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アストンとロールスの「いざこざ」に見る、ラグジュアリーカーの未来

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アストンとロールスの「いざこざ」に見る、ラグジュアリーカーの未来

もくじ

ー アストン マーティンの攻撃
ー ロールス・ロイスの反論
ー 電動化の流れ モノからコトへ
ー 「贅沢」そのものが変化している
ー いつまでも若々しいこと
ー アストンの賭け
ー ロールスの意見 カスタム化、市場の展望

ロールスやベントレー、「死」の先にある希望 超高級車の墓場を訪ねる

アストン マーティンの攻撃

最近のジュネーブ・モーターショーでアストン マーティンとロールス・ロイスの間に「およそ英国らしからぬ」いざこざがあった。

今回、アストンは電動化したラゴンダの超豪華コンセプトをサプライズでお披露目したのだが、この際に、ラグジュアリーの頂点に君臨するロールス・ロイスの将来をあからさまな誹謗中傷したのだ。誹謗中傷の主はアストンのチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるマレク・ライヒマンである。

ライヒマンはロールス・ロイスを「世界で最も豪華なクルマ」だと言ったあとで、そんな時代も終わろうとしていると付け加えた。「そのルーツや存在理由を考えればわかるように、ロールスは本質的に馬の代わりに内燃機関を積んだ馬車そのままなのです。ラグジュアリーのためには不完全なパッケージングなんですよ」と彼はいう。

「ロールス・ロイスやベントレーは今日の古代ギリシャなんです。わたしは初代ファントムの仕事をしたことがありますが、手短かにいうと『タイヤのついたバッキンガム宮殿』ですね。ブランドを確立するためには重要でしたが、世界は変わり、王室も変わりました」

ライヒマンはこうも予測した。「(クルマの)世界はもっと極端になるでしょう。顧客の要望でもあります。Appleやグーグルの役員がファントムに乗るとは思いません。彼らが乗るのはこれ(ラゴンダ)ですよ」

自動車メーカーが他のメーカーをこれほど直接的に攻撃することは極めてまれである。ロールス・ロイスに明るい未来はないと言ったとなればなおさらである。

ライヒマンが初代ファントムのデザインチームにいたということで、ロールスが受けたパンチの痛みは倍加したことだろう。

ロールス・ロイスの反論

同じジュネーブ・ショーで、ロールス・ロイスの最高経営責任者トルステン・ミュラー・エトヴェシュはフィナンシャル・タイムに対してこう語った。

「アストンはわれわれのセグメントをまったく理解していません。顧客のことも全然わかっていない。彼らは価格設定のまったく違うグループの住人です。超上流のセグメントにはほんの小さな糸口さえ持っていない。ゼロです」

市場の盟主にケンカを売ってまでして、新モデルで超ラグジュアリーなセグメントに参入する意思を宣言したアストンの決断は、一見したところ小さなコップの中の嵐のように見えなくもない。

2017年、ロールス・ロイスは3362台のクルマを販売した(一部の顧客がファントムのフルモデルチェンジで買い控えたため、2016年の4011台からのダウンだ)。同じく昨年、アストンはDB11への強い需要を背景に一昨年から58%増となる5117台を販売した。

超ラグジュアリーの市場はかくも小さいのに、なぜ大喧嘩をしなければならないのか?

それはかんたんにいうと、ロールス・ロイスもはっきり気づいているように、千載一遇の嗜好の大変化が起きようとしているのではないかいう期待があるからだとAUTOCARは考えている。

世界中の大富豪たちが考える超ラグジュアリーの概念は、大きく変わろうとしているのかもしれない。

ロールス・ロイスの名誉のために付け加えると、このことは彼らの将来ビジョンの中にすでに示されている。

2016年の103EXが将来ビジョンを示すロールス最初のコンセプトカーだった。103EXはラゴンダ・コンセプトよりも過激だったが、同じようなトーンのクルマだった。全電動ドライブで全自動運転。インテリアには従来にない素材が使われ、「グランド・サンクチュアリー」と謳われた。

アストンがラゴンダでやろうとしていることは、グローバル・ラグジュアリー・セクターの研究者やアナリストによると「ラグジュアリー・ハッキング」というものだそうだ。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる報告書「ラグジュアリーの将来」によると、ハッキングとは「商品の本質を理解し、従来とは異なるより効率的、刺激的なアプローチを提供すること」である。

電動化の流れ モノからコトへ

さらに続く。

「自分自身のビジネスモデルを破壊して顧客に今までにない新鮮な経験を与えるサービスを提供するならば、ラグジュアリーブランドはきわめて大きな成長余力をもつ。チャンスはほとんど無限である。しかし、もし部内者がビジネスモデルを再発明しないのであれば、部外者に取って代わられることになる」

電動化を例にとろう。ロールス・ロイスは2012年にファントムのEVバージョンを作り上げ世界各地で展示したが、プロジェクトはとん挫した。業界の噂によると、超ラグジュアリーなホテルも含めてどこからも本気の商談が入ってこなかったらしい。

ロールスは新型ファントムのEVバージョンを作るかもしれないが、需要のないものを売り込むとなると腰が引けそうだ。一方、ラゴンダ・プロジェクトは独自開発のEVプラットフォームであり、インテリアのパッケージングが従来と大きく異なったクルマへの道を拓くものだ。

アナリストによると、超ラグジュアリーEVに賭けたアストンの背中を押したトレンドは他にも多数あるという。18カ月前、コンサルタント会社のトレンドウォッチングは、2017年以降ラグジュアリー市場を主導するのは何かというリポートを発表した。

それによると、市場は「かつてはモノ消費だったが、いまやコト消費」であり、さらに「何を持つか」から「何をするか」にシフトしている。つまり、より倫理的、創造的で、ひととのつながりを重視し、味わいを求める方向に進んでいるのだ。

このラグジュアリー消費パターンの大きなシフトの裏にある理屈が「自己実現」である。そこでは、経験や商品は自らの健康、幸福を高める能力に資するものだ。

この動向は新たなタイプのエクササイズからエキゾチックな飲み物にいたるまで、あらゆるものに反映されているとトレンドウォッチング社はいう。

「贅沢」そのものが変化している

もうひとつの、とくに自動車産業に関係する大きなシフト、それは超ラグジュアリーから罪悪感がなくなることだとトレンドウォッチングのアナリストはいう。

「裕福な消費者の多くは罪の意識にとらわれています。これは消費行動にネガティブなインパクトを与えるし、社会にも健康にも良くありません。このような消費者にとって本当の贅沢とは? 罪の意識を感じることなく、したい放題することですよ」

もうひとつの重要なシフトは、ウーバー・タクシーやフードデリバリーの興隆に見られる「オンデマンドの贅沢」だ。結局、最も重要なポイントは、従来の人口統計学の理論が終わり、「旧来の贅沢」が一掃される時代になるということだろう。

「従来の人口統計学モデルでは、消費者の行動を年齢、性別、場所、所得階層などに基づいて予測しようとしたわけですが、その有効性は失われつつあります」とトレンドウォッチング社はいう。

「今の消費者は以前よりずっと自由に、自分自身でライフスタイルや生活態度を選んでいます。情報へのアクセスに制限がなくなったおかげで、古い社会通念が崩れ、終わりのない選択が始まったのです」

例えば、SNSでは天然皮革に対する反発が強いので、近い将来、伝統的なインテリアはすたれていくかもしれない。

このリスクを憂慮したランドローバーは、レンジ・ローバー・ヴェラール用に高級なファブリックのインテリアを開発した。

たしかにこの報告書には、アストンが未来的なラゴンダを開発したことを正当化するトレンド理論がたっぷりと記載されている。

しかし、超ラグジュアリー市場に影響を与えるかもしれない別の興味深いシフトもある。

いつまでも若々しいこと

フランスEDHECビジネススクールのマーケティング専門家であるマリーセシル・セルベヨン教授はコンサルタント会社キャンバス8にこう語った。

「ファッションの世界では年代物の使い古しのラグジュアリーは未だに大きなトレンドです」

これは自動車産業にも定着したトレンドだ。昨今のクラシックカーブームや自動車メーカーが自社のヒストリックカーを修理するサービスを提供する動きを見れば明らかだろう。

もし、現在主流のラグジュアリーEVの多くが超ラグジュアリーな消費者の足になるほど十分リファインされており、より多くの投資が評価の高いクラシックカーや現代的に作り直されたクラシックカーに流れ込み始めるとしたらどうなるだろう。ブラバス、ヘンメルが作るメルセデスSLのような。

ベントレーのチーフデザイナーであるステファン・シーラフによれば、新たな社会学的トレンドはひとが「いつまでも若々しい」ことだそうだ。

そういうひとびとは、伝統的な超ラグジュアリーな新車に25万ポンド(3800万円)を投資するより、特注のクラシカルなおもちゃを買うだろう。

アストンの賭け

たしかにラゴンダ・コンセプトの提案は、これらの潜在的なトレンドにピタリと当てはまる。

ライヒマンはジュネーブショーでこうも言っている。「ラゴンダはいつも破壊兵器なんです。それはロールス・ロイス、ベントレーと戦う大きな宿命を背負っているのです。つねに挑戦的な姿かたちをしているんです」

鳴り物入りのラゴンダの登場は超ラグジュアリー市場の変容に対する賭けともいえるだろう。

超ラグジュアリー市場を変容させる可能性のあるものは数多い。風貌が若々しくミレニアルの子供や孫から影響を受けている新世代の大富豪。革製品や石油由来のプラスチックを嫌い、持続可能な天然素材やクルマ製造のエネルギー削減に強い関心を寄せるトレンド。ずっと環境負荷の小さい超ラグジュアリー。そしてもっと過激なインテリアへの欲望。

これらが超ラグジュアリー市場を変容させる可能性はたしかにある。しかしアストン マーティン規模の企業にとって、これは地獄の賭けである。

ロールスの意見 カスタム化、市場の展望

「このビジネスに数年携わり、数多くの顧客と話をしてきてわかったことは、普通とはまったく異なるものを提供することが本質的に重要なのだということです」とロールス・ロイスのCEOトルステン・ミュラー・エトヴェシュは語る。

「見かけが豪華であるかとか、価格がいくらかということではありません。われわれのクルマが中身も含めて非常に特別かどうかということなのです。他社とは違ったルートを進む以外、われわれに道はありません」

「非常に柔軟性の高いわれわれの新しい生産システムの大きなアドバンテージは、ビスポーク(特別注文)のクルマもラインで完成させられることです。通常のクルマと別にして製造する必要がないんです。これにより品質の問題がなくなるばかりでなく、生産効率も大きく向上します」

「特注専任は100人で、われわれのクルマの90%が特別装備を持っています。オーナーは特別あつらえのプロセスに参加するんです。芸術作品をつくるように。オーナーも作品の一部になれるんですよ」

「ビスポークは、今やわれわれのビジネスにとって非常に重要で価値あるものです。ロールス・ロイスは、これなしでは生き残れないといってもいいくらいです」

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