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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第2回 特別対談:清水草一(後編)】

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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第2回 特別対談:清水草一(後編)】

『サーキットの狼II モデナの剣』誕生秘話:後編

週刊少年ジャンプで連載された名作『サーキットの狼』の続編として誕生した『サーキットの狼II モデナの剣』。当時、週刊プレイボーイの編集者であり現在は自動車評論家として活躍する清水草一氏のラブコールによって誕生した。

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第1回 特別対談:清水草一(前編)】

その後、担当編集だった清水氏は連載半ばでフリーランスの自動車評論家へと転身を遂げ、現在は自動車評論と共に「大乗フェラーリ教 教祖」として数々の著書を手掛けている。

今回は、『サーキットの狼』の作者であり、『サーキットの狼II モデナの剣』で清水氏とタッグを組んでいた池沢早人師先生と共に、当時の思い出を振り返っていただく。

「池沢先生はボクにとって生き仏様のような存在」

『サーキットの狼』の第二章として描かれた『サーキットの狼II モデナの剣』は、作中でフェラーリの元テストドライバーを務めた “剣・フェラーリ”のサクセスストーリーだ。その連載は週刊プレイボーイ誌上で1989年から1995年の6年間に渡り、バブル経済の追い風を受けて大きな人気を博す。そしてフェラーリファンにとってバイブル的存在になるとともに、当時の担当編集者であった清水氏もフェラーリの教祖として名を馳せることになる。

池沢早人師(以下、池沢):『サーキットの狼II モデナの剣』を連載している頃からシミちゃん(編注:池沢先生が清水氏を呼ぶ愛称)はワンメイクレースに参戦していたよね?

清水草一(以下、清水):1989年頃でしたが、在籍していた週刊プレイボーイの編集者としてミラージュカップに参戦していました。当時はバブルの絶頂期だったこともあってエントリー数も多く、予選を通るのも一苦労でしたからね。有名人も数多くエントリーしていましたね。

池沢:編集者でありながらもレースに出ているシミちゃんだから気が合ったんだろね。そう言えば、当時は何か地味なクルマに乗ってなかった?

清水:当時はサンタナでした。日産で売っていたフォルクスワーゲン(笑)。

池沢:それが今はフェラーリの教祖だもんね。

清水:あっ、そこはあまり突っ込まないで欲しいのですが・・・。でも、ボクがフェラーリの教祖と呼ばれるのなら、池沢先生は教祖の教祖。もう仏様です。

池沢:まだ死んでないんだけど(笑)。

清水:それでは「生き仏様」ということにしてください。ボクがフェラーリに興味を持ったというか、人生の転機は1989年に池沢先生が乗っていたフェラーリ・テスタロッサに乗せてもらったことが始まりですからね。今でも鮮明に覚えていますが、新青梅街道でドライブさせてもらったのがフェラーリ初体験ですから。乗せてもらった瞬間、雷に打たれたような衝撃を感じました。もう「自分にはコレしかない!」と・・・。

池沢:新青梅街道だったっけ? シミちゃんを乗せたことは覚えているし、その時にものすごく感動していたことも覚えているよ。

清水:ボクにとっては人生が大きく変わった瞬間でした。それに先生に「しっかりと運転できてるじゃない」と褒められたことも嬉しくて・・・。ボクはスーパーカーブーマーとは少し離れた世代だったので、それほどスーパーカーには興味がなかった。どちらかといえば国産のGTカーが本命で、ソアラに乗れたら「神」と思っていた程度ですからね。そんな男がいきなり12気筒のテスタロッサですから、衝撃の大きさはハンパではありませんでした。テスタロッサの運転席に座って見た景色は、今までに本当に見たことのない景色というか、世界を見せてもらったような気がします。

池沢:その後、実際にフェラーリ348を手に入れたんだよね。で、かなり苦労したって話は聞いているけど・・・。

清水:本当は先生が乗っていたイエローの348が欲しかったんですが、売って下さいとお願いしようと思ったら残念なことに先生が手放した後でした。それで、1993年に赤い348tbを手に入れたのですが、この348が本当にダメなクルマでした。価格は1162万2800円。今でもしっかりと覚えてます。買った時は「これがフェラーリか!」とか「遂にフェラーリを手に入れた」と狂喜乱舞していたのですが・・・。

池沢:分かるよ、その気持ち。ボクが乗っていた348だって、プロのドライバーが乗ってもまともに走らせることができずにスピンしていた。サーキットでも200km/hを超えると真っすぐに走らなかったしね。だからすぐに手放して2台目のテスタロッサを買ってしまった。逆にシミちゃんは348に長く乗ってたよね?

清水:348シリーズは早い話“欠陥車”でしたからね。でも、根がMなのかSなのか「このクルマを征服してやろう」と心に決めて試行錯誤しながら手を入れていましたが、結局リヤセクションの剛性不足が大きな欠点ということが分かりました。アッパー部分にタワーバーを追加したり、各部を強化することでまともには走るようになりましたが、やはりベースがダメなクルマだってことを痛感しました。気が付けば348は5年半も乗り続けてしまいました。

池沢:でも、フェラーリ348を手に入れた時はまだ週刊プレイボーイの編集者だったよね?

清水:会社には内緒にしていましたが、ローンを組む勇気が無かったので貯金を全てはたいて買いました。当時はバブルの頃でそこそこお給料が良かったのと、ボクはお酒や女性をやりませんでしたから(笑)。

池沢:348はスタイルは抜群なんだけど「未完成なまま世に出たフェラーリ」の代表みたいなクルマだったからね。

清水:昔、フェラーリのモンテゼーモロ社長と話をした時に、348に乗っていると言ったら「すぐにF355に乗り換えなくてはダメ」と言われたくらいだから(笑)、フェラーリとしても348はダメなクルマとして諦めて直ぐにF355に切り替えたんでしょうね。その後、F355に乗り換えて見ると完成度の高いクルマだった。でも、何だかモノ足りなさを感じてしまい、直ぐに手放して問題児と呼ばれる360モデナに手を出して痛い目に・・・。それでも360モデナには5年以上乗りましたけど(笑)。

池沢:シミちゃんって良妻賢母よりも悪女に惹かれるタイプだね(笑)。ボクは悪女が苦手で、すぐに別れてしまうタイプだから。でも、出来の悪い子供ほどかわいいとか、悪女ほど魅力的と言われるように、シミちゃんは未完成なフェラーリに弱いよね。

清水:なぜか惹かれてしまう自分を責めることもありますが、クルマとして付き合うのは面白い。ボクにとってフェラーリは王女様みたいなもの。一般庶民には手の届かない存在であり、自分のものになるとは夢にも考えていませんでした。常に憧れであって決して身近な存在ではない。だから良妻賢母よりも、ワガママを言う王女様に夢中になってしまうのかもしれませんね。

30年を経ても色褪せない絶妙な師弟関係

作家と編集者という関係から始まって30年という長い歳月を経てもなお、“フェラーリ”と言う共通項を絆に深い関わりを持つ池沢先生と清水氏。最後にお互いにどんな印象を持っているのか訊いてみた。

清水:フェラーリに魅せられるようになって、フェラーリと公私ともに関わり続けてきたのは、全て池沢先生の影響です。新人編集者として『サーキットの狼II モデナの剣』に携わったことでスーパーカーの魅力を知り、あの日、新青梅街道でテスタロッサに乗せてもらって普段の生活では絶対に眺めることのできなかった風景を見せていただいた。池沢先生はボクにとって越えられない壁であり、大きな存在でありながらも常に新しい世界を見せてくれる人。先生がいなければ、今の清水草一は存在しなかったと思います。

池沢:シミちゃんは週刊プレイボーイの編集担当者として出逢い、『サーキットの狼II モデナの剣』を描くきっかけを作ってくれた大切な仲間。今だから言えることなんだけど、『サーキットの狼』で燃え尽きたと思っていたボクに、再びクルマへの興味を持たせてくれた重要な人でもある。もし『サーキットの狼II』として『モデナの剣』を描いていなかったら、ボクはクルマの世界に戻ることは無かったかもしれない。だからシミちゃんには感謝しているんだ。それにシミちゃんはフェラーリ348から、テスタロッサ、F355、360モデナ、458を乗り継ぎ、今でも328を所有し続けていて、その姿はまさにフェラーリ教の教祖に相応しいと思う。日本にフェラーリを定着させたキーパーソンであるのは間違いないよね。

30年という長い時を経た今でも固い絆で結ばれるお二人。その関係は戦友であり親友、そして互いにリスペクトし合う師弟にも見える。もし、30年前にふたりが出逢わず『サーキットの狼II モデナの剣』が生まれていなかったら、ボクたちはこれほどフェラーリ、そしてスーパーカーというクルマに魅せられることはなかったはずだ。今回のインタビューを介して、そんな熱い思いが込み上げてきた・・・。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)

COOPERATION/ACG

撮影場所/Animanga Zingaro「サーキットの狼 2019 展~漫画家池沢早人師デビュー50周年記念~」

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