特別なスポーツカーを切望したフォード
頭を屈めて、ステアリングホイールの隙間からタコメーターを確認する。シートの直後で、V型8気筒エンジンが激しく唸りを上げる。鋭く針が回り、回転数の上昇を伝える。路面は軽く濡れているから、解き放つパワーの加減が欠かせない。
【画像】5.7L V8の清楚なプレL デ・トマソ・パンテーラ 同時期のイタリアン・エキゾチック 全149枚
刺激的で、髪の毛が逆立つようだ。デ・トマソ・パンテーラが、積極的に飛ばして欲しいとドライバーへ訴えかけてくる。レッドゾーンまで気張れば、ル・マン24時間レースを走るフォードGT40とイメージが重なる、というのは大げさだが。
クラッチペダルを踏み込むと、一旦加速力が鈍る。ステンレス製のシフトゲートへ沿うように、シフトレバーを動かし次のギアを選ぶ。左足を緩めると、再び大パワーがリアタイヤへ送られ、フロントノーズが持ち上がる。
パンテーラが軽くなったように感じられ、コーナー手前で確実な減速が必要だと認識する。フォードGT40の開発中に命を落とした英国人レーシングドライバー、ケン・マイルズ氏のことが頭をよぎった。
1960年代後半、フォードはブランドを象徴する特別なモデルを切望していた。シボレーが擁するコルベットのように。ル・マンで華々しい成績を残した、GT40の成功を展開できると考えた。
フォードが当初考えたのは、フェラーリの買収。「フェラーリ・フォード」のチーム名でモータースポーツを戦い、そのアイデンティティを継ぐラテン気質の公道用モデルをラインナップすることを狙った。しかし、その目論見は叶わなかった。
フォードとシェルビー、デ・トマソの密な関係性
マーケティング上でのGT40の価値は間違いないものだったが、公道用モデルとして量産することは現実的ではなかった。同時に、フォードの上層部はイタリアン・エキゾチックに対する夢を諦められなかった。
デ・トマソとの関係は、パンテーラ以前から築かれていた。アルゼンチン出身のアレハンドロ・デ・トマソ氏が、同社初の公道用モデル、デ・トマソ・ヴァレルンガへフォード・コルチナ用の4気筒エンジンを搭載したいと考えたのは、1963年だった。
続いて1966年に発表された2番目の公道用モデル、デ・トマソ・マングスタには、フォード製のパワフルなV8エンジンが載った。シャシーは、シェルビー・アメリカンに在籍していた技術者、ピーター・ブロック氏が設計を担った。
その頃には、フォードとシェルビー、デ・トマソという3社の関係性は密なものに。特にフォードの上層部にいたリー・アイアコッカ氏は、イタリアン・ブランドとの強固な協力関係の構築に熱心だった。
そんな折、フォードがデ・トマソへ求めたものが、自社のディーラーで販売できる手頃なエキゾチック・モデル。高価で完璧とはいえなかったマングスタほど、特別である必要はなかった。
マングスタのスペースフレーム構造ではなく、シンプルなスチール製モノコックシャシーをベースにした、ミドシップ・モデルの提案が託された。要求の厳しいアメリカ人ドライバーに応えられる、快適性を備える必要もあった。
イタリア生まれのシャシーにアメリカ製V8
1970年には、フォードがデ・トマソ・グループの株式の80%を取得。グループ内にあったコーチビルダーのギア社とヴィニャーレ社が傘下へ収まる一方で、デ・トマソのトップにはアレハンドロが残った。
アイアコッカの指揮のもと、新しいグランドツアラーはリンカーン・マーキュリー・ディーラーを通じて北米で販売されることが決定。それ以外の市場では、デ・トマソが自由に流通できるという条件が組まれた。
かくして、イタリア生まれのシャシーとボディにアメリカ製エンジンが載った、国をまたいだパンテーラが誕生した。このコラボレーションの核をなしていたのは、351cu.in、5763ccの「ハイ・アウトプット」V8エンジンといえるだろう。
オリジナルは、ボス・マスタング用に開発されたフォード・クリーブランド・ユニットの派生版。オイルショックと排気ガス規制が自動車業界を襲う直前、最後の奔放なスモールブロックだ。
同時期のイタリアン・ミドシップと一線を画す特徴といえ、強い個性を生んでいる強心臓でもある。回転域を問わず、放たれるサウンドは紛うことなきアメリカンV8。アイドリング状態から、ドロドロと近づく人の腹部を震わせる。地鳴りのように。
V8エンジンの充足感 ステアリングは正確
発進させても、V8エンジンの主張は続く。低回転域からトルクがみなぎり扱いやすい。初期のパンテーラは運転しにくいという評判があり、初めは恐る恐るアクセルペダルを傾けていたが、想像以上に手懐けやすい。
ステアリングホイールは丁度いい重み付けで回せ、シャシーは懐が深く、操れるという自信が湧いてくる。予想よりも機敏に身をこなし、運転席からの視界は後方以外なら良好。同時期のスーパーカーより幅も狭く、一般道でも扱いにくさは感じにくい。
タイトなコーナーを結ぶ、ストレートでの加速は最高。調子に乗っていると、アンダーステアで気持ちを正されるが。濡れた路面でアクセルペダルを踏み込むと、低いギアではタイヤが耐えきれない。
ステアリングの反応は正確。適切な侵入速度へ減速すれば、正確にラインを辿れる。ストレートが見え、右足へ力を込めると、野獣の唸り声のような轟音が後方から放たれる。V8エンジンの能力を解き放つという、充足感に浸れる。
1速が横に飛び出た、ドッグレッグ・パターンを持つZF社製のMTは、シフトレバーの感触がタイトで滑らか。スパスパと積極的なシフトアップを許容してくれる。
普段使いしやすそうなフレンドリーな雰囲気を、ストロークが長く、重たいクラッチペダルが濁している。もっとも、エンジンは太いトルクで粘り強いため、3速に入れたまま市街地の交通へ対応できるけれど。
この続きは後編にて。
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