もくじ
どんなクルマ?
ー 新しいデザイン言語にディーゼルエンジン
写真 メルセデス-AMG GT 4ドア・クーペ GT53/GT63/GT63 S ジュネーブ
どんな感じ?
ー 魅力的なインテリアデザインと質感
ー 気になるエンジンや足回りからの振動
ー ルックス重視の20インチはランフラット
ー メルセデスのエアサスらしくない
「買い」か?
ー 幅広い選択肢がゆえの、悩ましい組み合わせ
スペック
ー メルセデス・ベンツCLS 400d 4MATIC AMGラインのスペック
どんなクルマ?
新しいデザイン言語にディーゼルエンジン
わずか1カ月前、われわれは珍しく雪の振ったスペインで、3世代目となった4ドアクーペ、メルセデス・ベンツCLSのテストドライブを実施した。今回はさらに、英国の道路でのパフォーマンスについて、詳しく確かめる機会を得た。
この新しいCLS、英国のディーラーでは3月上旬に販売が開始されている。前回テストしたクルマはトップモデルとなるAMG53だったが、今回はひとつ下のモデル、ディーゼル仕様のCLS400dとなる。
メルセデス・ベンツは、BMWやアウディと異なり、モデルラインナップの中でも最上級クラスにはディーゼルモデルを用意してこなかったが、今回、新しい直列6気筒ターボエンジンの登場で、状況は変化したようだ。
286psを発生するCLS 350dに加えて登場したのが、今回のCLS 400d。339psのパワーと69kg-mのトルクを発生し、0-100km/h加速を5.0秒でこなす俊足ぶり。加えてCO2の排出量や燃費は、出力で劣るモデルとほぼ変わらない数値だという。
このCLSは、AMGや450の48Vハイブリット版と異なり、インテリジェントモーター・オルタネーターを搭載していないが、従来モデルからは大きな変化を受けている。また、今後のメルセデス・ベンツのサルーンやクーペに与えられるであろう、デザイン言語の先駆けとなるスタイリングをまとっている。例えばフェンダーやグリルと分離したアイランド型のボンネット、横長となったフロントグリル、スムーズで緊張感のある面構成などだ。
わたしの目で見ても、格好いいクルマだと思う。今回のテスト車両のボディカラー、ルビーブラック以外の色なら、もっと好印象だったとも感じるが、そのあたりは好みによるところが多いだろう。読者の感想はいかがだろうか。
どんな感じ?
魅力的なインテリアデザインと質感
洗練され、包まれるようなCLSのインテリアデザインは、気にいる読者も多いのではないかと思う。
ヘッドルームに関しては、一般的なエグゼクティブ・サルーンと比較すると、前席も後席も不足気味だが、レッグルームは充分に広い。190cm近い身長のドライバーでも、特に我慢を強いられることなく、適したドライビングポジションを取ることができる。
シートに腰を掛けると、目前には贅沢に装飾が施された美しい内装に、さまざまに変更が可能なデジタルインスツルメントと、オプションとなるけれど一級品の「コマンドオンライン」インフォテインメント・システムが並ぶ景色が広がる。美しいアンビエントライトが埋め込まれているから、昼間の風景よりも、日没後の方が魅力的かもしれない。
たとえば、エアコンのアエベントは、暖気が出ている時は赤く光り、冷気が出ている時は青く光る。しかしそれ以上に、エアベントの立体的なデザインも素晴らしい。メルセデスのように金属を用いているメーカーは珍しいはずだ。
CLS 400dに搭載されているディーゼルエンジンは、マイナーチェンジを受けたSクラス・リムジンで既にテストしているが、ストレスの少ない組合せだった。今回、機械的な洗練度を増したとは言え、Sクラスとは異なるCLSのボディとの相性はどうだろうか。
クルマをスタートさせてみよう。
気になるエンジンや足回りからの振動
メルセデスの直6は、クルージングスピードなら静かだが、BMWのシルキーシックスのようなスムーズさにまでは至っていない。またサウンド面でも、人工的なエンジンサウンドをスピーカーを介して車内に届けている点には、がっかりさせられてしまう。しかも、ドライブモードをスポーティなものに切り替えると、エンジン音も切り替わることも煩わしい。
さらに、妥協を許さないラグジュアリーさが求められるクルマながら、エンジンのザラついた印象が看取され、特にエンジンが低回転している際の振動がステアリングコラムに伝わってしまうのは残念。電子制御される補機類のオン・オフに同期して、アイドリング状態だと不自然なうなり声のようなノイズが、エンジンベイから聞こえてくるのも気になる。
しかし、このエンジンは意欲作であって、現実的に必要となるスピードを与えるのには、充分なパワーとトルクを提供してくれる。
一方で、高速道路の高架や国道へのランプなどを通過すると、タイヤから振動も時折発生してしまう。これは、ラグジュアリーなスポーティ・サルーンに対して、顧客の希望を満たせる、タイヤやホイールのサイズ選択がいかに難しいのかを物語っている。見た目だけでなく、ハンドリングや乗り心地の基準も保たなければならない。
これは最近の課題ではなく、10年近くに渡ってロードテストを通じて触れてきたもの。しかし、自動車メーカーはいまだに解決できていないようだ。
ルックス重視の20インチはランフラット
スタンダードのCLSにはコイルサスペンションが装着されるが、追加オプションでアダプティブ・エアサスペンションも選択が可能で、このテスト車両にも装着されていた。
英国以外の地域では、CLSのAMGラインを選択すれば、19インチのランフラットタイヤが付いてくる。しかし英国の場合、メルセデス・ベンツUKが検討した結果、19インチのノイズキャンセリング機能付きの標準タイヤが選択された。おかげで走行フィーリングも良く、交換も安価に行える。賢明な選択だと思う。
そして、トランク内にはパンク時に備えてタイヤ修復キットが備わる。床下にはスペアホイールも格納されているから、必要なら任意に用意したスペースセーバータイヤに積み替えておくことも可能。しかし、オプションとなる20インチには、ノイズキャンセリング機能付きのタイヤサイズが存在せず、変更できなかったようだ。
今回の試乗車が履いていたタイヤが気になるところだと思うが、派手な20インチだった。この扁平タイヤにエアサスペンションが組み合わされているわけだが、自分で購入するなら、正直に言って、選ばないと思う。
滑らかな路面であれば、CLSの乗り心地はかなり良く、コンフォートモードならエアサスペンションに期待するような、長周期でいなす緩やかな乗り心地が得られる。ステアリングも軽く、路面に動じない感触が得られるので、長距離ドライブも苦ではないだろう。
メルセデスのエアサスらしくない
反して、荒れていたり波打ったりしている路面では、ボディがフワつく感覚になってくるから、スポーツモードを選択した方が安定性は高まる。
ただ、スポーツモードにすると硬さが増す一方で、ラグジュアリー・サルーンとしての基準からすると、落着きや共振面で至らなくなってしまう。コンフォートモードで得られていた快適な乗り心地は消え、簡単に細かな振動を発するようになるのだ。
それなりのスピードで大きなコブや窪みを通過する際、音や振動面で最善を尽くそうとしている努力は感じられるのだけれど。
そしてサスペンションは、大きな凹凸は大体はいなしてくれるが、大径ホイールの処理には苦労している様子。郊外の道でスピードを上げていくと、思いもよらない場面でタイヤが弾かれ、唐突に地面に叩きつけられるような場面がある。
このように見ていくと、CLSはドライバーズカーかどうか、という問いには、試乗車のスペックでは「はい」とは答えにくいのが正直なところ。
ある程度までなら操縦性にも優れ、2tも車重のあるクルマとしては、ステアリングフィールもスマート。4輪駆動としては、充分にバランスの取れたコーナリングも披露してくれる。
しかし、今回テストした荒れた路面では、充分に煮詰められていない印象が残ってしまった。コンフォートモードが備わるエアサスペンション付きのメルセデスとしては、残念な仕上がり。このエンジンとサスペンション、タイヤの組み合わせでは、超距離もこなせる洗練されたクルーザーとして納得できるクルマだとは言いにくい。
「買い」か?
幅広い選択肢がゆえの、悩ましい組み合わせ
CLSは新ジャンルを開いたラグジュアリー・グランドツアラーでもあり、さらに詳細なテストを行う予定もあるから、最終結論はまだ出さないでおきたい。
そして今のところ、このカテゴリーにおいては、現在販売されている他のモデルを選択しようとも思わない。CLSの購入時に、選択するオプションの組合せを吟味する必要があるとしても。
そもそも、オプションの組み合わせに関しては、2万ポンド(300万円)ほどで買える高性能なコンパクトカーでも言えることではある。
CLSのさまざまなエンジンやサスペンションの組合せの中で、もっとも洗練され、快適で、長距離も楽にこなせる「理想のベンツ」がきっとあるはず。運転も楽しく、見た目もエレガントな1台。しかし、今回のテストを踏まえると、かなり慎重に選ぶ必要があることがわかった。
強力なディーゼルエンジンは否定しないが、20インチタイヤと、もしかするとエアサスペンションも、選ばない方が良いということになるだろう。
メルセデス・ベンツCLS 400d 4MATIC AMGラインのスペック
■価格 4万6810ポンド(702万円)
■全長×全幅×全高 ―
■最高速度 249km/h
■0-100km/h加速 5.0秒
■燃費 16.9km/ℓ
■CO2排出量 156g/km
■乾燥重量 1935kg
■パワートレイン 直列6気筒2925ccツインターボ
■使用燃料 軽油
■最高出力 339ps/4400rpm
■最大トルク 71.2kg-m/1200-3200rpm
■ギアボックス 9速AT
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