マツダは創業100周年を記念して81年のコンセプトカー「MX-81」をレストアした。今日のMX-30につながる「MX」の名を初めて冠したのがMX-81であり、その名は83年のMX-02を経て85年のMX-03へと受け継がれた。しかしMX-03が前2作と大きく違っていたのは、ロータリーエンジンを積んだということだ。
マツダMXの原点に迫る!「MX-81」フルレストア深堀り。第三章「ついにイアリアでレストアが完成」現代車にはないリヤガラスの形状は必見。1981年の東京モーターショーでデビューしたマツダMX-81。2019年まで広島のマツダ本社の倉庫で長い眠りについていたが、2020年のマツダ100周年に向けてMX-81のレストア計画…motor-fan.jpMX-03が日本のファンの前に登場したのは、1985年の東京モーターショーでのこと。同じショーで2代目RX-7=FC型もデビューした。NDロードスターの開発主査で、その後はマツダブランドのアンバサダーを務めてきた山本修弘は、もともとエンジン設計者。FC型に積む13Bロータリーの量産開発に携わりながら、実はMX-03のスリーローター・ターボも手掛けていた。
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NDロードスターの開発主査として名高い山本修弘は、エンジン設計の出身。若かりし頃にMX-03のスリーローター・ターボの設計を手掛けた。2月10日に50年にわたるマツダ生活を終えて定年退職。マルチローターかターボか? 山本は12Aをベースにスリーローターを設計した。
1973年にマツダに入社し、ロータリーエンジン研究部に配属された山本は、「82年まではモータースポーツ専任だった」という。そして2台の”RX-7 254”と共に82年ルマンに参戦。初代=SA型RX-7をベースに13Bロータリーを積んだRX-7 254は1台が完走し、総合14位を得た。
マツダRX-7 254が総合14位で初めての完走を果たす (1982年)「ルマンから帰ってきたら、『もうレースはいいだろう』と上司に言われ、FC型RX-7の13Bの量産設計を担当することになった」と山本。その一方、ロータリーエンジンの将来に向けた研究も進めたことが、MX-03につながった。
1967年にコスモスポーツの10Aで始まったマツダのロータリーは、70年のカペラで12Aに、そして73年のルーチェGTで13Bに進化。2ローターで自然吸気という基本を維持しながらローターハウジングの幅を10mmずつ広げ、排気量を増やしてきたわけだが、80年代になって新たな発想が必要になっていた。
「ロータリーをパワーアップする方法として、当時はマルチローター派とターボ派がいた」と山本は振り返る。FC型RX-7で採用したのは13Bのターボだったが、山本はマルチローターの可能性を考え、12Aをベースにしたスリーローターを設計した。
「ローターを増やすにはエキセントリックシャフトを分割するか、ギアを分割するかしかない。エキセントリックシャフトを分割する方法を考えて特許を取り、12Aをベースに分割シャフトを作ってスリーローターにした」。かくしてスリーローターの試作エンジンが誕生した。
「それをSA型RX-7に積んで走ったときの感激は、今でも覚えている。1速に入れてスタートしたら、ホイールスピンするほどパワーがある。それでいて緩い坂道を4速でアイドリングから踏み込むと、すーっと上っていく。トルク変動が少ないスリーローターは、スムーズさに抜群のポテンシャルがあると実感した」
RX-7にスリーローターは重すぎる。そこにMX-03が浮上した。
スリーローターの最大の問題点は重量だった。「FC型RX-7は、国内はターボだけだったけれど、アメリカ向けにはNAもあった。将来的にスリーローターとターボのどちらがよいのか? FC型に13BベースのNAのスリーローターを積んで、アメリカ支社で評価してもらったけれど、RX-7には重すぎると言われた」と山本。後のユーノス・コスモはまだ企画もない頃のことだ。スリーローターは行き場を失ったかに思えたが・・。
山本が設計したMX-03のスリーローターターボ。654cc×3のローターリーにツインスクロールターボを備え、320ps/7000rpm、40kgm/3800rpmという高級クーペに相応しい性能を誇った。そんななかで浮上したのが、将来の高級ロータリー・クーペをコンセプトカーとして提案するMX-03のプロジェクトだった。マルチローター派とターボ派の両方の意見を取り入れるかのように、MX-03は13Bベースの 654cc×3のスリーローターにツインスクロールターボを組み合わせた。
「13Bベースのスリーローターで、しかもターボを付けて、というのを我々設計から提案したかどうかは記憶がない」と山本。「でもMX-03のコンセプトを考えたら、スリーローター・ターボにも違和感ないですよね」。なにしろ全長と全幅は、FC型RX-7より二まわりほど大きな高級クーペだ。エンジンの重さはハンデにならない。
「MX-03が完成に近づいて、いよいよテスト走行しようというときにオーバーヒートすると言われて・・。とにかくモーターショーに間に合わせなくてはいけないので、試作現場の人たちが夜を徹して部品を組み替えてくれた。会社で初めて徹夜したのが、このMX-03でした」と山本は懐かしそうに微笑む。
91年のルマンで優勝! マルチローターの夢を実現した787B。
スリーローターが量産車になったのは1990年のユーノス・コスモ。そのエンジンは山本の担当ではなかったが、「分割式のエキセントリックシャフトは、それを組み立てるときに高い精度が必要。量産するには課題のあるエンジンだったので、設計部のなかでいろいろ話はした」という。
当時の山本の本業は3代目=FD型のエンジン設計。シーケンシャルツインターボの13Bだ。1991年発行の『新型RX-7のすべて』にエンジン担当として登場している。そのかたわら、「アメリカからスリーローターでレースをやりたいという話が来て、それをサポートしていた」という。
マツダはSA型RX-7の時代からアメリカのIMSAレースで活躍していた。86年のIMSA GTPマシンのマツダ757はスリーローターを搭載し、ルマンにも挑戦。翌87年に日本車として初のシングルフィニッシュとなる7位入賞を遂げている。
マツダ757が日本車過去最上位となる総合7位でゴール (1987年)「757はスリーローターはまだパワーが足りない。そこで767は4ローターにした。でも勝てない。89年のルマンが終わった翌日、ジョニー・ハーバートとベルトラン・ガショーが『あと100馬力あって、燃費が20%良ければ勝てる』と話したそうです。そこからエンジン設計部の総力をあげて取り組みました」
山本はその事務局を務め、構想を描いた。「100馬力アップというのは、小さな改良の積み重ねではできない。原点に返って4ローターのポテンシャルを最大限発揮するブレークスルーを考えたら、今までは思いつかなかったようなアイデアが出てきた」
熟成した4ローターエンジンでマツダ787Bが表彰台の頂点に (1991年)最高回転数を1万rpmまで上げ、ローターはロストワックス鋳造で軽量化した。90年のルマンは2台ともリタイヤしたが、翌91年に見事、雪辱を果たして優勝。この栄光に至るマルチローター化の原点が、まさにMX-03だったのだ。
インタビューの最後に、山本が1枚の写真を見せてくれた。完成したMX-03を囲む関係者の記念写真だ。デザイナー、エンジニア、試作スタッフなど100人近くがこのコンセプトカーに携わった。
MX-03の開発・製作に携わった方々。中央の黒っぽいズボンの人が当時のデザイン部長の前田又三郎氏で、魂動デザインを牽引した前田育男氏の父親。写真提供:山本修弘氏(退職された方の肖像権を考慮し、解像度を下げて掲載しています)「量産するわけではないけれど、全員が自信と誇りを持ち、達成感を感じていた。皆に一体感があった」と山本は振り返る。近年のマツダのコンセプトカーは、魂動デザインの新たな表現に焦点を当ている。それもコンセプトカーのひとつの在り方だろうが、技術とデザインの総合力で37年前に「将来のマツダ」を問い掛けたMX-03には、もっと大きな夢が込められていたように思う。
最終章となる次回は、MX-03のデザインを深掘りしていきたい。
あわせて読みたい スリーローターの原点「MX-03」をマツダ本社で発掘! 第一章「37年の時を超えて蘇る記憶」
広島・マツダ本社の試作倉庫で眠っていた「MX-03」は、1985年秋にフランクフルトショーで…
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マツダ787Bのル・マン24 総合優勝はトヨタの連勝なんかより遙かに価値がある事も理解出来た