穏やかなハッチバックとしても運転できる
ホンダ・シビック・タイプRの、フロントフェンダー後方に切られたエアアウトレットは本物。ホイールの外向きに角度が付いたエアバルブにも、明確な意図を感じる。エンジンのエアインテークは、従来から10%も吸気量を増やしたという。
【画像】ホットハッチの頂点 ホンダ・シビック・タイプR ライバルのRS3とゴルフ R、i30 Nも 全118枚
リアに回れば、3本出しのマフラーカッターが中央で主張する。フェラーリのように。
アウディRS3も、スタイリングは好戦的。鮮やかなキャラミ・グリーンの塗装や、大面積の真っ黒なフロントグリルに目がゆきがちだが、筆者が好きな角度は斜め後ろ。大きく張り出したフロントフェンダーのラインが、強調されて見えるためだ。
アウディだから、技術的な面に不備はない。約5000ポンド(約80万円)のオプション、RSダイナミック・パッケージが組み込まれ、リミッター解除で最高速度は289km/hに届く。カーボンセラミック・ブレーキディスクも得ている。
最大のストロングポイントといえるのが、至って穏やかなハッチバックとしても運転できること。BMW M3コンペティションと同等のパワーウエイトレシオを、普段は感じさせない。
5気筒エンジンが目覚めると低くエグゾーストが唸り、臨戦態勢にあることを教えてくれるが、BMW Mの直列6気筒のように扱いやすい。高速道路へ足を伸ばせば、外界との隔離性も優秀。高性能なだけでなく、高級感も兼ね備えている。
感銘を受ける巧妙な四輪駆動システム
そんな上質さに抱かれて発進すると、本領を発揮したエンジンが400psを生み出すことに衝撃を受ける。高回転域まで引っ張れば、他にはないオーラも放たれる。高音域の響きが車内に充満する。
サウンドは純粋ではないものの、豊かで刺激的。シビック・タイプRのK20型ユニットにはガソリン微粒子フィルターが搭載され、オーバースクエア・シリンダーが叶えるトップエンドの高揚感と自由度を少し奪ってしまった。
RS3は、直線スピードでライバルを圧倒する。湿った路面でも、オンボード・コンピューターは0-100km/hを3.7秒でこなしたと計測した。
雨がちの日には、信頼感を抱けるフロントアクスルも効果を発揮する。フロントタイヤの幅は265あり、リアの245より2サイズも広い。トレッドもフロントの方がワイドだ。そのタイヤを、減衰特性に優れたダンパーが確実に路面へ接地させる。
RS3で感銘を受けたもう1つの部分が、四輪駆動システム。必要に応じてリア側へトルクが分配されるのだが、ハーフスロットル状態でもバランスに長け、4本のタイヤのトラクションが巧妙に保たれる。
さらに、RSトルク・リア・モードを選択すれば、リアアクスルが主役になる。必要になれば、エンジンの最大トルクの50%を、片側のリアタイヤへ送ることも可能にしている。なんともダイナミックだ。
質実に能力を磨き、揺るがない今回の主役
今回の試乗では、もっと楽しい設定を発見した。それは、サスペンションを柔らかいコンフォート・モードにし、エンジンとドライブトレインをダイナミック・モードし、スタビリティ・コントロールを弱めるというもの。
まるで、ランチア・デルタ・インテグラーレのような、痛快な特性を引き出せる。ボディロールは大きいが、カーブ外側のリアタイヤへ荷重をかけながら、踊るようにコーナリングできる。
RS3は確実に速い。センセーショナルでもある。ホットハッチのゲームチェンジャーといってもいい。能力の幅の広さには目をみはる。
ところが、今回の主役は揺るがない。シビック・タイプRは、往年のルノー・スポールのように、質実に能力を磨いている。ドライビングポジションは完璧で、操縦性のすべてに別次元の精度と透明性を得ている。
ドライブモードも備わるが、実際に機能的で、使う場面を考えやすい。滑らかな姿勢制御と、シンプルなリミテッドスリップ・デフが協働し、挙動は一貫していて掴みやすい。輝かしいほど。
複雑でブラックボックス的な技術を追求するより、ベーシックな技術を突き詰めた方が、大きな恩恵が得られることの証拠だと思う。恐らくホンダは、あえてシビック・タイプRを複雑にはしなかったのだろう。
四輪駆動やトルクベクタリングは必要ない
6速MTは、積極的に変速したいと思わせるほど好感触。ペダルレイアウトも完璧で、ステアリングホイールのシフトパドルを引くことと同じくらい、ヒール&トウでシフトダウンしやすい。ATとは違い、ECUは次に選ばれるギアを予想する必要もない。
ステアリングホイールの操舵感は軽快で、フィードバックは濃密でリアル。姿勢制御は引き締まっているものの、硬すぎることはない。リアアクスルは極めて安定している。今回の4台では実際に最も軽量だが、ひときわ軽く感じられる。
競合が注目を集めるような技術に傾倒し、自らのレシピを書き換えるなかで、ホンダは30年間もブレることがなかった。その結果、過酷な条件下での能力も向上している。
高い速度域で走るチャレンジングなルートでも、シビック・タイプRは落ち着き払っている。指先とつま先の感覚へ集中しながら、刺激的なドライビング体験に浸っていられる。まさに、外科用のメス。鋭く安定している。
粗野にアクセルペダルを傾けると、濡れた路面ではリミテッドスリップ・デフがロックし、ノーズが外へ流れてしまう。しかしトラクションが回復すれば、軽い車重が物をいう。一般道での絶対的なペースでは、RS3に及ばないとしても。
真剣に楽しめるホットハッチに、四輪駆動やトルクベクタリング機能が必要ないことを、シビック・タイプRは裏付ける。ひとつひとつを丁寧に磨き込むことで。神は細部に宿るのだ。
世界で最も優れた高性能モデルの1台
ホンダ・シビック・タイプRは、高速道路では少しうるさく、ガソリンタンクは小さすぎる。VTECエンジンは従来ほどの咆哮を放たず、ヘッドライトの機能は275km/hの最高速度には不充分だろう。だが、すべてを許せる。
ホットハッチのロータスと呼んでもいい。4万6995ポンド(約756万円)という英国価格も、比較試乗した今では法外に感じられない。
クラスを超えた能力を備えるクルマの場合、相応にクラスを超えた費用が求められる。トヨタGRヤリスの英国価格は3万ポンド(約483万円)を超えるし、911 GT3は13万ポンド(約2093万円)を超える。
むしろFL5型のシビック・タイプRは、今回の4台では2番目の安さ。それでいて、世界で最も優れた高性能モデルの1台に数えられる才能を宿している。新たなベンチマークが誕生したようだ。
シビック・タイプRと競合ホットハッチ3台のスペック
ホンダ・シビック・タイプR(英国仕様)
英国価格:4万6995ポンド(約756万円)
全長:4595mm
全幅:1890mm
全高:1405mm
最高速度:275km/h
0-100km/h加速:5.4秒
燃費:12.2km/L
CO2排出量:186g/km
車両重量:1429kg
パワートレイン:直列4気筒1996ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:330ps/6500rpm
最大トルク:42.7kg-m/2200-4000rpm
ギアボックス:6速マニュアル
アウディRS3 スポーツバック(英国仕様)
英国価格:5万4280ポンド(873万円)
全長:4389mm
全幅:1851mm
全高:1436mm
最高速度:289km/h
0-100km/h加速:3.8秒
燃費:11.1km/L
CO2排出量:205g/km
車両重量:1570kg
パワートレイン:直列5気筒2480ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:400ps/5600-7000rpm
最大トルク:50.9kg-m/2250-5600rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
ヒョンデi30 N(英国仕様)
英国価格:3万5095ポンド(565万円)
全長:4340mm(標準i30)
全幅:1795mm(標準i30)
全高:1455mm(標準i30)
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:5.4秒
燃費:11.9km/L
CO2排出量:191g/km
車両重量:1455kg
パワートレイン:直列4気筒1998ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:280ps/6000rpm
最大トルク:39.8kg-m/2100-4700rpm
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック
フォルクスワーゲン・ゴルフ R 20イヤーズ(英国仕様)
英国価格:4万8250ポンド(約776万円)
全長:4290mm
全幅:1789mm
全高:1465mm
最高速度:270km/h
0-100km/h加速:4.6秒
燃費:12.8km/L
CO2排出量:175g/km
車両重量:1555kg
パワートレイン:直列4気筒1984ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:333ps/5600-6500rpm
最大トルク:42.7kg-m/2100-5500rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
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