GRスープラののRZグレードに、6速MT車がこのほど新規設定された。
新開発の6速MTはコンピューターがドライバーのクラッチ、シフト操作に合わせて、最適なエンジン回転数になるよう制御するiMTを採用。シフト操作時に自動ブリッピングしてドライバーの意を汲んだスムーズで気持ちのいいスポーツ走行に貢献するものだ。
風前の灯火……だが、3ペダルMT車が細々と残っているワケとは? MT車好きの安東アナが熱弁!!
今年登場した新型フェアレディZにも6速MT車が設定されており、選択肢は少ないながらも残されている。もはや好事家向けとなってしまった3ペダルMT車だが、残されている理由についてMT大好き安東アナウンサーが熱くエールを送る!
文/安東弘樹、写真/安東弘樹、TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA
■MTモデルは復権してきたのか!?
2022年4月の一部改良でRZグレードに新たにMT設定が追加されたトヨタ GRスープラ(写真は特別仕様車のRZ “Matte White Edition”)
まず挙げられるのが、「もう買えないかもしれない」という危機感はあると思います。
人間の心理とは不思議なもので、「いつかは手に入る」と思える物は実際には買おうとはしないものですが、二度と手に入らないかもしれないと思うと、「では今のうちに買っておこう」というのが人情というものでしょう。
さらに最近の若いドライバーはYouTubeなどで情報を得たり、同じクルマ好きのユーチューバーさんに影響を受けたりしますので、それも理由のひとつだと私は考えています。
■クルマをMTを自然体で楽しむ
私の好きなユーチューバーさんはいわゆる、ローバーのオールドMINIに乗っていて、MINIを存分に、しかも自然体に楽しんでいるのですが、それがMT車のMINIなんです。
しかも「MINIはMTでしょう!」と気合が入っている訳ではなく、気に入ったMINIがたまたまMTだったので、それに乗っているという雰囲気なのです。
しかも自然に、気楽に、しかもスムーズにMTを運転していて、実に楽しそうです。
ちなみに年齢は30歳前後で、やはり自然体で綺麗な奥様とふたりのお子さんも、このMINIが大好き。観ていて自然と笑みがこぼれます。
私の年代ですと、「昔はMTじゃないと女性にモテなかった」、とか「スポーツカーをMTで駆ってこそ、クルマ好き!」という肩肘を張ったドライバーが多かったと記憶しています。
が、最近の特に若い方は自然に「MTの運転が楽しそうだから」という風に思い、限定解除してMTに乗り始めるといった方も増えて、じゃあ何を買おうかとなった時に古いMINIなどの輸入車やマツダ ロードスターなどの、比較的気楽に乗れるオープンスポーツカーを選んだりする方が多い印象です。
■運転するという行為そのものが好き
私は頻繁にクルマ系ユーチューバーさんの動画を観て楽しんでいるのですが、私の年代では珍しく、チューニングしたバリバリのスポーツカーやスーパーカーなどの「オジサン系?」ユーチューバーよりも、ゆったりと古くて小さいMTのクルマに乗って、各地を運転して巡っているような方の動画を観るのが好きなんです。ですので、特にそんな風に感じているのかもしれません。
私自身、ずっとMTの運転が好きで最近はサーキット走行も楽しむようになりましたが、女性にモテようと思ってクルマを選んだことはありませんし、肩肘張ってMTを選んだこともありません。
ただ、その行為が好きで好きでたまらないので、少なくともスポーツできるクルマや小さめのクルマを選ぶ場合、自然とMTのクルマにしか興味が湧かなかった、ということです。
■メーカーとして「MTを推す」最後のチャンス!?
新型日産 フェアレディZ。試乗では9速ATの評判が上々だが、もちろん6速MTも設定
別に若ぶるつもりはありませんが、お酒も飲めないので「とりあえずビール」もなじめなかったですし、バブル期でもブランドものの服にも興味はなかったですし、クルマの運転をひたすら楽しんでいただけですので、最近の若い方の価値観にも何も違和感を覚えません。
クルマ離れも、これだけ経済的な負担が大きかったら、そりゃ乗れません。ましてや、若い方はクルマで女性にモテようとも思いませんし、実際に、少なくとも都市部では女性にとってクルマに訴求力はないですから(笑)。
ですから、ここにきてのMTの復権は、以前からクルマ好きであるオジサンたちが、「ここで買っておかないとあの楽しさを味わうことができなくなる」という危機感を持っていることにメーカーが気付いて最後の花火を上げてくれているという側面がまずひとつ。
また、ある程度若いユーザーには、「実はMTの運転というものにはクルマを操る根源的な楽しさがあるんですよ」という提案ができる最後のチャンスにメーカーがかけている、という側面の二通りがあると私なりに想像しています。
■近年のMTラッシュはメーカーからのプレゼント
私にとってMTの運転は楽しい、というのが当たり前すぎて、むしろ、これまでなぜメーカーもユーザーに訴求してこなかったのか不思議でしたが、やはりなくなってしまう、という危機感でもないと、選択肢に上がらないという判断は正しかったのかもしれません。
ですからトヨタは、もはや自社のみで大パワーエンジンに組み合わせるMTは作れなくなっており、今回のGRスープラのMTはBMW M4用のギアをトヨタが味付けしてスープラに載せているということです。それでも大歓迎で、トヨタからの大きなプレゼントと私はとらえています。
また、日産の新型フェアレディZのMTは自社製で、気持ちのいいシフトフィールでした。しかし、「もう少しスポーツカーらしくシフトストローク、またクラッチのストロークも短めのほうが嬉しかった」というのが私の感想でした。
が、これも、このスペックのエンジンだと世界的にもMTのモデルを探すのは苦労しますので、日産からの最後の? プレゼントと言っていいでしょう。
この2台は私と同世代か、それ以上の、最後にMTのクルマを買っておこうというユーザーにフィットするでしょう。
■ロードスターを凌駕するシビックのMTフィール
ホンダ シビック。「ペダルレイアウトが完璧なうえに1.5Lのターボエンジンはトルクフルで、MTで操る最高のスポーツカー」とアンディも絶賛
そして、そのどちらのユーザーにも刺さるのがホンダのシビックのMTモデルだと私は考えています。
正直、それまで日本車では一番のシフトフィールだと考えていたマツダのロードスターを凌駕するフィールに、驚愕と歓喜を禁じえませんでした。
ロードスターはシフトフィールこそいいものの、ペダルレイアウトが外側に偏っており、若干、運転姿勢が窮屈だったのですが、シビックはフィール、ペダルレイアウトが完璧なうえに1.5Lのターボエンジンはロードスターの1.5LNAよりトルクフルで、MTで操る最高のスポーツカーでもあったのです。
■近年稀に見る多さのMT選択肢!!
日本メーカーのクルマでいえば、価格もロードスター<シビック<フェアレディZ、GRスープラとみごとにMTモデルがラインナップされており、各々の志向のドライバーに選択肢がある、久しぶりの状況です。
おそらく、このような贅沢な状況は本当に最後だと思いますので、もしMTを操る快感を新車で味わいたかったら、このご時世にこんなことを申し上げるのははばかれますが、あえて言います。今、無理をしてでも手に入れるべきだと思います。
クラッチを踏んでシフトレバーを各ギアのゲートに入れ、加速時と減速時に、各々アクセルを踏んで回転を合わせてクラッチを繋ぐ。こんな楽しい作業は少なくとも私はほかに知りません。そのことに気づく、また思い出す人が多くなっているのは自然なことだと私は思います。
そして、それに応えてくれるメーカーが絶滅していなかったことを喜ぼうではありませんか! 何よりその喜びを知った人がいるかぎり、EVになっても形を変えてMT車は残ると私は信じています。
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