新型「CR-V」の日本仕様はFCEV一択に
ホンダのミッドサイズSUV「CR-V」が、新しくなって帰ってきました。しかも、ただの復活ではありません。なんと新型は、パワートレインがFCEV(水素燃料電池)に一本化されたのが最大のトピックです。
【画像】「えっ!…」これがパワートレインがFCEV一択となった新しいホンダ「CR-V」です(30枚以上)
「CR-V」といえば、ホンダにとって最も長い歴史を持つSUVであり、トヨタ「RAV4」や日産「エクストレイル」をライバルとして位置づけてきたモデルです。
かつては日本でも、街中でその姿を頻繁に見かける人気車種だった「CR-V」ですが、正直なところ、昨今はちょっと影が薄い存在でした。
2022年に日本仕様の生産が終了した先代モデルは、広いラゲッジスペースを備えるなどパッケージングがとても実用的で、操縦安定性も驚くほど良好な“いいクルマ”でした。
しかし、北米市場を重視した設計ということもあり、日本人の感覚からするとボディサイズがちょっと大きめ。しかも、価格設定が高めだったこともあり、スマッシュヒットを記録することはできませんでした。
ホンダのSUVというと、いまや「ヴェゼル」が大ヒットモデルとなっていますが、「『CR-V』よりコンパクトで扱いやすく、しかも価格はリーズナブル」とくれば、必然的に「ヴェゼル」の人気が高まるのも当然のことかもしれません。
とはいえ「CR-V」は、グローバルで見ると今なおホンダの基幹車種であることは間違いありません。
北米では、2023年に通年の新車販売台数で36万台を記録。同年の北米における新車販売ランキングでホンダ勢トップとなる6位につけるなど、上位の常連に名を連ねています。
日本ではここしばらく休売となっていたものの、東南アジアなどでは根強い人気を誇る「CR-V」。そうしたこともあり、アジア向けは2022年の後半から、フルモデルチェンジした6代目のデリバリーが始まっていました。
2024年夏、そんな新型「CR-V」が日本市場にも導入されました。しかもパワートレインは、先述したようにFCEV一択。なんとエンジンを搭載するモデルはラインナップしていないのです。
ちなみに、6代目となる新型「CR-V」の海外市場向けは、ガソリンエンジン車やハイブリッド車、さらにプラグインハイブリッド車も用意されているものの、それらの日本市場投入予定は今のところなし。確かに日本での販売ボリュームは小さかったとはいえ、ホンダも思いきったことをしたものです。
ちなみに、日本仕様の製造はかつて「NSX」を組み立てていたアメリカの工場が実施。つまり新型は、輸入車扱いとなるモデルなのです。
●量産車に燃料電池を搭載することでコストダウンも実現
「CR-V」のFCEV版である、日本仕様の「CR-V e:FCEV(イー・エフシーイーブイ)」についてさらなる詳細をお伝えする前に、まずはFCEVについて簡単におさらいしておきましょう。
FCEVを簡潔に表現するならば、“小さな発電所を積んだクルマ”というのが正しいかもしれません。
まず“燃料電池”と呼ばれるユニットが水素と空気を化学反応させて電気を取り出します。これは、理科の実験などで学んだ、水に電気をかけると水素と酸素になる“水の電気分解”とは逆の反応です。
そうして発電した電気を使い、車載モーターを駆動させて走るのがFCEVというわけです。
例えば、日産自動車のハイブリッド機構である“e-POWER”も、ガソリンエンジンで起こした電気を使ってモーターで駆動しますが、そのエンジンが燃料電池と呼ばれる発電機に入れ替わった、と考えれば、分かりやすいかもしれません。
ちなみに、水素ステーションでの水素の充填に要する時間は数分ほど。ガソリンなどの給油と同じ感覚で乗ることができます。
さらに「CR-V e:FCEV」は、外部から充電可能な大型バッテリーを搭載するプラグインハイブリッド車であるのも見逃せません。
発電を担う燃料電池を動かすことなく、つまり充填している水素を減らすことなく、ホンダ車内計測値で61kmほどの距離を走ることができるといいます。これは同じFCEVのトヨタ「MIRAI」には採用されていない機構です。
61kmといえば、多くの人にとっては日常の移動を十分にこなせる距離でしょう。普段は充電した電気を使って電気自動車として走り、それだけではカバーできない長距離移動時は充填した水素を使って充電しながら走り続ける。そんなふたつの顔を持つクルマが「CR-V e:FCEV」なのです。
ちなみに、大型バッテリーの充電にかかる時間は、普通充電で2.5時間ほど。「ガソリンエンジンではなく、水素で発電する発電機を積んだプラグインハイブリッド車」と考えれば、このモデルのキャラクターをつかみやすいことでしょう。
ちなみに、クルマに詳しい人なら、かつてホンダに「クラリティ」というFCEVがあったことを覚えているかもしれません。
「CR-V e:FCEV」はその後継車といえる存在ですが、「クラリティFCEV」が“専用のボディとプラットフォーム”を採用した特別なモデルだったのに対し、ホンダの最新FCEVは「CR-V」という“量産される汎用ボディ”に燃料電池を搭載してきたことも注目すべきポイントです。
実際に触れて試乗してみると“おいしい”部分を多数実感
さて、そんなFCEVのプラグインハイブリッド車である「CR-V e:FCEV」の存在意義は、どんなところにあるのでしょう?
販売計画は年間70台と極めて少ないものの、ホンダには「燃料電池技術をしっかりと後世につないでいく」という明確な目的があります。
一方、リース専用車であるとか、消費税込で809万4900円という価格設定は、政府から255万円という補助金の交付を受けられるとはいうものの(そのため実質価格は550万円ほど)、水素ステーションが少ないといったインフラの問題などと相まって、ユーザー視点としてはなかなか手を出しづらいモデルかもしれません。
しかし、そんな「CR-V e:FCEV」に実際に触れて試乗してみると、“おいしい”と感じる部分がいろいろあったのも、また事実です。
まずこのモデルの最大の魅力は、最先端を所有する満足感です。
今でこそ電気自動車のラインナップは増えてきましたが、FCEVはまだまだ希少な存在。それが実質550万円で手に入るのはクルマの玄人には極めて高い満足度を得られることでしょう(実際にはリース販売なので“所有”できるわけではありませんが)。
しかも、トヨタの「MIRAI」や「クラウンセダン」のFCEVに比べて、扱いやすいボディサイズのSUVというのもポイントです。
そして極めつけが走りの気持ちよさ。パワフルなモーター走行による、速いけれどなめらかでスムーズな、まるで魔法のじゅうたんにでも乗っているかのような乗り味は爽快すぎます。
これはFCEVだからというよりも、モーター駆動車ならではの“味”であるため、パワーにゆとりのある電気自動車も同様の感覚ですが、水素は数分間でチャージできるという美点を持つため、自宅近くに水素ステーションがある場合、電気自動車より所有のハードルが低く感じられる人もいるでしょう。
また、加速時にドライバーの耳に聞こえてくる“音”は、ドライビングプレジャーを感じる上で重要な要素ですが、「CR-V e:FCEV」はアクセルペダルを踏み込むと、モーターの回転速度を変化させるインバーターからの「キーン!」という甲高い音と、燃料電池に空気を送るエアポンプの「クォーン!」という、まるでマルチシリンダーエンジンの高回転域での音が絶妙なハーモニーを響かせるのも好印象。こういう要素は、ドライビングを楽しく感じられる、電気自動車にはない大切な隠し味だと感じました。
ちなみに開発責任者は、「クラリティFCEV」に対して、「雑音を減らして騒がしくない燃料電池の音」、「モード計測燃費と実用燃費の差がとても小さいこと」、「きっちり曲がるハンドリングと高い運動性能」が、「CR-V e:FCEV」の大きな進化点だと教えてくれました。
実際にテストドライブした印象でいえば、そこに「良好な乗り心地」も加えておきたいところです。
もちろん「CR-V e:FCEV」は、水素ステーションが少ないといったインフラの問題に加えて、水素タンクを搭載するというパッケージング上、ラゲッジスペースが狭くなっているという欠点があるのも事実です。
しかし、それらを許容できるのであれば、クルマとしての魅力がとても高い1台であるのは間違いありません。
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