ベントレーの新型「ベンテイガ」に今尾直樹が試乗した。新旧を比較した印象は?
手がくわえられた内外装
ドゥカティ パニガーレ V4S試乗──速さだけでない、快適さまでも備えたスーパースポーツ
「こっちのほうがぜんぜんいい。むちゃくちゃスムーズ。トランスミッションもいい。ステアリングもプリサイス(正確)だし、姿勢制御もしっかりしている。別のクルマです」
新旧のベントレー・ベンテイガV8を試乗し終えたスズキ編集長はこういって新型を絶賛した。
「シフト・プログラムもよくなっている。そこは外を走って確かめたかった」と、付けくわえたのは、今回の試乗が日本自動車研究所の城里テストセンター内にある外周路のみという条件付きだったからだ。なんとなれば、試乗車にはナンバーがついていなかった……。
Hiromitsu Yasuiさる6月30日にイギリス本国で発表された新型ベントレー・ベンテイガV8の注目ポイントは、1にも2にも外観である。Aピラーから先のフロント部分と、リア・ゲート周辺のボディ・パネルがそっくり取り替えられた。これまでのベンテイガが「アルナージ」、「ミュルザンヌ」系だったとすると、新型は「コンチネンタルGT」と「フライングスパー」とのデザイン言語の共通化が図られ、グッとダイナミックでスポーティになっている。
具体的には、フロントのグリルはより垂直にそそり立ち、その分、ボンネットを長く見せている。なんとなくではなくて、完璧にクリスタルなガラスをイメージしたLEDマトリクス・ヘッドライトは、円形から、ベントレー初の楕円形になり、これまでより外側の30mm高い位置に移動している。楕円化により、静止していてもスピード感がある。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiサイドはリアのスポイラーを長くすることで、ボディ全体をより長く、視覚的に低く、エレガントに見せている。ホイールは21インチが標準だけれど、オプションの22インチもデザインが5種類も用意されている。
リアは、テールライトがコンチネンタルGT同様の薄いアーモンド型となり、ボディ側固定タイプからテールゲート埋め込みタイプに変更。合わせて、テールゲートの表面に凹みがつくられている。リアのトレッドを20mm拡大し、後輪とボディ・サイドと面一にすることで、わずか20mmの違いではあるけれど、シャシーとボディのブカブカ感が消えている。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui全長×全幅×全高=5125×2222(ミラー含む)×1742mmという新しいボディの寸法は、旧型より25mm短くて、13mm低くなっている。数値は親指のツメの長さほどしか違わないのに、視覚的にはそれ以上に、より低くて、よりワイドで、よりスポーティに感じる。この躍動感が新しい顧客のハートをワシづかみにするのではあるまいか。
インテリアにも手が入っている。センターフェイシアとベントレーが表現するダッシュボード中央の、伝統のブルズアイベント、○型に横2本のバーが入った、新型でもダッシュボードの両サイドに残っているエアコンの吹き出し口が配され、新たにベントレーの羽のマークを模したカタチに変更された。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiベントレーのマークの反復により、その世界観をより色濃くしているだけではなくて、エア・ベントを上下に薄くして、大型化したインフォテインメントのタッチスクリーンを置くという機能上の理由もある。
メーターはフルデジタル化されている。ドライバーにとって大きな違いは、ステアリング・ホイールが若干スリム化されたことかもしれない。細いグリップは、繊細さを感じさせる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui新旧の違いとは
パワートレイン、シャシーについてはとくに発表されていない。ボア×ストローク=86×86mmの排気量3996ccのV型8気筒ガソリンツイン・ターボの最高出力、最大トルクはそれぞれ550ps/6000rpmと770Nm /1960-4500rpmで、従来通り。最高速度290km/h、0-100km/h加速4.5秒も従来通りである。
Hiromitsu Yasuiさらにいえば、リアのトレッドが20mm広がっている以外、エア・サスペンションも、オプションのアンチ・ロールバーの電子制御システムについてもとくに言及はされていない。
2015年の発売以来、ベンテイガは英国のクルー工場で2万台以上がつくられるヒット作となっている。日本には2016年に上陸し、2020年6月末までに695台が販売されている。
Hiromitsu Yasuiベントレーによると、オウナーの4人にひとりは女性で、平均年齢は45歳と若く、74%のベンテイガはほぼ毎日、街で運転されている。子供ひとりを後席に乗せて週1回以上運転するひとが半数近くいる。買い物、旅行、通勤が、最も多い使用用途で、ベンテイガは水深500mmの渡河能力を持っているけれど、オウナーにとってはオフロードのポテンシャルが感じられることが重要という。
動力性能に関して、オウナーからまったく不満の声が出ていないということなのだろう。
Hiromitsu Yasui筆者も今回、旧型で外周路を全開走行してみて、その高速性能の高さに一驚した。200km/h以上の高速テストなぞ、滅多にない機会だと思い、長いストレートでしゃかりきにアクセルを踏み込んだ。
ポルシェ「カイエン・ターボ」とも基本を共通とするV8は、ごく控えめに咆哮をあげ、200km/hまで、なんとも優雅に加速し、さらにその加速を続けようとした。全長5.5kmの周回路のさらに外側に設けられた外周路のゆるやかなコーナーが迫り、筆者はブレーキ・ペダルを踏み込んだ。22インチの巨大なホイール&タイヤを履く、車重2.5トンのベンテイガV8はなんとも優雅に減速し、今後、旧型とか前期型、あるいはマーク1とかと呼ばれることになるであろうこれまでのベンテイガV8だって、超高性能であることを確認した。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiでもって、今後3代目が登場すれば、もしかしてマーク2と呼ばれることになるかもしれない新型は、そういわれると、たしかに動き出しのときとか、ステアリングが軽くなっているし、エンジンを原因とする低中速域の共鳴音もいっそう静かになり、リアのトレッドが20mm拡大したことによるレーンチェンジの安定感が増して、クルマ全体の動きがより無駄のない、スッキリしたものになった。エンジン音が心持ち、ドラマチックになっているような気もする。全体に洗練されたことは疑いない。
ただ、その違いは、たとえばブラインド・テストで当てられるレベルかと言うと、筆者にはまったくもって自信がない。あるひとにとっては、ボルドー赤の1999年と2000年はまったく別のワインかもしれない。けれど、筆者のような雑駁な人間はどちらもおいしいと判断するのではあるまいか。
Hiromitsu Yasuiその上で新型は、グッとモダンで、かつエレガント、スポーティで、しかも軽やかなカタチを得た。もしも目の前に旧型と新型があって、どちらかお好きなほうを、といわれたら、筆者は迷うことなく、おことばに甘えまして新型をいただきます。
価格は2142万8000円。日本へのデリバリー開始は年末を予定している。願わくは、その頃には新型コロナウイルスもすっかり終息していて、もらった新型ベンテイガV8で買い物、旅行に行きたいものである。
GQが試乗会に参加した8月12日には、12気筒のベンテイガ・スピードも本国で発表になっている。こっちでもいいです。
Hiromitsu Yasui文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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