駆動化や後輪操舵を採用。さらにアルミ製スペースフレームの採用によって、いわば「クルマとアルゼンチン・タンゴを踊るかのよう」な、よりダイナミックで濃密なドライブを実現していたのだ。
軽々しくないけど軽妙洒脱。かつてのパートナーから、現在では最高の好敵手となったベントレーの「フライングスパー」と対極にあるかにも感じられる乗り味は、今年に限らずこれからもずっと「心に残る」ことだろう。
■435台しか作られなかったレアモデルは思い出の1台!!
●ランチア「フルヴィアHFクーペ」
なにぶんクラシックカーにまつわる仕事の割合が多い筆者は、新型コロナ禍のさなかにあっても旧いクルマに乗る機会は依然として多いのだが、今年乗った中でもっとも魅了されてしまったのが、1967年型のランチア「フルヴィアHFクーペ」だった。
1965年に登場したフルヴィア・クーペをベースに、ラリー競技でのアドバンテージを得るために開発された軽量・ハードコア版として1966年1月に発売。翌年までに435台のみ作られたという、超レアなモデルである。
以前、試乗の機会を得た標準版のフルヴィア・クーペも素晴らしかったのだが、こちらの魅力はもう一枚上だった。
旧き良きランチア独特の狭角V型4気筒エンジンは、わずか80psに過ぎないものの、いわゆる「カムに乗る」回転数に入ると、810kgの軽量なボディがさらにひと回り軽くなったかのような、実に心地よい加速感を披露してくれる。
一方ボディは、時代を先取りした剛性感を披露する傍ら、サスペンションはストロークの長さと有効な動きを感じさせる。しかも往年のランチアの美風として組み付け精度が圧倒的に高いせいか、操作系の感触は非常に上質なもので、ハンドリングはクイックながらも旧い前輪駆動車とは思えないほどにナチュラル。すべてが感動的なフィールを堪能させてくれたのである。
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