プラグがなかなか外れなかった……
モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。第8回目はランボルギーニ 「イスレロ」との出会いを振り返ってもらいました。
絶好調ランボルギーニの処女作「350GT」とは? エンツォも悔しがったツインカムV12にアルミボディを採用した意欲作でした
226台しかないランボルギーニ イスレロ
はたして何台が導入されたか定かではないが、現実的に生産されたモデルがたったの226台しかないクルマだから、日本に入ったモデルも非常に少ないと思われる。そのうちの1台と、当時出会えたのはとても貴重だった。これはランボルギーニ イスレロというモデルだ。400GTの後継車として誕生したクルマだから、ランボファンならずとも当然御存知だと思う。
ただ、マイナーなクルマだっただけにその詳しい素姓についてはあまり知られていないだろう。いつ、どのような経緯で僕のいた会社に来たかは全く覚えていない。それに販売した価格も残念ながら覚えていないが、多分600万円前後だと思う。
さて、そのイスレロである。カロッツェリア・トゥーリングのなきあと、そこにいた社員のひとり、マリオ・マラッツィが興したカロッツェリア・マラッツィの作品で、デザインしたのはトゥーリング時代から工房のデザイナーだったフェデリコ・フォルメンティという人物とある。
このフォルメンティ、フェラーリ「166MM」や、ジェンセン「インターセプター」、さらにはアルファ ロメオ初代「アルフェッタ」などのデザインで知られる人物だが、日本では無名。しかし残した作品はすごい。そんなデザイナーによって世に送り出されたモデルがイスレロである。
エンジンは基本的に「400GT」と同じ330psの4L V12と5速マニュアルが組み合わされたモデルである。こう見えても400GT同様、後席を持つ2+2なのだ。ボンネットを低くしたかったからか、初期のランボルギーニは伝統的にキャブレターをヘッドの横に付けるサイドドラフトのシステムを採っていた。
このクルマに関して、一度メカニックと賭けをしたことがある。じつはこのクルマ、エンジンヘッドの上にスロットルリンケージが通っていて、その真下にプラグがあるのだが、こいつがじつに外しにくい。
1時間ほどかかって最後の1本か2本が抜けなかった。すると会社のメカさん。「俺が抜いたら奢ってくれる?」と。そこで「じゃあもう少し頑張って抜けなかったら10分で抜いて。そうしたら奢る」と言ってしまった。
あきらめて彼に工具を渡すと、ものの2分ほどでいとも簡単に抜いて見せたのである。やはりメカニックは違うとそのとき思った。そして、すべてのプラグを掃除して再び元の位置へ。「ちょっと試乗に行ってくらぁ」と件のメカニックは、外したボンネットも付けずにそのまま第3京浜に向かった。当時はそんなこと、普通にまかり通っていた。
100台生産された後期型のイスレロS
イスレロに乗ったのが「ミウラ」に乗る前だか後だか忘れてしまったが、とにかくそのスムーズなV12と低く籠ったサウンドは、ミウラとは異なる新鮮な印象を僕に与えてくれた。ところで、冒頭で実際には226台作られた話をしたが、225台でカロッツェリア・マラッツィとランボルギーニの契約が終了した後、オランダのレーシングドライバーでありコレクターのドライス・ヴァン・デル・ロフが、彼のためのスペシャルを注文し1970年に納車された。シャシーナンバー6677、エンジンナンバー3018。これが最後、226台目のイスレロである。
ところでイスレロは1968年から1969年にかけて225台が作られたモデルだが、1968年に作られた最初の125台が単にイスレロと呼ばれるモデル。そして1969年に残りの100台として作られたモデルはイスレロSと呼ばれる。
国際ランボルギーニ・レジストリーではGTあるいはGTSとしているが、一般的にはイスレロおよびイスレロSと呼ばれる方が多いようだ。見た目の違いとしてはボンネット上部のエアインテークの拡大と、フェンダーサイドに開けられたエアベントがイスレロSの特徴。というわけで、僕の会社にやってきたモデルは後期型のイスレロSだった。ミウラに比べて相当に地味だったことが、あまり人気モデルにならなかった理由だと思う。
いわゆるスーパーカーブームというものが日本列島を駆け巡ったのは1977年のこと(らしい。当時は日本にいなかった)。しかし、その前に下地を作った並行輸入のショップが大きく飛躍したのはそれより数年前のことで、秋葉原の電気街さながら、現在の環状8号線の瀬田から田園調布にかけてはその輸入車のショップが軒を連ねていた。
田園調布にはチェッカーモータースが、そして等々力には僕のいたローデム・コーポレーションが、さらに瀬田に行くとユニオンや日比谷モータースなどが点在する。他にも数多くのショップがここに集中していた。しかし、スーパーカーブームの火付け役と言えば、何をおいても横浜にあったシーサイドモーターを外すわけにはいかない。
シーサイドモーターに関する詳しい記述は当時社員だった鞍さんの書く「シーサイド物語」に詳しいのでそちらを参照してほしいが、当時の環8はまさに輸入車ショップ街だった。
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