21年ぶりのフルモデルチェンジで刷新し、話題となっているのが新型センチュリーだ。いわゆるショーファードリブンと言われる運転手付きの高級セダンとして、日本では別格の存在感を誇っている。
センチュリーのようなショーファードリブン的でフォーマルなキャラクターを持つモデルからプライベートユースに振ったモデルまで世界には様々な高級セダンが存在する。トヨタ系ブランドではレクサス LSもセンチュリーとは異なるポジションの高級セダンだ。
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ベンツ Sクラスなど世界の強豪ブランドがひしめく高級セダンのなかで新型センチュリーは何位なのか?
文:渡辺陽一郎/写真:編集部、jaguar
選考ポイントは「フォーマルとパーソナル性のバランス」
高級車は実用性ではなく、趣味の対象として乗られる。そこにはいろいろな価値観がある。
実用的な車は価値観も統一されやすく、多くの人達がホンダN-BOXで十分と感じるように、日本国内だけで1か月に1万台売れる人気車も存在する。
しかし、高級車はそうならない。価値観がさまざまだから、限られたユーザーがさらに分散され、1台当たりの販売台数はわずかだ。価値観が多岐にわたるから、推奨ランキングも決めにくい。
高級車にも複数のカテゴリーがあり、2018年6月にフルモデルチェンジを受けたセンチュリーのような高級セダンは、フェラーリやランボルギーニのような高級スポーツクーペとは事情が違う。ビジネスの分野でも多く使われるからだ。
ビジネスにおける高級セダンは、後席に座る人の身分を示す象徴だったり、面会する相手を敬愛する態度の表現だったりする。社長が仕立ての良いスーツを着て、高級セダンの後席に座って出かけるのは、贅沢な気分を味わうためではない。
そうすることで自分の立場と相手を尊重する気持ちが的確に表現され、ビジネスを成功に導く助けになるからだ。
その一方で、高級セダンをプライベートで使うユーザーも多く、フォーマルとのバランスが大切になる。
1位~3位 注目のトップは?
■1位:メルセデスベンツ Sクラス
前述のようなバランスを上手に使い分けられるのが、メルセデスベンツ Sクラスセダンだ。
フォーマルな正統派のセダンで後席も快適だが、優れた走行性能によって自分で運転しても楽しい。高級車のなかでは、価格が割安なことも特徴だ。
メルセデスベンツにはコンパクトなAクラスもあるから、ロールスロイスやベントレーと違って、ブランドの対価が高額ではない。そのブランドを名乗るだけで、価格が跳ね上がることはない。
例えばメルセデスベンツ S400は、V型6気筒3Lツインターボを搭載して価格が1140万円だから、センチュリーの1960万円よりは明らかに安い。
レクサス LS500で安全装備を充実させた「Iパッケージ」の1042万円と比べても、機能や装備を考えるとSクラスは同等か、少し割安に思える。
その一方で、メルセデスベンツは少なくとも日本では高級ブランドだから、Sクラスで迎えに出かけて失礼だと文句を言う人はいないだろう。
走行安定性、乗り心地、安全装備といった機能は高水準で、BMW 7シリーズ、ジャガー XJ、レクサス LSなどを上まわる。従ってメルセデスベンツ Sクラスは、日本の多くのユーザーから選ばれている。
◆Sクラス…フォーマル比率:65%/パーソナル比率:35%
■2位:ジャガー XJ
ベンツ Sクラスは高機能と高級感を併せ持つ最良の高級セダンだが、いい換えれば最良の実用車だ。仕事で使う車という印象も強い。
そこでもっと情緒を楽しみたい、ビジネスに使えるフォーマルな性格は不可欠だが、遊びの要素をもう少し強めたいと考えるユーザーには、ジャガーXJが推奨される。
ビジネスを含めたフォーマルと、スポーツカーが100%を占めるパーソナルの割合を数値化すれば、ジャガー XJはフォーマルの比率が45%、パーソナルが55%だ。このバランスは、外観から運転感覚まで、さまざまな場面に当てはまる。
外観は存在感の強いフロントグリルがフォーマルだが、フロントマスク全体の形状はシャープでスポーティだ。
内装はフォーマルなセダンらしく細部まで上質で、後席も含めて居住性を快適に仕上げた。その一方で、運転席に座ると適度な引き締まり感があり、車両との一体感も得られる。内外装ともに艶っぽさも漂い、いかにも真面目なメルセデスベンツやBMWとは趣が違う。
運転感覚では、ジャガーの伝統ともいえる軽快感を併せ持つ。ボディサイズや車両重量を考えると、運転操作に対する車両の反応が機敏だ。
以前のジャガーでは、軽快感が伴う代わりに安定性が損なわれる印象も受けたが、今はその不満がない。安定性と楽しさを高水準で両立させた。この走りはパーソナルユーザーに歓迎される。
◆ジャガー XJ…フォーマル比率:45%/パーソナル比率:55%
新型センチュリーが「3位」の理由
■3位:トヨタ センチュリー
新型の3代目センチュリーは、歴代モデルに比べてメカニズムの先進性が乏しい。初代モデルは1967年に発売され、新開発のV型8気筒エンジンと国産乗用車では最初のエアサスペンションを採用した。
生産は1997年まで続けられ、この30年間は1970年代中盤の排出ガス規制を挟み、日本車の技術が急速に進歩する時代だった。激動の時代にフルモデルチェンジを行わず、エンジンの載せ換えなども実施しながら作り続けた。
2代目は1997年に発売され、国産乗用車で唯一のV型12気筒5Lエンジンを搭載した。補機類などをすべて左右のバンクで独立させ、直列6気筒エンジンを2つ合体させたような構造だった。仮に片バンクが故障しても(あるいはテロで被弾しても)、走行を続けられた。
このV型12気筒エンジンは職人の手で組み上げられ、生産台数は20年間に約1万台であった。プリウスなら1か月の販売台数だ。従ってV型12気筒エンジンは相当に高価で、以前、トヨタの開発者から「マークII(マークXの前身)の1台分に相当する」と聞いたことがある。
ところが3代目は1/2代目に比べて平凡だ。V型8気筒5Lのハイブリッドとプラットフォームは、先代レクサスLS500hの「お下がり」を使う。しかも先代レクサスLS500hには、高い動力性能に対応してフルタイム4WDが搭載されたが、センチュリーは後輪駆動の2WDだ。
緊急自動ブレーキを作動できる安全装備のトヨタセーフティセンスには、クラウンやヴェルファイア&アルファードと違って、自転車の検知機能が備わらない。
それなのに価格は1960万円だから、先代型の1253万8286円に比べると、700万円以上も値上げされた。
後席には電動調節機能が備わり、中央にはテーブルなども配置したが、ハイブリッド化を含めて700万円の値上げには相当しない。
開発者に尋ねると、新型は月産50台程度を目標にしており、先代型の200台に比べると25%にとどまる。商品価値ではなく、生産規模が少ないために値上げを行った。
それでもなお、現行センチュリーの遮音性能は抜群で、後席はきわめて静かだ。駐車場から車道に出る時の段差も、柔軟に受け止める。
後席のシートには十分な厚みがあり、床と座面の間隔は意外に離れていて、セダンでは背筋を伸ばして座るタイプだが、座り心地は抜群に良い。100km/hを上限に、峠道などを低い速度で走る使い方をするなら、後席の快適性は極上だ。
また外観は、リヤ側のオーバーハング(後輪からボディが後ろ側へ張り出した部分)が長く、古典的なLサイズセダンの見栄えを大切にしている。日本におけるフォーマルなセダンとしては最高峰だから、無茶な値上げをしなければ、メルセデスベンツSクラスと1位を競うことも可能だった。
◆新型センチュリー…フォーマル比率:95%/パーソナル比率:5%
4位~5位 レクサスLSは何位?
■4位:BMW 7シリーズ
BMW 7シリーズもLサイズセダンだから、前後席の頭上と足元の空間が広い。特に後席は、3/5シリーズに比べると柔軟に仕上げた。BMWでは珍しく、体が適度にシートに沈んでしっかりと支える。
ただし、本質的にはオーナーが運転することも重視して開発された。乗り心地は、低速域では後席でも少し硬い。運転すると、3/5シリーズほどではないが、小さな舵角から車両が正確に向きを変えてスポーティだ。
つまり自分で運転して楽しく、なおかつ同乗者の快適性にも配慮したが、商品の特徴が5シリーズに似ている。
メルセデスベンツSクラスセダンなどに比べると、後席に座る同乗者を尊重するフォーマルな感覚が乏しく、7シリーズとしての個性も弱い。
◆BMW 7シリーズ…フォーマル比率:20%/パーソナル比率:80%
■5位:レクサス LS
ボディが大柄になったのは、ライバル車の動向も考えると納得できるが、V型6気筒3.5Lターボは、エンジンノイズがスポーティに演出されている。乗り心地も少し硬い。
峠道などでは、良く曲がる替わりに後輪の接地性が削がれる面もあり、Sクラスや7シリーズに比べると安定性が少し不満だ。
ボディが重くなる前の日本車に通じる軽快感はあるが、価格を含めたクルマの位置付けを考えると、もう少しどっしりと安定させて欲しい。
これは意図的に行った味付けだろう。プレミアムブランドの走りは、どれも高い安定性を前提にした上で、メルセデスベンツはさらに高速指向を強め、BMWは正確かつ機敏に曲がる運転感覚を大切にする。アウディは穏やかで馴染みやすい走りが特徴だ。
このように各ブランドの味付けがすでに決まっているから、後発のレクサスは、先輩達との重複を避けて違った味を作らねばならない。
以前はメルセデスベンツとアウディの中間的な味付けもあったが、存在感が弱くブランドの構築が進まなかった。そこで理論的なドイツ車とは違う、少し過剰気味のキビキビ感、カーブを比較的低い速度で曲がる時の切れの良さなどを演出するようになった。
この走りと併せて、フロントマスクやボディ側面の形状も、ややアクの強いスポーツ性を演出する。外観と走りのバランスは取れており、良くいえば若々しい個性が車両全体から感じられ、悪くいえば子供っぽい。
トヨタはパッソのようなコンパクトカー、ハイラックスなどのピックアップトラック、ミニバンなどを手掛ける総合自動車メーカーだから、さらに伝統の乏しいレクサスも加え、欧州のプレミアムブランドを相手にするのは大変なことだ。
今はまだ、レクサスの大変な状況がLSに表現されている。今後の熟成に期待したい。
◆レクサス LS…フォーマル比率:40%/パーソナル比率:60%
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