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1928年式フォード・モデルAで2万kmの旅 オーストラリアから英国へ 後編

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1928年式フォード・モデルAで2万kmの旅 オーストラリアから英国へ 後編

景色の美しい場所で質素なキャンプ

インドではキャンプに適した場所を探すのに苦労したが、地元の人が遠くから見守ってくれているようだった。茂みにトイレ用の穴を掘る時は、少し厄介に感じたけれど。

【画像】1928年式フォード・モデルAでの旅の様子 同年式のアミルカーC6も 全44枚

フォード・モデルAでハイウェイを走り、3人は北上。徐々に気温も下がっていく。筆者の妻、ヤンは、入手できる現地の食材からアレンジ料理を作った。景色の美しい場所を選び、質素なキャンプを楽しんだ。

インドのほか、アフガニスタンなどでも肉は買えたものの、常にハエが飛び回り、持ってきた圧力鍋のありがたさを痛感した。大体の市場では卵とトマトを入手でき、それにも助けられた。

パキスタンへの途中、インドを西に抜け、ムンバイとアフマダーバードへ立ち寄った。そこでは親切なヒンドゥー教一家と出会い、家へ招いてもらった。友人から教えてもらった家族で、そのタイミングでひどい下痢に襲われた。

胃腸がインドの水に慣れた頃、タージ・マハルを見るために北部のアーグラで数日間を過ごした。そこでは、オープンしたばかりのホテル・オーナーと友人になり、ゲストとして招待してもらった。

インドでは、薄暗いバンガローに宿泊することもあった。旅行者やビジネスマンが滞在できるよう、英国によって建設された小さな宿だ。単純な建物で、掃除しやすいように壁や床も硬くシンプルだった。

パキスタンまでの道は比較的走りやすかったものの、困らされたのが、荷台を引く牛が道を蛇行しながら歩くこと。牛飼いは、居眠りしているようにも見えた。

アフガニスタンの大使館での出会い

さらに西へ進み、アフガニスタンとの国境、ハイバル峠へ。東部の首都、カブールをモデルAで目指した。そこで10日ほど滞在し、英国大使館で英語教師をしているというカップルを紹介してもらった。

彼らはとても親切で、夜を明かす部屋を貸してくれた。年代物のステーションワゴン、ヒルマン・ハスキーでアフガニスタン北部を案内してもくれた。

その頃は、インターネットも携帯電話もない。英国やオーストラリアの大使館を訪問することが、唯一、旅の途中で郵便物等を受け取る手段。心配する両親から、しばしば手紙が送られてきていた。

同時に、冒険好きな若者や外国人と出会える場所でもあった。その国や隣国に関する有用なアドバイスをもらえる、貴重な機会になった。

アフガニスタンでは、手持ちの英国ポンドや北米ドルを、闇市場で現地通貨に両替した。特にポンドとドルは強く、カブールでは公式レートの3倍前後で換金してくれることもあった。

モデルAには、クルマの越境に必要な国境通過許可証、カルネを載せていた。パスポートと同じように、入出国時に国境でスタンプが押されるものだ。だがアフガニスタンではカルネが通用せず、手続きに相当待たされた。

南部のカンダハールまでの道は整備が不十分で、多くの橋が水で流されていた。480km進むのに、3日間も要するほど。それでも、立ち寄る町では焼きたての美味しいパンと野菜、肉、バッファローのバターが手に入った。圧力鍋が胃袋を満たしてくれた。

約半年でロンドン・タワーブリッジ前へ

砂漠を超えて西へ進み、イランに入国。国境の警察署で2日間過ごした。ビザ発給までの間、身の安全を守るための措置だった。

イランを北上し、雪で覆われた山々を抜けてカスピ海へ。そこでは、沢山の砂糖が溶かされた紅茶と、トルココーヒーが待っていた。道端にある大抵のカフェで楽しめ、美味しく、英気を養える飲み物になった。

トルコから南のイラクとシリアへの入国も考えたが、国境紛争で不可能。そこでギリシアへモデルAを進めた。岩が露出した丘にテントを張り、ラムシチューを煮た夜が思い返される。そこで、野生のタイムを摘んだ。

スロベニアやクロアチアが属していた当時のユーゴスラビアでは、果樹園のそばでキャンプをした。彼らは、搾りたての新鮮な牛乳を分けてくれた。

かつての西ドイツでは、ミュンヘンでソーセージとビールを味わった。そこからロンドンへは、至って容易なクルマ旅になった。

すべてが順調に進み、1963年6月1日、タワーブリッジ前のテムズ川を横断。2階建でのロンドンバスと真っ黒なロンドンタクシーを見て、歓喜したことは忘れがたい。これまでの人生で、最も強く記憶へ刻まれた半年間になった。

1928年式フォード・モデルAは、ブレーキの効きが悪かったものの、素晴らしい結果を残してくれた。平均燃費は6.4km/Lほど。同行した友人のジョン・ダルトンも、英国南西部、ウィルトシャーの実家へ無事に送り届けることができた。

故障はオーターポンプとドライブシャフト

インドではオーバーヒートに悩まされたが、北上とともに徐々に解消。大きな故障は2度ほどで済んだ。まず発生したのが、ウオーターポンプの不調。ローラーベアリングが用いられたアップグレード品だったが、振動でガタが出たようだった。

インドのムンバイにある大きなフォード・ディーラーへ持ち込み相談すると、1時間ほどで近くの部品販売店から新しいポンプを用意してくれた。そのポンプは、今でも元気なフォード・モデルAを冷やしてくれている。

もう1つが、リア・ドラブシャフトの結合部分の溝がすり減ったこと。欧州に入り、オーストリア・ウイーンでのトラブルだった。地元のフォード・ディーラーへ持ち込むと、喜んで修理してくれた。

その間、モデルAはディーラーの店先へ誇らしげに展示されていた。ホイールスポークのハブにヒビが入ったものの、それは溶接で補修した。

食事やガソリン、宿泊などにかかった費用は、当時で1人当たり800オーストラリア・ドル。約2万kmに及ぶクルマ旅は、とてもチャレンジングなものではあった。危険な場面もあったが、不思議なことに毎回、無事に克服することができた。

自由に海外旅行も許されない時代だからこそ、若かりし頃の冒険が蘇ってくる。もう一度あの頃へ戻って、挑戦してみたいものだと思う。

執筆・撮影:Wal Hunter(ウォル・ハンター)

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