直訳すると『ローレルの精神』って車名がすでにヤバイ!?
B12トラッドサニーのプチラグジュアリーモデル
現行スポーツモデルを軽くブチ抜く鉄仮面スカイライン(DR30)! ベストコンディションを保つ実測450馬力のゼロヨン仕様
ローレル・スピリットはサニーの兄弟車として、1982年に初代が登場。日産モーター店で販売されるモデルとして、ちょいと高級志向に振られてたのがサニーとの違いになる。
で、85年にサニーがフルモデルチェンジしてB12型、通称“トラッドサニー”に切り替わると、その翌年8月、ローレル・スピリットも型式をB12Lへと改めた2代目が登場する。それが今回の取材車両だ。
2代目ローレル・スピリットってだけでも、まぁ変態度の高さは相当なもんだけど、コイツはさらにヤバくて、89年5月に行われた最後のマイナーチェンジで追加された“スーパーグランドリミテッド”なるグレード。
1.5Lクラスのクルマなのに、スーパーでグランドでリミテッド…と、あまり深く考えずに「とにかく全部付けとけ!」みたいなネーミングの仕方が、バブル景気を後ろ盾に調子ブッこいてた日産の勢いをある意味、象徴してるように思う。しかも、このグレード、90年1月の生産終了までわずか8ヵ月しか存在しなかった超レアなモデルだったりする。
搭載エンジンは1.5L直4のGA15S。シングルカムなのに気筒あたり吸気2、排気1の3バルブ方式で、燃料供給は電子制御キャブという、新しいんだか旧いんだかよくわからんところがまたソソる。スペック的には85ps/12.5kgmの実用型で、4速ATだけでなく5速MTもちゃんと用意してたのが日産の良心…だと思いたい。
そんなローレル・スピリットスーパーグランドリミテッド、そもそもイニシャルの変態度が群を抜いてることに加えて、希少性の高さまで完備。まさに、“オニに金棒”とは、このことだ!?
実車をまじまじと眺めるのは、いったいいつ以来のことだろう?…つうか、もしかしたら生まれて初めてなんじゃないか!? 言われてみれば、これまで気に留めたことなんてなかったし、それ以前の問題として遭遇する機会すら数えるほどしかなかった…ような気がする。
なもんで、逆に「ローレル・スピリット、よく覚えてるよ~」なんて人は生粋のド変態野郎確定なわけで、たとえ相手がクルマ好きであっても、TPOをわきまえて発言しないと白い目で見られるんで要注意! そう、それくらいローレル・スピリットはキケンでアンタッチャブルなクルマなのだ。
普通に生活してたら、おそらく死ぬまで縁も接点もないであろうローレル・スピリットだけど、フロントマスクはたしかに同年代のC32ローレルっぽく見える。実際、ヘッドライトの縦横比とかがけっこう違ってたりするんだけど、クルマが醸し出す雰囲気には同じ香りが感じられてなかなかイイ線いってると思う。これなら「ローレルの精神」って車名に偽りナシだし、名乗るだけの資格も間違いなくある。
トラッドサニーにはない、ローレル・スピリッツならではの高級感アップアイテムの代表格。ボンネットマスコットと、Cピラーガーニッシュだ。1.5Lモデルで、この装備は違和感ありありだったりする。
純正オプション品だったコーナーポール。実はポール部分に『LAUREL SPIRIT』とロゴが入ってたりする。この凝り方は病的かつ変質的だと思うほど。
これも変態的アイテムといっていい純正フォグランプ。スイッチオンでモーター駆動のカバーが自動的に開き、フォグランプが点灯する。こんなところでも高級感を演出したかったんだろうか?
日産の“N”マークが入ってるし、ホイールキャップは純正…かと思ったら、430セドリック用らしい。ローレル・スピリットは13インチホイール&タイヤが標準だけど、取材車両は1インチアップで175/65R14サイズのタイヤが装着されていた。
まさかの純正マフラー。メインサイレンサーから後方に突き出した、テールエンドの細さと長さが醸し出す情けない見てくれがたまらない。テール径は、たぶん30φくらい…?
さらに、サニーに対しては専用設計の前後フェンダーを備え、メッキモールを使いまくることで差別化。ヘッドライト&フロントグリル周り、リヤコンビランプ周り、ウインドウ周り、サイドモール…と、ちょっとヤリすぎなくらい。そんな高級感の演出の仕方に、かえって痛々しさを覚える人も少なくないハズだ。
一方の内装は、この時代のトレンドだったワインレッド基調。マークII三兄弟が火をつけたハイソカーブームにならっているのは明らかだろう。ダッシュボードの形状やデザインは基本的にトラッドサニーと同じ。ダッシュボードの劣化を防ぐマットは、ステアリング位置の関係から、北米のサニー(セントラ)用を左右反転してつくってもらったワンオフ品だとか。
メーターはスピード&タコメーターを中心に、右側に水温計、左側に燃料系が設けられる。レッドゾーンは6700rpmからだけど、そこまで回すのは根性がいる。
シートは汚れを防ぐため全体にカバーをかけ、その上にハーフタイプの純正レースカバーをかけるという念の入れよう。純正レースカバーは『LAUREL SPIRIT』の文字が入った凝ったモノだったりする。きっとマニア垂涎のアイテムなんだろうけど、ローレル・スピリットのオーナーはどれくらいいるのか…?
ドライビングポジションは完全に実用セダンのソレ。シートリフターで座面をめいっぱい下げたとしても、アイポイントはかなり高い。けど、ボンネット先端まできっちり見渡せるから車両感覚はすんごくつかみやすいし、さらに今どきのコンパクトカーさえ凌駕する4.6mという最小回転半径によって、取り回しの良さは想像をはるかに超越している。
う~む、存在自体はモロ変態の域に達してるのに、クルマとしては至極まっとうな造り…。そのギャップの大きさが、変態グルマ好きの心をかき乱してくれるわけだ。
GA15Sは排気量1.5Lにも関わらず、アイドリング状態でクラッチをつないでもエンストの気配をまるで見せないほど低速トルクが十分。2500~3500rpmあたりのトルク感も申し分なく、日常域での扱いやすさは抜群だ。しかも、これをMTで乗れてしまうなんて、「変態グルマ好きでヨカッタ~!!」と、ひとり感動したことを白状しておこう。
が、MTといってもエンジン特性が低中速トルク型なんで、上まで引っ張っても苦しそうな唸り音が大きくなるだけ。5500rpm以上はタコメーターの針の動きも鈍くなる。ま、早め早めのシフトアップで走りなさいってことだ。
サニーの兄弟車として出てきたまでは良かったものの、その立ち位置がイマイチ理解されず、時代の狭間に消えていったローレル・スピリット。だからこそ今、“変態グルマの王道”を突き進む1台として確固たる地位を築いているのは紛れもない事実なのだ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:B12L
全長×全幅×全高:4285×1640×1385mm
ホイールベース:2430mm
トレッド(F/R):1435/1430mm
車両重量:970kg
エンジン型式:GA15S
エンジン形式:直4SOHC
ボア×ストローク:φ73.6×88.0mm
排気量:1497cc 圧縮比:9.5:1
最高出力:85ps/6000rpm
最大トルク:12.5kgm/3600rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式:FRストラット
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR175/70R13
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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