■最近では少額の値引き提示しかなくなった
新車購入の際、契約前に必ず行うといってもいい「値引き交渉」。購入ユーザーはその金額に納得し、新車購入契約をします。その値引き金額が最近ではひと昔前より渋くなったと聞きます。
たしかに筆者(渡辺陽一郎)が数年前に某メーカーのディーラーに足を運んだ際、セールスマンからいきなり大幅な値引き金額を提示されたこともありました。しかしここ最近では少額の値引き提示しかされなくなった印象です。なぜ値引きが渋くなってきたのでしょうか。
乗用車を新車で購入する時に納める自動車取得税額は、登録車(小型/普通車)が取得価格の3%、軽自動車は2%です。取得税額の基本的な計算式は「税抜き車両価格×0.9×0.03(軽自動車は0.02)」になります。
最初に税抜き車両価格に0.9を掛けて取得価格を算出する理由は、実際のクルマ購入では、10%の値引きが発生すると想定しているからです。予め10%の値引き額を控除しておき、その後で軽が2%、普通車が3%の自動車取得税率を割り出すことになります。
しかし今のクルマ購入では、値引きが10%以下の車種も多いです。例えば「ホンダ フィット」や「マツダ デミオ」のようなコンパクトカーで、1.3リッターエンジンを搭載する売れ筋グレードの価格は160~180万円ですが、10%に相当する16~18万円の値引きで買えるとは限りません。
クルマの値引き額は曖昧で、商談の仕方でも金額が変わりますが、値引きの比率が10%に達しない車種も増えています。
仮に10%にするなら、ディーラーオプションを数多く装着する必要があるでしょう。ディーラーオプションは販売店や物流センターで組み付けられ、小売価格には販売会社の粗利が多く含まれて価格が少し高いです。ディーラーオプションではこの多めの粗利を削ることで、値引き額を増額しやすいです。
それにしても、最近の値引きが車両価格の10%に達しない理由は何でしょう。複数の販売店で尋ねると、2つの理由が聞かれました。
■安全装備が充実しても価格を抑えている
一つは「最近は安全装備の充実などによって、クルマのコストが高まっています。そこで販売会社やメーカーの儲けを削り、新車価格が過剰に高まるのを防いでいます。そのためにクルマ販売の利益も下がり、以前のような多額の値引きが困難になりました」といいます。
もう一つの理由では、「以前はメーカーから、いわゆるインセンティブ(販売奨励金)が活発に支給されていました。これを原資に値引き額を増額しましたが、最近は特別な時期を除くとインセンティブが支給されなくなりました。そうなると多額の値引き販売もできないわけです」と説明してくれました。
その一方で日本の自動車メーカーは、北米などの海外市場では、活発にインセンティブを支払っています。インセンティブに頼ったり値引きを増額させる売り方は好ましくありませんが、販売促進の対象が国内から海外に移っているのは事実です。
国産メーカーにとって国内市場の優先順位が下がり、値引きや販売促進のコストも減って、クルマの売れ行きが低迷しています。
日本のユーザーとしては、海外で多額のインセンティブを使うなら、国内で売られるクルマの価格をもう少し下げて欲しいものですが、値引きは商談の仕方で差が生じて不公平ですから、安全装備の充実や環境性能の向上によって高まった価格を是正するのは、日本のユーザーに対して良心的な配慮ともいえます。
ちなみに最近は輸入車(主にドイツ車)の売れ行きが少しずつ伸びていますが、この背景には、国産車とは逆にインセンティブの支給があります。発売から一定以上期間を経て販売台数が下ったり、次期型へのフルモデルチェンジが近づくと、車種によっては多額のインセンティブが日本市場に向けて支払われます。
そのために小売価格が400~500万円の輸入車でありながら、商談の開始直後に「今月のご契約なら、100万円以上の値引きが可能です」という話になったりするのです。これでは値引き比率は価格の20%以上ですから、先ほどの計算式では自動車取得税の納めすぎになります。
■憧れのプレミアムブランドが身近になった?
そこはともかく、400~500万円の輸入車を100万円以上の値引きで売れば、数年後の売却時には買い叩かれます。従って「輸入車はリセールバリューが高い」というのは、もはや昔話になりました。
それでも単純に大幅値引きで安く買って、故障が増え始めるまで10年以上にわたり長く使うなら、リセールバリューは関係ありません。それにより憧れのプレミアムブランドを意外に安い価格で手に入れるユーザーも増えました。
新車購入時に大幅値引きで買うか、少額の値引きで買って高く売るか、一長一短ではありますが、海外のメーカーが日本の市場を重視するようになったのは確かです。逆に国産メーカーが日本を見放すようではいけません。
上級セダンで輸入車比率が高まっている問題にも目を向け、日本での販売促進に積極的な国産メーカーであって欲しいものです。
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