ドイツ発のワゴンたちがこれほど世界的に定着した所以のひとつに、この2台の存在は決して小さくないだろう。ブランドの“らしさ”を追求し続けてきたからこそ、見い出せる魅力がそこには必ずある。今回はそんな思いで、2台を連れ出してみることにした。(MotorMagazine2024年10月号より再構成/文:河村康彦/写真:永元秀和)
試乗モデル概説:フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアントTDI Rライン
2021年に日本に上陸した現行ゴルフヴァリアントは、ハッチバックモデルとともに2024年7月に一部改良を発表、同年9月から予約受注を開始しています。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
改良のポイントのひとつがインフォテイメントシステムです。最新の「MIB4」へと進化し、12.9インチ大型タッチディスプレイの採用によって視認性を向上、演算処理性能も引き上げられ地図スクロールなどのレスポンスが大幅に改善されています。
今回試乗したのは現行モデルですが、走行性能などに大きな違いはありません。(ここまで文:Webモーターマガジン編集部)
フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアント TDI Rライン主要諸元
●全長×全幅×全高:4640×1790×1485mm
●ホイールベース:2670mm
●車両重量:1500kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量:1968cc
●最高出力:110kW(150ps)/3000-4200rpm
●最大トルク:360Nm/1600-2750rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:軽油・51L
●WLTCモード燃費:19.0km/L
●タイヤサイズ:225/45R17
●車両価格(税込):476万8000円
試乗モデル概説:BMW 320d xDrive ツーリング Mスポーツ
2022年に大幅改良が施された現行3シリーズ。エクステリア・デザインは、最新のBMWデザイン言語により、印象的なアップデートが行なわれたほか、高性能3眼カメラ&レーダーなどがサポートする最先端運転支援システム、最新世代の安全機能を標準で装備しています。
高速道路での渋滞時においては、運転支援システム「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能」を採用。一定の条件下において、ステアリングから手を離しての走行を可能とすることで、ドライバーの運転負荷を軽減し安全に寄与することができます。
欧州市場向けには2024年5月に、さらなるアップデート版が発売されています。日本市場向けにも、ほどなくリリースが開始される予定です。
BMW 320d xドライブ ツーリング Mスポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1825×1455mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1740kg
●エンジン:直4 DOHCディーゼル ツインターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:140kW(190ps)/4000rpm
●最大トルク:400Nm/1750-2500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:フロント縦置き4WD
●WLTCモード燃費:15.5km/L
●車両価格(税込):764万円
「底辺」を支えるに相応しい両者なのである
長い歴史を持つ内燃機関に加え、そこにマイルドハイブリッドシステムをアドオンした電動化ユニット。さらには電動走行も可能なフルハイブリッドユニットにその駆動用バッテリーを大容量化したうえで外部充電機能を持たせたプラグインハイブリッドシステム。そして一切の内燃機関を搭載しないピュアEV・・・と、ユーザーがざっとこれだけの心臓部を選択できるのが今という時代。
ただしパワーユニットはかくも“豊潤”な一方で、ボディ形態に目を転じると「SUV一色」と紹介できそうな状況が世界的に広がっているのはご存じのとおり。一世を風靡した日本メーカーの作品はすっかり数を減らし、減少傾向にあるものの結果として相対的に目立つ存在となっているのが欧州発のステーションワゴンだ。
中でもドイツブランドが手掛けるものはユーティリティ性の高さにフォーカスした比較的ベーシックなキャラクターの持ち主から、装備や各部の仕上げに贅を凝らしたプレミアム感漂うラグジュアリーなモデル。
さらには一級スポーツカーも顔負けという走りの性能を前面に押し出したスポーツモデルまで、現在でもさまざまな内容の持ち主が名乗りを上げる。
50mm延長されたホイールベースが変えたもの
ここに取り上げるのは、その中の「ベーシックスタンダード」とでも言うべきカジュアルで身の丈感の高い2台。フォルクスワーゲンの『ゴルフ ヴァリアント』とBMWの『3シリーズ ツーリング』は、欧州発のステーションワゴンの中で共に老舗的な存在だ。
自身のステーションワゴンを「ヴァリアント」と呼称するフォルクスワーゲンのモデル中でも、圧倒的に高い知名度を誇るゴルフのそれは長い歴史の持ち主。ベースとなるハッチバックボディにさらに高い積載性能を誇るステーションワゴンが追加されたのは3代目から。
ただし、前述のように現在は「ヴァリアント」を称するこのブランドのステーションワゴンも、日本でそうしたサブネームが冠されたのは5代目ゴルフをベースとした作品以降となる。
そんなゴルフのステーションワゴンはハッチバック仕様よりも大きなリアのオーバーハングとそれに伴って伸びた全長を採ることで構築されてきた。最新版ではその手法に加えホイールベースを50 mm延長。
これにより、さらに均整のとれたプロポーションと適性の高いクルージング時の安定性を手に入れた。言い変えれば「これまで以上に独り立ちしたキャラクターの持ち主」といった表現も、あながち誇張には当たらないだろう。
実は日本に導入されるゴルフシリーズは、内外装のリファインやインフォテイメントシステムのアップデートなどを主なメニューとした「改良型」の導入をすでに発表済み。
すなわち今回テストドライブを行った『ヴァリアントTDI Rライン』は現行型の末期にあたるが、採用するランニングコンポーネンツや各種の主要スペックは不変で、最高150ps を発する2L直4ディーゼルターボエンジン+7速DCTというパワーパックも継続で搭載される。
ツーリング性能をさらに引き上げる最新のTDI
車両の脇に立つと最近のモデルでは珍しいやや派手な「ガラガラ音」に、その心臓部がディーゼルだと即座に判別が付く。
そうしたエンジンノイズはひとたび乗り込んでドアを閉めれば耳障りではない一方、走り始めるとロードノイズにパターンノイズと今度はタイヤに起因すると思われる音が少々賑やか。
「なるほど実用本位のベーシックモデルだな」と実感させられるのはまずはそうした瞬間で、率直なところやはりプレミアム感を売り物とするブランドの作品とは一線を画する印象は強い。
とは言え、そうした部分にことさらの上質さを求める人は多くはないであろう点はかねて「質実剛健」を特徴としてきたゴルフというモデルの役得というべきか。
特段のシャープさなどは演じられない一方で、正確無比で信頼に足るハンドリングの感覚や前述のようにハッチバックモデル以上と思えるクルージング時の安定感の実現。そして、そんな優れたツーリング性能をさらに引き立ててくれる最新のディーゼルユニットならではの粘り強く太いトルク特性なども、このモデルの走りの個性としてポジティブに受け取れる。
「3」だからこそ気になってくる「スポーツ」の持つ意味
一方、やはりブランドの中核を担うモデルをベースに誕生しながら長い時間を生き抜いているのが、BMWの『3シリーズ ツーリング』。
セダンがベースでありながら初代の時点でカブリオレが設定されていたことからも、3シリーズが実用性のみならずプラスαのプレミアム性も意識したモデルであったことは明らか。「ツーリング」と称するステーションワゴンの登場は2代目で、以降の各モデルに設定が行われている。
今回テストドライブを行ったのは、日本向けモデル中で唯一ディーゼルエンジンを搭載する『320dxツーリングMスポーツ』。
ネーミングルールに詳しい人ならば、この名称からそれが4WDシャシの持ち主でかつ、強化された「Mスポーツサスペンション」や動力性能重視の変速プログラミングが設定された「スポーツAT」を採用する仕様であることが読み取れるだろう。
搭載するエンジンは、プライマリー側に可変ジオメトリー機構を採用するシーケンシャルツインターボ方式を採用し最高出力は190ps とディーゼルらしからぬ高出力を発生。そこに、スムーズな変速とタイトなトルクの伝達感を両立させた出来の良い8速ステップATを組み合わせて優れた加速感を味わわせてくれるなど、やはり動力性能面でもスポーティさを前面に押し出したキャラクターが特徴的。
ひと回り大きなボディのサイズや4WDシャシということもあって受け持つ重量は前出ゴルフより240kg も重いものの、アクセルペダルをひと踏みした瞬間にそんな事実は忘却の彼方へ。同じ2L直4ディーゼルであっても、ゴルフの心臓部とのキャラクターの違いは明白だ。
あえて選ばれるワゴン、にはちゃんと理由があるのだ
すでに車両の傍に立った段階で感じられるアイドリング時の静粛性の高さが期待させてくれるとおり、走り始めた瞬間からの車内の静かさも特筆ポイント。シーケンシャルツインターボながらエンジン回転数の高まりに伴う“トルクの谷”も感じさせず、最高出力の発生点である4000rpmを超えても頭打ち感を示さずに軽やかに伸びるパワー感にも脱帽だ。
そんな秀逸な動力性能に対して、フットワークのテイストにわずかな不満を抱いたことは事実。
軽やかで適度にシャープなハンドリングの感覚はなるほど「BMWらしい」という形容がピタリと決まるもので、4WDながらアンダーステアなどとは無縁な感覚はFRレイアウトベースで後輪側にバイアスの掛かった駆動力の分配ももちろん関係をしていそう。
ただし、荒れた路面を比較的遅い速度で通過するようなシーンでは細かな突き上げ感が目立ち、滑らかさに欠けるテイストには前出サスペンションとランフラットタイヤがもたらす“負の相乗効果”をイメージさせられてしまったのだ。
とは言え、多様性に富んだ使い勝手に加え、3シリーズ ツーリングの伝統と紹介のできるガラスハッチという隠し玉もこのモデルならではの見どころ。
ゴルフではハッチバック、3シリーズではセダンという“標準ボディ”以上に「スタイリッシュ」と評する人も少なくなさそうな、見るからにユーティリティの高さを連想させるスタイリングも両者に共通する見逃せないポイント。
なるほどSUV全盛の今の時代でも流行に左右されることのない博識なユーザーには迷わず選ばれる根強い人気にも納得! と思えることになった、ドイツ発のステーションワゴンの底辺を支えるに相応しい両者なのである。
[ アルバム : 特集 比べるワゴン─ジャーマンプレミアム編 (2) はオリジナルサイトでご覧ください ]
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