日産+三菱の軽EV量産決定の発表を受けて、市場にはさまざまな声がある。
「EVが手軽な価格で買えるのは大歓迎だ」という賛成派もいるだろうし、「軽は手軽に使うクルマなのだから、充電のことを考えるとわざわざEVじゃなくても……」といった”迷い”派もいるだろう。賛否両論が渦巻く軽EV、果たして売れるのか? いろいろな角度から検証してみたい。
日産初代プリメーラが欧州車を超えたと高く評価された本当の理由
文/桃田健史、写真/日産、平野 学
【画像ギャラリー】日産+三菱の軽自動車EV量産モデルは『IMk』コンセプトをどこまで再現できるのか写真でチェック!!
■軽EV量産モデルの概要
まずは、日産と三菱のプレスリリースの内容を振り返ってみる。今回明らかになったのは、クルマは「軽クラス」であること。ボディ寸法は、全長3995×全幅1475×全高1655mmであること。駆動用バッテリーの容量が20kWhであること。価格が「実質購入価格は約200万円」であること。 そして、発売時期は「2022年度初頭」であることなどだ。
ボディのデザインについては公開されていないが、2019年の東京モーターショーで公開されたコンセプトモデル「IMk」がベースになると予想される。また、モデル名については、ネット媒体各社が商用登録に関する情報から推測しているが、現時点で日産と三菱からは正式コメントはない。
東京モーターショー2019で公開された『IMk』コンセプト。「軽クラスの革新的なEVシティコミューター」と紹介されており、軽自動車とBEVの親和性が試される1台となる
それから「実質的な購入価格」については、中央官庁や地方自治体などの補助金を想定した発想だが、補助額が大きい事業は予算にかぎりがあり、継続性は担保されていないことを承知しておく必要がある。
■航続距離は約200km?
EVと聞いて、やはり気になるのは満充電での航続距離だろう。日産のプレスリリースには「安心して日常で使用できる航続距離を確保」とあるが、具体的な数値の表記はない。量産に向けて、技術的な各種の最終調整を行い、燃費と電費の国際基準であるWLTCモードへの対応を進めており、明確な数値を出す段階ではないのだろう。
一般的に、電費はモーターの出力、車両重量、そして商品企画上のクルマの特性などによって決まるため、日産+三菱の軽EVの航続距離を、現時点での公開情報から駆動用バッテリーの容量を基に正確に割り出すことは難しい。
それでも、ざっくりとしたイメージとして捉えると、リーフのベースモデルが40kWhで航続距離322kmなので、軽EVはその半分の166kmという単純計算になる。
2019年に追加された大容量バッテリーモデルの『リーフe+』。Xが441万7600円、Gは499万8400円、バッテリー容量は62kWhで航続距離はWLTCモードで458km
これにモーター出力や車両重量などの要素を加味して、仮に2割増とすれば193kmとなる。日産と三菱としては、商品のイメージを考えても「200kmの大台にのせたい」という思いが強いことだろう。
だが、仮に航続距離が200kmあったとして、これが日常で安心して使える距離なのだろうか。例えば、デイズのベースグレードSの燃費は、リッター21.2kmで燃料タンク容量27リッターなので、満タンでの航続距離は572.4kmもある。
つまり、軽EVはデイズの3分の1程度しか走れない計算になる。仮に、軽EVが革新的な技術で航続距離250kmを達成していても、デイズの半分以下にとどまる。
■ターゲットユーザーはいったい誰か?
では、軽EVのターゲットユーザーはどういった人か? 結論から言えば、個人ではなく法人だろう。
まず、個人ユースの場合、日本で最も普及しているEVであるリーフからのダウンサイジングは考えにくい。なぜならば、リーフ所有者の世帯年収はかなり高く、生活に余裕があるなかでEVという選択肢を考えるユーザー層だからだ。そのため、リーフ所有者はアリアへのアップグレードを検討する人が多いと思われる。
むろん、セレブ層のなかには、アリアと軽EV、またはテスラモデルSやモデル3と軽EVの複数所有といったケースも考えられるが、これは少数派だろう。
また、コンパクトカーからダウンサイジングでも、一般的な軽を飛び越えて軽EVという人がどれほどいるのか疑問が残る。そして、既存の軽ユーザーにとっても、軽EVはあくまでも「軽クラスのEV」であって、軽自動車という見方をしない人が多くなるのではないだろうか。
結局、軽EVの個人ユーザー層は、今から10年以上前のi-MiEV登場初期と同じような、先進的な技術をいち早く体感したいという「アーリーアダプター」(初期採用層)が主流になると思う。
日産 IMkコンセプトのサイドビュー。ボディサイズは全長3434mm×全幅1512mm、全高1644mm。航続距離200km前後では国内個人ユースに浸透するのは難しい
ただし、i-MiEV登場初期はEVの選択肢がほとんどなかったが、現在は価格に幅があるとはいえ欧州メーカー各社のEVシフトで多彩なEVが次々と登場し、また国内でもトヨタbZ4Xとスバルソルテラが2022年央に発売予定のほか、アウトランダーなど各種の新型プラグインハイブリッド車が登場するという次世代電動車花盛り。このなかで、軽EVの個人ユースがどこまで増えるか見通すことは難しい。
■法人にとっては「待ってました! 」
一方、軽EVが出たらすぐにでも買いたいと思っている企業は多い。その理由は、ESG投資への対策だ。
ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく、エンバイロンメント(環境)、ソーシャル(社会)、ガバナンス(統治、理念)も考慮した投資のことだ。SDGs(持続可能な開発目標)と合わせて検討されることが多い。
ESG(Environment、Social、Governanceの頭文字)。環境問題や社会問題、企業統治に取り組む企業等への投資のことで、軽EV投入で企業イメージアップを狙う
2010年代後半からグローバルでESG投資への関心が急激に高まっており、その影響もありテスラの株価が一気に上がった。そうしたなか、社有車のEV化を検討している企業が多く、電力などインフラ関連企業で作るコンソーシアムでは自動車メーカーと軽EV商用車の量産に向けた意見交換も行われている状況だ。
このように、市場環境を俯瞰してみると、日産+三菱は法人需要がある程度見込まれるうえで、ルノー日産三菱アライアンスのなかで、海外展開も視野に入れた「軽クラス」という名目の小型EVを世に送り出すことになる。
果たして日産+三菱の軽EVは日本国内で何台売れるのか? 2022年度初頭の発売後、その動向をしっかりウォッチしていきたい。
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みんなのコメント
5年乗って終わるような車買うかねぇ