スバル・BRZのエンジン、シャシー、デザインの変更および、新グレードの追加というビッグマイナーチェンジが行なわれ、富士スピードウエイ・ショートサーキットで試乗してきた。
<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
今回の大幅変更の内容はこちらで既報しているが、なんといっても注目したいのは、乗り味がどう変わったのか?だろう。エンジン本体やファイナルギヤの変更、ダンパー、スプリングの変更などが行なわれているので、走りにどんな効果があったのか見てみたい。
■パワーユニットのチューニング
MT用のエンジンはシリンダーヘッドとブロックの結合部の剛性強化、吸排気系では吸気の脈動効果を最大化するためにインテークのブランチ径を見直し、42.7mmから45mmへアップし、排気側も45mmから48.6mmへと拡大。さらにポート断面積も拡大している。また、材質もアルミに変更され、赤ちぢみ塗装が追加された。また、エアクリーナーケースを大型化し、エアクリーナーも変更。これに伴い、吸気ダクトの形状変更などが行なわれ、吸排気効率の改善、最適化がされている。AT用は従来通りの仕様だ。
エンジン本体では剛性アップを目的に、ヘッドとブロックの結合剛性、クランク軸受け部の剛性向上、ピストンの表面処理をショットピーニング処理で耐性アップを図るなどの処理が行なわれている。これらの細かなチューニングにより出力で7psアップの207ps/7000rpm、最大トルク7Nmアップの212Nm/6400-6800rpmへと向上している。
これらのチューニングはドライバビリティ向上のために行なわれ、Maxパワーを上げることが目的ではなく、トルクの落ち込みを減らしレスポンスよくすることが狙いの改良だ。そのため、ファイナルギヤも4.1から4.3へとローギヤード化され、出足の良さや各ギヤのつながりの良さへとつなげている。このエンジンチューンの出力数値はMT車のみの改良だが、AT車用エンジンにも一部改良部品は共有している。また、MTの6速ギヤの耐久性強化も合わせて行なわれている。
■ボディ&シャシーチューニング
BRZ S より低くワイドな印象テールランプはLEDに変更前後ダンパーはショーワ製ボディとシャシーにも手が入っている。ボディでは補剛材の追加と制振材の最適化をしている。補剛したのはタワーバー取り付け部、リヤホイールハウス外側にそれぞれ補剛材が追加され、制振材は形状、板厚、材質の変更、最適化が行なわれている。これらの要素により操舵応答性、静粛性の向上を狙っている。
サスペンションでは、前後ダンパーともに減衰力とバルブ構造の変更を行なっている。主に微低速域での応答性を狙ったチューニングだ。コイルスプリングではバネ定数変更とスタビライザー径のアップをしている。こうした新開発のシヨーワ製のショックアブソーバーの採用により、質感の高い走りへとつなげている。
新規にVDCシステムにトラック(サーキット)モードが追加された。VDC介入のタイミングを最適化し、ドライバーの意図の邪魔にならない制御を目指したものだ。合わせてEPSの制御用ECUのアシストマップも変更されている。ステアリングからのインフォメーションはこの手のクルマでは最も重要な要素でもあり、リアリティのある操舵フィールが追求されている。
■インプレッション
試乗したのはSグレードの6速MTとBRZのトップグレードになる「GT」(プロトタイプ)の2台。試乗コースは富士スピードウエイのショートコースでウエット路面。タイヤのラバー滓が残るスリッピーなコンディションで、これらのチューニングを体感するには厳しいコンディションだ。また、一般道路と同じコンディションの構内路での走行も可能だった。
新たにTRACKモードが設定FSWショートコースでの試乗超低重心フラットライドが狙い正直なところ、ウエットコンディションでの試乗はグリップ限界が低くダンパーのチューニングやボディ剛性の変化、パワーのつながりなどの評価はできなかった。現行モデルとの比較試乗でもできれば、まだ違いがわかったかもしれないが、このマイナーチェンジモデルだけだと違いは明言できない。
ただ、新機能のVDCのトラックモードは体験できた。これはドリフトが可能なほどの介入タイミングになる。スピン直前での介入となるので、コントロールミスをしてもスピンはしにくいという制御。しかし、試乗した人の中にはスピンをしたものもいるので、限界の超え方次第ではスピンするというレベルだ。腕に自信のある方であれば、これまで以上に楽しめ、また最後の最後は守ってくれる安心感もあるモードだ。
一方、構内路での走行では従来型との違いが分かりやすい。最初に感じるのは乗り心地が改善されているというポイントだ。上質感に拘ったチューニングということで、微低速域でのダンパーの動きがあり、フリクションを感じにくい。そしてボディ剛性の高さも好感が持てるが、これはもともと高剛性という印象のBRZだから、比較するのは難しい。オーナーであればその違いを感じるだろう。
ステアリングの操舵フィールでは上質感が出てきている。従来型ではハンドルを回すとザラつきのあるフィーリングだったが、それがかなり薄れている。とは言え、上質と言えるほどではなく、以前よりは良くなった、という感じだ。
新グレードの「GT」プロトタイプは、Sグレードをベースにザックス製のダンパーにブレンボのブレーキが装着されたトップモデルだが、サーキットでも構内路でも「S」との違いを明確に表現するのが難しい。印象としては高剛性ボディにマッチした剛性感のあるサスペンションとブレーキタッチで、全体にしっかりとした塊感があり、スポーツカーとしてまとまりのある印象。いわばよりレーシーになったと感じるだろう。
グリップのブレークする瞬間が分かりやすいとか、スライド中のコントロールがいいとか、粘りがあるとか、詳細な印象を得ることができなった。この日のサーキットはμが低く、ダンパーやスタビ機能などの細かなフィーリングがわからない。ただGTとSグレードでは、ロール感があるかないか、という違いはあった。が、当然Sのほうがロールするが、それは悪いものではないので、好みの違いか。構内路でも感じたようにGTは全体に剛性感が高いので、安心感につながり、極めた走りを目指すならベストチョイスだと思う。
今回のレポートでは変更箇所の違いを明確に伝えられないものになってしまったが、試乗後開発スタッフに話をしたところ「このコンディションでは難しいです。違いは判らないですね」というコメントを聞いて安心した。ドライコンディションの時、新たにレポートしてみたい。余談だが、トヨタ86とはダンパーのチューニングが違うということだ。開発段階でお互いの拘りから、最後まで意見の一致を見なかったのかもしれない。
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