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「ホンダN360」は「カローラ」も追い越した! トップセラーに上り詰めた人気車は改良の繰り返しでした【国産名車グラフィティ】

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「ホンダN360」は「カローラ」も追い越した! トップセラーに上り詰めた人気車は改良の繰り返しでした【国産名車グラフィティ】

小さなボディに最大の居住性を誇るホンダ「MM思想」の源流

新参自動車メーカーのホンダは、ショーモデルのネーミングはもちろん、その姿まで変えず市場に軽自動車を送り込んできた。その革命児こそ「N360」だ。国内マーケットを揺るがすほどの価格、そして高性能なエンジンなど、すべてが常識を覆すことばかりだった。

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青天の霹靂となったライバルを圧倒する4ストロークエンジン搭載車

ホンダほどクルマ好きをワクワクさせる自動車メーカーはない。4輪業界に参入するや、高性能なDOHCエンジンを積む商用車とスポーツカーを送り出した。また、モータースポーツの最高峰であるF1にも挑んでいる。すべてが成功とは言えなかったが、イメージアップに貢献し、次のステップに期待を抱かせた。

衝撃が走るのは、1966(昭和41)年10月26日に開幕した第13回東京モーターショーの会場である。だが、マスコミとホンダ車を販売する関係者は、その5日前の21日に羽田の東急ホテルで感嘆の声を漏らしていた。ショーに出す革新的な軽自動車がお披露目されたからである。

車名はストレートに「ホンダN360」と名付けられている。このネーミングは市販車にも受け継がれた。エクステリアは、ヨーロッパで大ヒットしてコンパクトカーの流れを変えた「BMCミニ」と似た2ボックスフォルムだ。駆動方式も時代に先駆けて前輪駆動のFF方式としている。現代のNシリーズも、このN360をオマージュしたものであることはご存じのとおりだ。

パッケージングから開発に着手したため、キャビンはクラストップの広さを実現。スペアタイヤまでもエンジンルームに追いやってスペースを確保した。限られたボディサイズのなかで最大級の室内空間を実現するホンダの「MM(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)思想」は、このN360から始まったのである。

エクステリアは、広いキャビンを実現するためにホイールベースを全長の3分の2となる2000mmとし、ルーフも長く伸ばした。だが、商用のバンに見えないようにリアエンドをゆるく傾斜させ、その下のトランクまわりをなだらかにカーブさせている。もっとも個性的なのはフロントマスクだ。全幅は1300mmだが、ひと目でN360と識別できた。

横桟を基調としたメッキのバーを採用したことにより、フロントグリルだけでなく中央に据えた「H」デザインのホンダマークも目立つ。また、ヘッドライトの周囲を盛り上げているので運転席からの見切りも優れている。ちなみにボンネットはボディサイドのキャラクターラインから上に大きく開く。リアビューはシンプルなデザインだ。タイヤは10インチだったが、立派に見えたし、キュートとも感じる。

東京・晴海のモーターショー会場で話題をさらったN360は、翌1967年3月に正式発表され、そのまま販売に移された。ホンダの資料を見る限り、N360はすべてが常識破り。ライバルメーカーのエンジニアやセールスマンは驚きの連続だった。

そのひとつが驚異的に安い車両価格である。当時の軽自動車は、廉価グレードでも35万円前後のプライスタグを付けていた。だがホンダN360は、驚いたことに東京地区標準現金価格として31万5000円を打ち出したのだ。狭山工場渡しなら31万3000円と、さらに安い。ライバルメーカーの役員たちが色めき立ったのも当然だった。

驚愕の87.6ps/Lを発揮する4ストローク2気筒エンジン

パワーユニットの高性能ぶりにも人々は驚かされた。当時の軽自動車は排気量の上限が360ccだったため、パンチのある2サイクルエンジンが主役だった。だが、ホンダはオートバイの分野において作り慣れた4サイクルエンジンでライバルたちに勝負を挑んだのだ。

フロントのボンネット内に横置きマウントされているのは、アルミ合金製の直列2気筒エンジンだ。軽自動車として初めてSOHC方式を採用し、チェーンで駆動されるカムシャフトはシリンダーヘッドの上に組み込まれた。燃焼室は半球形で、吸気バルブと排気バルブはV字配置としている。メインベアリングにはローラーベアリングを用い、これを2個ずつ組み込んだ。

N360E型エンジンはボア62.5mm、ストローク57.8mmのオーバースクエア設計で、総排気量は354ccになる。圧縮比を8.5としてレギュラーガソリンを使えるようにし、キャブレターは可変ベンチュリータイプが1基だ。このエンジンを前側に9度傾けて搭載した。最高出力は31ps/8500rpm、最大トルクは3.0kgm/5500rpmだ。

リッターあたり出力はレーシングエンジン並みの87.6ps/Lを達成し、最高速度は115km/hをマーク。軽自動車のなかではトップだ。0-400m加速も、軽やかなエンジンサウンドを奏でながら当時の1Lモデルに劣らない22秒フラットを叩き出した。

トランスミッションは、クランクシャフトとクラッチをチェーンでつないで減速し、ギヤボックスとファイナルまでを一体化したドグクラッチ付き4速MTだ。そのシフトレバーはドライバーの左手前に置かれている。ダッシュボードの下から突き出したような形になっており、独特の変速フィールだった。

ステアリングギヤは軽快な操作を実現するラック&ピニオン式。サスペンションは時代の先端をいくマクファーソンストラットとコイルスプリングをフロントに採用した。シンプルな構造だが、直進安定性のよさに加え、軽やかなフットワークを生み出す。

リアはリーフスプリングを吊ったオーソドックスなリジッドアクスルだ。コストをかけることなく優れた耐久性を誇った。後続車に追突されたときに衝撃を吸収し、キャビンを守れることも採用の理由だった。

生産体制を整えて軽自動車トップセラーを撃墜

N360が発売されると、販売店にはオーダーが殺到した。納車は数カ月待ちだったが、多くの人が飛びついたのは驚くほどリーズナブルな価格設定で、走りの実力も高かったからだ。生産効率を高めるためにモノグレードとしたが、ラジオやシガーライター、フォグランプ、トリップメーター、リクライニングシート、スポーツホーンなどのオプションパーツは豊富に揃えていた。

寒冷地のユーザーのためには容量をアップしたヒーターや強化バッテリーを用意した。そして驚かされたのは、前席3点式シートベルトや後席シートベルトなどの安全装備がオプション設定されていたことだ。社長の本田宗一郎はモータースポーツ好きとして知られている。それだけに安全性には強いこだわりを持ち、ユーザーの安全確保のために最大限の準備を行っていたのである。

納車待ちは3~4カ月となり、オプションを装着すると納車は半年以上に伸びた。だが、発売した3月に2257台、4月には4000台に迫る届け出があった。生産が軌道に乗った5月は5570台と、販売台数トップだったスバル360を抜き去った。これ以降、毎月のように販売記録を更新していく。

慌てたホンダの上層部は、エンジンの生産を行う埼玉工場とボディなどの最終組み立てをする狭山工場に増産を命じ、8月には月産1万3000台体制を整えている。

だが、11月に2万台に迫る販売を記録した。さらに販売は伸びると予想し、12月からは生産ラインを月産2万台に引き上げている。同時に初めてのバリエーション追加も行った。新設定の「M」はラジオやリクライニングシートを標準装備したデラックス仕様だ。年が明けた1968年2月にはタコメーターを装備した「S」を仲間に加えている。

3月、画期的なモデルを追加した。それがクラス初の3速ATだ。複雑な遊星ギヤを用いないシンプルな構造だが、Dレンジだけでなく各ギヤをマニュアルで変速することもできる。最高速度は110km/h、0-400m加速は24.8秒と、活発な走りを披露した。6月に4グレードを揃えた「サンルーフ」も話題に。縦横700mmを超える大開口のキャンバス・スライディングルーフを採用し、開けると爽快なオープン感覚を満喫できた。

急激なバリエーション拡大で度重なる改良を施す

Mの上をいくゴージャス仕様も送り込む。それがタコメーターやトリップメーター、リクライニングシート、2スピードワイパーなど、30点以上の装備を加えた「G」だ。この時期にはトヨタ「カローラ」や日産「ブルーバード」も抜き去り、名実ともに日本のベストセラーカーへと成長している。

同時に輸出専用モデルだったN600Eを国内市場に投入した。登録車になるため大型バンパーを採用し、フロントマスクは3本スリットの専用デザインだ。また、ボンネットにはパワーバルジが付く。注目のエンジンは598ccのN600E型2気筒SOHCで、43ps/5.2kgmを発生する。N360E型エンジンより実用域のトルクが太いから扱いやすい。最高速度は130km/h、0-400m加速は20秒を切る19.7秒だ。維持費が軽自動車より高いため販売はイマイチだった。だが、強烈な印象を残している。

1968年は躍進の年だ。ラインナップの強化が止まらない。9月に吸気系と排気系に手を入れ、可変ベンチュリー式CVキャブを2連装した「Tシリーズ」を設定する。TSはスポーティ装備、TGは快適装備を充実させたグレードだ。圧縮比を9.0に高め、最高出力36ps/9000rpm、最大トルク3.2kgm/7000rpmを絞り出す。最高速度は120km/hに向上した。

だが、急激に生産台数を伸ばしたため、いくつかのトラブルが発生し、その対応に追われることに。FF車ならではのクセの強いハンドリングも指摘されたので毎週のように改良を施し、新設計パーツを組み込んだ。N360には同じ部品がない、と言われるほど改良は多かった。指摘された頑固なアンダーステアはユーザーの不慣れもあったが、ユーザーユニオンによる欠陥車騒動に発展し、裁判沙汰になっている。

1969年1月、ホンダN360は初めてのマイナーチェンジを実施した。外観の変更はわずかだが、乗り心地とハンドリングを改善するためにエンジンの搭載位置を変えて重心を下げ、ロールが大きいサスペンションにも手を入れている。エンジンも改良し、静粛性を向上させた。また、Tシリーズを「ツーリング」に名称変更し、ブラックフェイスとしている。この改良型はN IIIの登場後は「N II」の名で親しまれた。

N360の最終系が70年1月に登場したN III360だ。フロントマスクを大きく変え、ヘッドライトとグリルが分離したデザインになる。また、フルシンクロの4速MTを採用し、変速フィーリングを向上。そして8月、街乗りでの扱いやすさを狙って最高出力を27psに下げた「タウン」を設定している。これが最後の仕様変更で、1971年半ばには後継のライフにバトンを託した。

N360 ●年式:1967年 ●全長×全幅×全高:2995mm×1295mm×1345mm ●ホイールベース:2000mm ●車両重量:475kg ●エンジン:N360E型4サイクル直列2気筒SOHC ●総排気量:354cc ●最高出力:31ps/8500rpm ●最大トルク:3.0kg-m/5500rpm ●変速機:ドグクラッチ付き4速MT ●サスペンション(前/後):ストラット/リーフスプリング ●ブレーキ(前/後):リーディングトレーリング/リーディングトレーリング ●タイヤ:5.20-10-2PR ●新車当時価格:31万3000円~

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みんなのコメント

14件
  • おやっさんがいた頃の栄光を語りがちHONDA民
  • SもそうだがNもパーツの安定供給ができなかった
    パーツリストは当てにならないレベルで改良したため、後年ま維持には色々苦労したと聞く
    ワンダーシビックまではその悪い伝統が続いたのも痛かったな
    有名どころはキャブとオルタ
    兎に角合わない
    ホンダのディーラーが解体屋に現物持ってくるくらいに合わない
    でも勢いは有ったなと
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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