実際には売れていないミライ
text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)
【画像】プリウスも最初から売れていた訳ではない?【ミライとプリウスを比べる】 全114枚
2020年12月、トヨタより第2世代となる新型ミライが発売された。水素を燃料とするFCV(燃料電池車)の第2世代モデルとなる。
価格こそ710万円~805万円と、先代とあまり変わらないが、航続距離は先代比プラス30%の約850kmとなっている。内容が進化しただけでなく、スタイルも洗練された、よりスマートなものとなっている。
しかし、実際のところミライを含むFCVは、ほんのわずかしか売れていない。現在、日本で発売されている国産FCV乗用車は、トヨタのミライとホンダのクラリティ・フューエル・セルの2台のみ。
日本自動車販売協会連合会の発表する燃料別販売台数を見ると、2019年の1年間で売れたFCVは、わずか624台。過去5年ほどでも年間で1000台を超えたのは2016年の1055台だけで、例年は数百台規模に留まる。正直、ビジネスになるとは思えないほどの少なさだ。
では、なぜトヨタやホンダはFCVを作り続けているのか。その理由は明快だ。それは「水素社会の実現」は、日本政府の方針だから。
トヨタやホンダという各メーカーの方針ではなく、日本国の方針なのだ。直近の政府が発表した「第5次エネルギー基本法」(平成30年7月発表)にも「2030年に向けた基本的な方針と政策対応」として「水素社会実現に向けた取組の抜本的強化」とある。
モビリティだけでなく、家庭用や水素発電、国際的な水素サプライチェーン(供給網)、地産地消型水素サプライチェーンでの地方創生などの方針が示されている。また、延期となってしまったが「東京2020五輪での『水素社会』のショーケース化」も計画されていたのだ。
つまり、トヨタのミライや燃料電池バスのソラは、国の方針に則って開発された車両であったのだ。
「水素社会」になると何が良いのか?
「水素社会」とは何かと言えば、石油や電気のように、水素もエネルギーのひとつとして活用する社会となる。では、水素をエネルギーに使うと何が良いのであろうか。
それは、「低炭素化の実現」、「技術による経済発展」、「エネルギー自給率の向上」が挙げられる。水素をエネルギーとして利用するには、「そのまま燃やす」もしくは、「FCスタック(燃料電池)で発電する」という2つの方法が考えられる。
どちらにせよ、そこから二酸化炭素は発生しない。また、水素を再生エネルギーなどの電力から作れば、製造から使用までを通して、CO2排出量ゼロになる。つまり、水素エネルギーを使うほど、CO2排出を減らすことにつながるのだ。
また、水素を電力に変換するために使われるFCスタックにはプラチナ(白金)が使われている。プラチナはジュエリーとして使われるほど高価なもの。だからこそ、いかにプラチナの使用料を減らすのか、もしくは代替材料を見つけるかが、FCスタックの開発の主眼だ。
そして、現在のところ開発はまだまだ道半ば。逆に言えば、トヨタやホンダが低コストのFCスタックの開発に成功すれば、その技術が世界をリードすることになる。つまり、大きなビジネスになるということ。
さらに水素は、電気分解で水から手に入るし、天然ガスや原油からも作ることができる。そして再生可能エネルギーの活用拡大にも可能になる。エネルギー自給率がわずか7%ほどの日本としては、水素を活用することで、エネルギー・セキュリティを高めることにもつながるのだ。
水素の使い方とは?
具体的に水素をどのように使うのかといえば、モビリティの燃料として、そして、再生可能エネルギーの調整用、さらには産業用や施設用が期待されている。
モビリティの燃料として水素は、ミライのような乗用車だけでなくバス、トラック、フォークリフトなどに利用が可能だ。水素は、エネルギー密度が高いため、モビリティに使えば航続距離を長くすることができる。また、電池の充電よりも水素の充填の方がスピーディなため、世界市場では、屋内使用などのフォークリフトにFCスタックを利用することが広まっている。もう実用化が進んでいるのだ。
また、ガスから水素を取り出して、発電と給湯を行う家庭用のエネファームもFCスタックの一種。こちらはすでに、国内の家庭に向けて30万台以上が販売されている。家庭用FCスタックの普及は日本が世界をリードしているといえるだろう。
近年、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが増えているが、そのデメリットも問題視されている。それが発電の不安定さだ。太陽光も風力も計画的で一定な発電が苦手だ。
しかし、その調整弁として水素を利用するというアイデアがある。必要以上に発電したときは、水素を作って溜めておくのだ。また、火力発電などの従来の発電でも、需要を上回るときがある。そうしたときにも水素として溜めておけば、効率的な利用が可能となる。膨大な電力となる系統電源に対応するには、蓄電池では力不足。ところが水素ならば、いくらでも作り置きが可能。日本の電力需給にも水素は大きな貢献が期待されているのだ。
さらに水素は燃やすと、非常に高温になる。製鉄など、これまで化石燃料を使っていた産業に水素の熱エネルギーを使えば、CO2排出量の激減も可能となる。
また、CO2と水素から「eフューエル」という液体燃料を作る方法の開発も進められている。この技術が確立できれば、従来の内燃機関のエンジンがそのまま継続利用することも可能。新たな技術として注目を集めるものだ。
メリットばかりではない?
「水素社会」が実現すれば、未来はまさに夢のように素晴らしいものとなる。しかし、その実現には、まだまだ課題が山積みだ。
モビリティとして利用するにあたっての最大の問題は、プラチナを使うFCスタックの高額さだ。かつてのFCスタックの価格は、ひとつ1億円と言われていた。それが6年前の初代ミライの誕生時には、20分の1、つまり500万円までコストダウンしたと言われた。
さらに2代目ミライでもコストダウンは進んだであろう。しかし、新型ミライの価格も700~800万円。まだまだFCスタックの価格は数百万円という見積もりだ。
ちなみに経産省が2019年に発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、「2025年にハイブリッドカーとの価格差はプラス70万円」とある。つまり、プリウスのクラスであれば、300万円台前半となる。具体的には、次の第3世代のミライが、現状の半額程度になるのが目標ということだ。確かにそれくらいになれば、普通の人にも手が届く価格となる。その2025年でFCVの普及が20万台。2030年には80万台の普及を目指すという。
それ以外にも「水素社会」の実現には、水素の供給体制を整える必要がある。水素をどうやって安く作るのか。そして、どうやって供給するのかということだ。そのため、オーストラリア政府と褐炭ガス化のプロジェクトなど、数多くの施策がスタートしている。
ただし、こうした施策の多くは、まだ始まったばかりのものばかり。「水素社会」が身近に感じられるのは、まだまだ先のこと。いつか来る未来として、楽しみに待つことにしよう。
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みんなのコメント
地中や海中に二酸化炭素を蓄積するという案が出されているが、現実には石油や天然ガスの採掘で効率を上げるために二酸化炭素を流し込むという方法が僅かにされているだけで、他の二酸化炭素の蓄積、処理方法は目処が全くたっていない
将来は有望な市場です。ディーゼルエンジンをどうするかの議論がないので自動車だけで見ると将来はBEVかもしれませんがトラック、トラック、船舶のディーゼルを考えれば将来は有望な市場です。売れないことはありません。