ドイツの首都ベルリンの人口、361万人。ドイツは、人口2位の都市ハンブルクで183万人、3位のミュンヘンで146万人(いずれも2017年のデータ)となっていて、東京やロンドン、パリなどに比べると首都への一極集中の度合いは低いと言えるでしょう。これは、ドイツが古くから地方分権の歴史があり、現在も州の力が強いからと言われています。
とはいえ、ベルリンも361万人を抱える大都市であることには違いなく、クルマの渋滞や慢性的な駐車場所不足は以前からの問題となっています。今回ご紹介するのは、フォルクスワーゲンの子会社が2019年6月27日から始めた新しいカーシェアリングサービス、「WeShare」。全て電気自動車で運営されているのが大きな特徴です。ベルリンの渋滞緩和の救世主となるのか、今大きな注目を集めています!
カーシェアリングは自動車業界を変えるか?自動車メーカーが生き残る「2つ」の方法
100パーセントEVのみで運営するカーシェアリング
1970年代にヨーロッパで発祥したカーシェアリングは、現在では多くの企業が展開。市民の日常の足として、大都市ではなくてはならない存在にまで成長しています。ドイツの自動車メーカー主導のカーシェアリングとしては、ダイムラーの「car2go」、BMWの「DriveNow」(2019年2月この2社は合弁事業となります)が知られており、どちらもベルリンでは大きなシェアを獲得することに成功。一方で、フォルクスワーゲン(以下VW)はカーシェアリングの参入について、非常に遅れを取っていました。
そこで、VWは「UMI Urban Mobility International GmbH」という子会社を設立。他社との差別化を図り、100パーセント電気自動車のみで運営するカーシェアリングサービスを立ち上げました。それが、今回ご紹介する「WeShare」です。
VWは「WeShare」の立ち上げ以前に、ハンブルクでの電気タクシーサービス「Moia」で一定の成果と手応えを感じており、今回の「WeShare」で「car2go」と「DriveNow」が多くのシェアを獲得しているベルリンに満を持して参入、ということになります。
1500台のe-ゴルフを一挙に投入
使用するクルマは、VWの100パーセントEV、e-ゴルフ。航続距離301km(日本仕様、JC08モード)というe-ゴルフで、ベルリン近郊を大きくカバーします。VWは2019年6月27日に、1500台のe-ゴルフの使用を一斉に解禁。使用料金は1分あたり0.19ユーロ(約22円)で、当初は登録料や使用手数料、さらに空港手数料もなし、ということで非常に好調なスタートを切りました。
▲ベルリンの地図が埋まるほどのe-ゴルフ!
最初は「9月からは0.29ユーロに値上げする」とアナウンスされていたものの、結局12月末まで使用料金は0.19ユーロに据え置き、使用手数料としてレンタル1回につき1ユーロ、となっただけで、空港手数料や登録料は現在も無料のまま!非常にお買い得なサービスとなっています。
登録に必要なのは、スマートフォンと、無料ダウンロードできる「WeShare」アプリ、免許証、身分証明書、クレジットカードのみ。アプリ上で登録手続きも完了します。
e-ゴルフを1500台一度に投入したのも大きな驚きですが、2019年末にはさらに500台の「e-up!」(日本未導入)を、2020年には新型EVの「ID.3」を投入予定としていて、VWがこのプロジェクトにかける意気込みをひしひしと感じます。
ハンブルク、プラハにもサービス拡大予定
VWはベルリンだけでこのサービスを行う気はなく、他社同様、渋滞や駐車場の問題を抱える他のヨーロッパの都市に進出する計画を立てています。2020年にはハンブルク、そして隣国チェコのプラハでのサービスを開始。チェコは、VWの子会社・シュコダのお膝元なので、プラハでのサービスはシュコダと手を組んで行う可能性もあるとか。また、北米VWも興味を示していますが、こちらはまだ具体的な計画や都市名などは発表されていません。
もともと、自然環境保全についてとても意識の高いドイツ。しかし、EVを手に入れようにもやはりネックとなるのが、まだまだ高額な車両価格。ゴルフとe-ゴルフの価格差は、約2倍もあるのが現状です。しかし、今回のようなサービスで、市民が安価にEVを使用できるようになれば、少しでも温室効果ガスの排出や交通渋滞を減らすことになりますし、充電ステーションの増設促進や、ひいては今後登場する新型EVの良いプロモーションにもなります。
来たるEV時代に向けて、着々と準備を進めるVW。100パーセント電気自動車だけで運営するカーシェアリングの登場は衝撃的で、他社も影響を受けることは確実です。ヨーロッパのカーシェアリングは、また大きく形を変えていくことになるでしょう。個人的には、都市の一極集中が進む日本でこそ、こうしたメーカー主導の大規模EVプロジェクト参入の余地があると思っているのですが…。筆者もぜひ利用してみたい「WeShare」、引き続き注目していきます!
WeShare公式サイト:https://www.we-share.io/
[ライター・カメラ/守屋健]
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