2009年のデトロイトモーターショーでマセラティ クアトロポルテの最スポーツグレード「スポーツGT S」が登場した。マセラティ躍進のキーワードは「S」にあるというが、この「スポーツGT S」はマセラティに期待される「二面性」をさらに明確にしていた。イタリア・モデナで行われた国際試乗会の模様を振り返る。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年6月号より)
過度にクイックでなく適度にゆるさを残したイタリアンテイスト
2008年は、マセラティにとって記録的な1年になった。全世界での販売台数は前年比でプラス17%の8536台を記録。日本においても前年比25%増の580台を販売するなど、世界的な景気後退が叫ばれる中において、なお好調なセールスを続けている。
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マセラティ躍進のキーワードは「S」にあると、アフターセールス担当のジョージ・マウロ氏は語る。「4ドアのラグジュアリースポーツセダンのクアトロポルテでは、Sグレード比率は全体の14%、2ドアクーペのグラントゥーリズモでは19%と、ともにSの販売割合が伸びています。市場は我々にさらなるスポーツ性を求めているのです」
今回欧州で登場したクアトロポルテ スポーツGT Sは、先日日本にも上陸した新世代のクアトロポルテSをベースに、さらにスポーツ度を高めたモデルとなる。搭載する4.7L V8エンジンは、排気システムの見直しにより、最高出力はプラス10psの440psを発生。クアトロポルテSに対し最高速でプラス5km/hの285km/h、0→100km/h加速では0.3秒速い5.1秒というパフォーマンスを得ている。
イタリアのモデナで行われた試乗会。並んだクアトロポルテ スポーツGT Sはフロントで15mm、リアで11mmローダウンされ、その妖しい優雅さにさらに磨きがかけられている。フロントグリルは内側に湾曲した独自デザインを採用、ブラック化されたLEDポジションランプ内蔵のヘッドライトとともに、視覚から精悍なイメージを醸し出す。
室内に乗り込むと、張りのあるレザーがふんだんに使われたシートなど、特有の高級感が漂う。コラムから生えたシフトパドルがフェラーリモデルのように大型化されることを除けば、「スポーツGT S」という名から想像するストイックさはそこにはない。シート座面やステアリングホイールなど、ドライバーが触れる部分にはアルカンタラが使用され、しなやかに身体を包み込む。
キーを捻りエンジンを始動する。モデナから東へおよそ150km、世界遺産に登録されている街、ラヴェンナまでのアウトストラーダと一般道が今回の試乗コースだ。
クアトロポルテSには電子制御のダンパーコントロール「スカイフック」サスペンションが標準搭載されるが、このスポーツGT Sは20%硬められたシングルレートの通常ダンパーを採用。前245/35、後295/30という薄く大径の20インチタイヤを履くが、予想に反して突き上げ感は少なく、スッキリとした乗り味だ。
路面状態の悪い一般道では、さすがにスカイフックのような懐の深いいなしはできず、乗り心地の硬さを感じたが、それでもあくまでも紳士的なレベルという印象。ハンドル操作に対しても、過度にクイックでなく適度にゆるさを残しているところは、ドイツ車のスポーツモデルにはない特有のイタリアンテイストと言える。
SPORTボタンを押すことで性格がガラリと変わる
と、ここまでのジェントルな印象は、ボタン操作ひとつで一変する。センターコンソール左上にある「SPORT」と書かれた小さなボタンを押す。すると、今まで抑制されてきたフォースが解き放たれるかのごとく、もうひとつの顔が表れる。
まず、先ほどまでの通常モードでは閉じられていた排気システム内のフラップが開き、V8エンジン特有の、抜けの良い乾いたエキゾーストノートを高らかに響かせる。
それにともないアクセルペダル操作に対するレスポンスも向上。クルマ自体が軽やかになり、さらにはボディの隅々にまでドライバーの意志が行き届いていくような感覚さえ芽生えてくる。先ほどまで多少硬さが感じられた乗り味は、このスポーツモードでは「安心感」という言葉に変換される。純正指定タイヤ ピレリPゼロの粘るグリップ感覚も、スポーツGT Sの特性に合っている。
スポーツGT SはMCオートシフトと呼ばれる6速トルコンATを採用する。シフトノブを左に倒すとマニュアルモードになり、8000rpmからレッドゾーンのリミットまでギアをキープしながら澱むことなく回転を上げてゆく。左手パドルを使えばブリッピングを伴いシフトダウン、滑り感のないダイレクトな感覚を与えてくれる。
とにかくスポーツモード、時間も忘れドライビングに夢中になってしまいがちだが、車外に出てそのノートを聞くとかなりの音量なので、このSPORTボタンを押す場所や時間、タイミングには注意したい。
ラグジュアリーとスポーツ。相反する2つの魅力を同居させながらも、その二面性をさらに明確にしたクアトロポルテ スポーツGT S。日本での発表は2009年5月、デリバリーは秋ごろになりそうだ。(文:Motor Magazine編集部)
マセラティ クアトロポルテ スポーツGT S 主要諸元
●全長×全幅×全高:5097×1895×1423mm
●ホイールベース:3064mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:V8 DOHC
●排気量:4691cc
●最高出力:323kW(440ps)/7000rpm
●最大トルク:490Nm/4750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●EU総合燃費:6.4km/L
●タイヤサイズ:前245/35ZR20、後295/30ZR20
●最高速度:285km/h
●0→100km/h加速:5.1秒
※EU準拠
[ アルバム : マセラティ クアトロポルテ スポーツGT S はオリジナルサイトでご覧ください ]
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