小仏トンネルの渋滞構造
中央自動車道(中央道)は、東京都杉並区の高井戸インターチェンジ(IC)から愛知県小牧市の小牧ジャンクション(JCT)までを本線とし、山梨県大月市の大月JCTから富士吉田市の富士吉田ICまでを支線とする路線である。高速道路建設の創成期から構想があり、1967(昭和42)年12月に初区間が開通した歴史ある道路でもある。
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中央道で初めてのトンネルとなる「小仏トンネル」は、東京都と神奈川県の県境に位置する。全長は上り線が2002m、下り線が1642mと、それほど長いトンネルではない。しかし、小仏トンネルの知名度は長さとは別の理由による。それが
「渋滞」
である。小仏トンネルは中央道のなかでも特に休日の渋滞が激しいポイントだ。渋滞情報では頻繁にその名前が挙がる。土曜午前の下り線や日曜午後の上り線は、例年大きな渋滞を起こす。
渋滞の背景には、トンネルの構造的な特徴もある。トンネル内外が上り坂と下り坂を繰り返す「サグ」と呼ばれる地形になっているのだ。さらに、中央道沿線には観光人気地域が多く、季節ごとの景色の変化や旬の食材にあわせた観光需要が交通量を増加させる。
また、中央道と起点・終点がほぼ同じ東名高速道路を迂回する車両や、物流の主要ルートとしての利用も渋滞に拍車をかける。こうした理由から、小仏トンネルの渋滞は長年解消が難しい課題となっている。
こうしたなか、特に渋滞が深刻な上り線では、既存ルートから分岐して再び合流する形の「新小仏トンネル」が建設中である。新トンネルは2015(平成27)年に事業化され、2021年3月から工事が始まった。2025年11月現在、東京側の坑口の貫通が間近に迫っている。新小仏トンネルの開通は、中央道の渋滞緩和だけでなく、広範な交通ネットワークの活性化にもつながると期待される。
小仏トンネルの慢性渋滞
中央道の渋滞は慢性的で、長年、多くの人を悩ませ続けている。小仏トンネルでは、特に休日の交通量が急増する。NEXCO中日本が発表した中央道区間別1日あたりの交通量を見ると、平日と休日では上下線ともに休日が20~30%多い。この構造は30年以上続いており、根本的な解決策は打たれないまま時が流れてきた。
平日の閑散期であれば、小仏トンネル内は制限速度の80km/hで走行可能である。しかし、休日のピーク時には速度が20km/h以下にまで落ちる。つまり渋滞時の速度は通常時の25%以下まで低下する計算だ。この状況が恒常化すると、所要時間の見通しが立たず、交通計画の基礎となる「前提値」が機能しなくなる。
小仏トンネルの渋滞はニュースでも頻繁に取り上げられ、全国的に知られる存在となった。慢性化した渋滞の影響で、
・周辺都市の開発計画
・観光地へのアクセス
・物流のダイヤ編成
などが、渋滞による遅延を前提に組まれるケースが多い。
渋滞緩和による移動効率
小仏トンネル付近の渋滞緩和に向け、建設が進められていた新小仏トンネルの東京側坑口がまもなく貫通する。新トンネルは中央道の既存2車線に付加車線を1車線増設する形で建設されている。今回の貫通により、付加車線の運用が現実のものとなった。
中央道は土日の交通量が平日の約1.2倍に達する。これは他路線よりも高い水準である。首都圏起点の主要高速道路のなかでも、中央道は東京都区間が長く、東京都内のインター数も多い。さらに、東京都以西には観光地やレジャー施設が多く、週末の移動需要が高い。この点を考えると、新小仏トンネルの開通による渋滞緩和は、移動時間の削減によるコスト低減にもつながる。
渋滞は観光消費にも影響する。移動時間が読めないため、訪問を断念する観光地や購入を諦める商品も出る。私自身も、渋滞で断念した観光地やイベントが少なくない。その意味で、新小仏トンネルの開通は観光事業の活性化につながる。物流面でも効果は大きい。
物流業界では、近年、リスクを考慮して余裕ある配送スケジュールや管理体制を構築している。しかし、小仏トンネル付近の渋滞は時間の読みづらさが課題である。特に日曜午後の上り線は大幅な遅延が発生し、通常時よりも所要時間が大きく伸びる。さらに、災害や事故リスクも考慮して運営されている。新小仏トンネルの開通は、渋滞時の追突事故リスクを軽減する効果もあり、間接的に物流リスクの低減にもつながる。
渋滞による沿道影響
小仏トンネルは東京都と神奈川県の県境に位置し、関東平野の西端にあたる。この地点で渋滞が発生しやすいことは、都市開発に影響を及ぼし、地域格差を生みやすくしている。
車を運転する人であれば、渋滞は避けたい存在である。そのため、大渋滞が頻発する小仏トンネルの影響を受けない生活を望むのは自然なことだ。さらに、都市開発の進み具合の差も大きく、中央道では小仏トンネルを境に東側の東京都と、西側の山梨県・長野県・岐阜県で沿道人口に明確な差が生じている。
渋滞は規模や長さにより平均速度への影響も異なるが、概ね50%以下に低下すると、流動人口や商圏吸引力、物流展開速度に顕著な変化が生じる。実際、高速道路を走行して制限速度の50%以下になると、ドライバーは渋滞や混雑を体感するようになる。
新小仏トンネルの開通により渋滞が緩和されれば、平均速度の維持が可能となる。これにより、小仏トンネル以西の中央道沿道では人口増加や観光事業の活性化、企業誘致の促進などが期待される。
車線増設による移動時間安定化
中央道の小仏トンネル以西は、観光事業を政策の柱とする地域が多い。そのため、特に土日は中央道を利用して観光地へ向かう人が増える。平日・休日だけでなく、季節によっても観光客数は変動する。
2023年の山梨県の季節別観光入込客数を見ると、春(3月~5月)は約756万人、夏(6月~8月)は約711万人、秋(9月~11月)は約653万人、冬(1月~2月、12月)は約457万人となっている。春と夏は祭りや花火大会などのイベントが多く、秋はぶどうやももなどの果物が旬を迎えるため観光客が増える。一方、冬はイベントが少なく、気温も低いため入込客は減少する。
従来、小仏トンネルでは観光ピーク時の流動人数が許容量を超えていた。新小仏トンネルの増設により、許容量は拡大する。新たな車線により、旅行速度が1割でも向上すれば、利用者は所要時間を予測しやすくなる。この移動時間の安定は、旅行スケジュールの立てやすさや旅行ストレスの軽減につながる。その結果、観光入込客や中央道の利用者数の増加が見込まれる。
首都圏では時間価値に敏感である。次の電車が5分後に来る場合に、慌てて現在の電車に乗ろうとする人が多いのはわかりやすい例だ。所要時間が安定化すれば、首都圏から中央道を利用して地域へのアクセスが増えることが期待できる。これは、地域経済の活性化という日本経済の政策目標にも寄与する。
郊外横断交通の促進
新設される新小仏トンネルは、トンネルを越えた先で八王子JCTに直結する予定である。ここには明確な狙いがあると考えられる。
中央道や首都圏起点の高速道路は、起点に近づくほど交通量が増える構造になっている。都心が目的地でない人でも、都心を経由して他地域に移動するケースが多いためだ。この交通集中を緩和し、首都圏の郊外間アクセスを向上させるために整備されたのが圏央道である。
圏央道開通後、中央道の圏央道内側の交通量は減り、一定の交通緩和効果が出ている。しかし、東京都区間の渋滞は依然として深刻で、国土交通省やNEXCO中日本は、他路線や一般道の利用を推奨することが少なくない。
新小仏トンネルの圏央道直結は、中央道を通じて首都圏郊外への交通を促す効果が期待される。都心に偏った縦断中心の交通から、横断交通を増やす狙いがあるのだ。全国的にみても既存路線は縦断型が多いが、近年は横断路線の整備が進んでいる。
中央道の交通量の約20%が圏央道に流れるだけでも、中央道の渋滞は大幅に緩和されると見込まれる。ただし、圏央道自体の渋滞も近年深刻化しており、新たな対策も必要である。
相模湖IC付近の付加車線増設
高速道路建設では、周辺の鉄道や一般道との関係も重要になる。中央道の長野県・岡谷JCTまでは、中央本線や国道20号線と並走する区間が多く、これらとの整合性が建設計画の要となる。中央道のインターは国道20号線に接続している箇所も多く、中央道から中央本線が見える場所も少なくない。
今回、中央道下り線の相模湖IC手前2kmにも渋滞緩和のための付加車線が増設される予定である。この場所は小仏トンネル通過後の上り坂で、土日を中心に渋滞が発生する。そのため工事を進めているが、山岳地帯で中央本線や国道20号線が密集しており、施工スペースの確保が難しい。
そこで国道20号線に仮橋を配置し、限定的にルートを変更することで、従来の道路を中央道建設の施工スペースとして活用する政策が進められている。高速道路建設のために周辺一般道が協力するのは、画期的な取り組みである。
日本では限られた土地を活用して道路や施設を建設せざるを得ない。空間的制約で、高速道路の建設が遅延したり困難になったりすることは珍しくない。今回の国道20号線の措置は、中央道の長期的なボトルネック解消に道を開くだけでなく、他路線でも応用できる新たな試行のひとつである。
小仏トンネルの渋滞損失
中央道の渋滞は、ゴールデンウィークやお盆、年末年始など大型連休にピークを迎える。渋滞の規模は日や時間帯で変動するが、最大で約45kmに達することもある。こうなると、旅行や物流、イベントの計画に不確定要素が増える。
小仏トンネルを含む中央道上り線、相模湖東IC~八王子ICの年間渋滞損失時間は約23万時間・台に上る。新小仏トンネルの開通に伴う車線増設で、深刻な速度低下の頻度を最大50%以下に抑えることも可能である。
移動時間が予測しやすくなれば、物流の安定化や配送時間帯の最適化が期待できる。さらに観光業の促進や、季節による観光入込客数の振れ幅の縮小も見込まれる。
老朽化インフラの課題
今後、日本の人口が減少するのにともない、全国の自動車交通量も減少傾向にある。しかし中央道の交通量は、上下線とも最大で20%の減少にとどまる見込みである。
中央道は初区間開通から間もなく60年、全線開通からは40年以上が経過しており、道路や設備の老朽化が懸念されている。特にトンネルや橋梁の改修には莫大な費用がかかる。中央道では2012年12月に上り線の笹子トンネルで天井板落下事故が発生しており、改築や修繕の重要性が高まっている。
現状のインフラ規模では、維持管理コストと渋滞損失時間の削減を両立させるのは難しい。しかし新小仏トンネルの開通による車線増設は、短期的な渋滞対策にとどまらず、老朽化対策を効率化する効果も期待できる。
新小仏トンネルの課題解消
現状の小仏トンネル付近の渋滞問題は、所要時間の延長だけにとどまらない。移動の不確実性や地域格差、物流効率の低下、企業コストの増加、観光需要の偏り、道路や設備の維持管理、鉄道や一般道との空間的制約など、幅広い影響が生じている。
新小仏トンネルが運用を開始すれば、これらの課題を緩和、あるいは解決する可能性がある。効果は中央道にとどまらず、首都圏や日本全体の交通事情に波及することも期待される。
2025年11月現在、東京側の抗口はまもなく貫通であり、今後は神奈川県側の貫通と地上部の道路建設が進められる。近い将来、運用開始が見込まれる新小仏トンネルが、どのような構造で機能するのか注目される。(都野塚也(ドライブライター))
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みんなのコメント
下りになった途端に皆さん速度上がって渋滞消えてるし。
原因ハッキリしてて笑えるわ