航空自衛隊新戦力図鑑 戦闘機、ヘリコプター、ブルーインパルス……日本の空を守る
Motor-Fan.jpの人気連載「自衛隊新戦力図鑑」。日本を守る陸・海・空自衛隊には、テク…
海上自衛隊新戦力図鑑 潜水艦、イージス艦、輸送艦……日本の海、シーレーンを守る装備【自衛隊新戦力図鑑一気読み】
3年ぶりの松島
2021年8月25日、筆者は常磐自動車道を北上して宮城県東松島市へ向かった。27日と28日にはブルーインパルスの展示飛行が行なわれる。だから26日には本番前の予行としてなんらかの予行飛行(練習)を行なうはず、と考え、前もって25日に現地入り、26日には現場に立つ計画だった。そして、予行や本番に備えると同時に出張期間中には、仙台や塩釜、松島、矢本、石巻や女川あたりまで巡回し「海鮮とお酒」に溺れるという重要なミッションも遂行する予定だった。
まずは「東松島夏まつり」。ブルーインパルスのマザーベース(母基地・拠点)は航空自衛隊松島基地だ。
基地は東松島市矢本(やもと)という街に置かれ、最寄駅はJR仙石線「矢本駅」。東松島夏まつりは矢本駅前から基地までの町内や商店街を中心に行なわれ、インパルスは矢本の街の上空を飛ぶ。
ちなみに矢本の町と町民の方々は当然ながらインパルスを支持する方が多く、夏まつりは実行委員会が主催し、自治体や商工会などが後援、松島基地が協力する体制で行なわれた。
最近開店したという理容室の看板にはインパルスの課目(アクロバット飛行の演目)「サンライズ」をモチーフとしてデザインしたものが掲げられていた。店主にお話を訊くと、なんとパイロットも散髪・調髪に訪れるという。
8月26日、本番を控えた「予行」と思われるブルーインパルスのフライト。3機でスモークを引き、松島基地上空を飛ぶ。8月26日朝、松島基地のインパルス格納庫前に行くと、地元ファンや全国からやってきた方々が予行飛行の離陸を待っている。そのなかには関西地方から新幹線や夜行バスなどを乗り継いで夏祭りや航空祭を見に来た、という女性ファンもいた(インパルスは女性ファンが多いことが特徴だ)。
ちなみに基地航空祭は制限下開催であり、事前申し込み・抽選制となった。基地内へ入れる人、入れないができるだけ近くで見たい人、さまざまな状況で現地を訪れている。
やがてインパルス3機がエンジンを始動、点検を終え車輪止めを外して動き出す。見つめるファンらは手を振り、カメラやスマホなどのシャッターを切る。こうして、格納庫前でパイロットらと交流することはここでは日常的なことだ。
離陸した3機は上空で隊形を整え、松島基地を周回するように飛ぶ。雨雲が低く降りてきており、3機は雲に入って見えなくなることが多い。
イベント期間を通して天気は悪化すると予想されていたが、これでは明日27日の夏祭り本番、28日の航空祭本番も危ぶまれる……。
同8月26日、予行で飛んだ3機が隊形を解いて散開する。アクロ課目「サンライズ」に似た動き。インパルス3機は基地上空への進入方角を変えながら、スモークを焚いて飛行する。スモークを引いたまま基地上空で散開、課目「サンライズ」のような軌跡を見せる。これで明日27日の夏祭り本番では「サンライズ」を見せるだろうとの予測を得た。そして3機とも着陸。予行飛行は短時間で終了した。
歓声が上がり、遅れてエンジンの排気音が轟く
翌27日、東松島夏まつり本番。天気はいまにも降り出しそうな曇天。それにもかかわらず大勢の来場者が感染対策を施して訪れた。矢本駅は朝から混み合っている。駅周辺には多数の露店が軒を連ね、ほうぼうから良い匂いが漂ってくる。
8月27日、東松島夏まつり。矢本の町の北東方角から6機編隊を組んだインパルスが航過飛行(編隊を組んだまま真っ直ぐに飛行すること)。会場地域にはインパルスのカラーに合わせた青色の幟(ノボリ)が立てられ、浴衣など、青色の衣服で訪れた人には抽選で記念品が贈られるとのことだった。その情報を得て取材陣のひとりが、急きょ青色のインパルスTシャツを買おうとしたが、色・サイズともにすでに品切れ。グッズ等購入はまず最初に実行! という鉄則を痛感することとなる。
どうやらインパルスは会場のメインストリートに沿って上空を飛ぶらしい。歩行者天国となっている路上や交差点には「撮影ガチ勢」の望遠レンズの砲列がすでに出来上がり待機状態だ。会場にはインパルスの実況放送ブースが設置され、展示飛行の開始を告げる。松島基地のある東方向から、あるいは北東の方角から、祭り会場上空をスモークを引いてインパルスが駆け抜ける。連写するシャッター音と歓声が上がり、やや遅れてエンジンの排気音などが轟いてくる。
同じく8月27日、東松島夏まつり。会場の東、松島基地の方角から会場上空へ進入、5つの方向に散開する「サンライズ」を見せる。インパルスの飛行開始とともに天気が回復してきた。青空と白い雲の合間に6機の機影がきらめいて見えるようになった。「撮影ガチ勢」は機影を捉えることに熱中し、一方で地元の子どもたちは露店のクジ引きなどに熱中している。青空を飛ぶインパルスは、やはりいいものだと実感できた夏祭りだった。
同27日、東松島夏まつり。飛行を終え基地へ着陸後、インパルスのパイロットは矢本の会場を訪れ、ファンと交流。サイン会などを行なった。明けて28日の航空祭本番は雨だった。しかも、しだいに強くなってきている。当然、雲底(雲の下面)も低く、これではインパルスは飛べないだろう。筆者は士気を下げながら松島基地へ向かった。
ツイッターではすでに基地内に入っている実況者から「天候調査で飛ぶだろう」「地上滑走だけやるようだ」「機体展示は格納庫の中で」など次々とキビシイ書き込みが上がる。3年ぶりの地元開催だというのにこの仕打ち。9月はそもそも不安定な天候時期だったかと思うが……というボヤキが重なる。
8月28日、松島基地航空祭。午前10時過ぎ、インパルス1番機が離陸。松島基地周辺空域の天候調査を目的とするようなフライトを行なった。大気中の水蒸気が帯となって機体から延びている。結局、午前中にインパルス1機が天候調査目的と思われる様子で離陸、基地周辺の空を周回飛行し、着陸した。筆者はこれを潮時と現地を離れた。次の予定地へ向かうという理由もあったのだが、それよりも雨に濡れて寒かったのです。
聞いたところでは、午後に数機で周回飛行のようなフライトを行なったという。課目などアクロバット飛行ではなかったようだが、おそらく、当日の気象状況下で可能なことをインパルスは実施したのだろう。インパルスはコロナ禍での激励飛行などでも知られるように利他的な存在だと再認識した。
帰路にこれを知り、あきらめず粘り強く可能性を探り実行したインパルスと松島基地、そして飛ぶことを信じて待ち続けた熱いファンたちに敬意を抱いた。そして自分の修行の足りなさを自覚したのです。精進いたします。
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