限定車というと、モデルサイクルのなかで販売台数のテコ入れやフルモデルチェンジ直前のお買い得車的なカタチで登場することが多い。
NSXタイプSやGT-RプレミアムエディションTスペック、東京オートサロン2022会場でお披露目されたGAMNヤリスなど、発売前から争奪戦必至の限定車がある一方で、限定モデルを乱発しすぎてカタログモデルの存在感がすっかり薄れてしまったケースもある。
実は上級「オーラ」がベスト?? 実用派最強コンパクト 日産ノートの最買い得グレード&「惜しい」ポイント
さまざまな事情でリリースされた星の数ほどある限定車のなかで「ヘンタイ心を持つクルマ好きの琴線を刺激する」モデルを5つにしぼり、ピックアップしてみた。
いずれもひとクセもふたクセもある、マニア(ヘンタイ? )心を刺激するモデルばかりだ。
文/松村透
写真/トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル
[gallink]
■ホンダプレリュードSiステイツ(3000台限定)
全幅が1690mmから1715mmに拡大され、北米向け2.1L仕様のエンジンを搭載。プレリュードSiステイツは名実ともに3ナンバー仕様だった
販売時期:1990年10月
エンジン:直列4気筒DOHC
排気量:2056cc
ps/kgm:145ps/19kgm
価格帯:237.3万円
1980年代、デートカーとして人気を博したプレリュード。3代目となるこのモデルは、量産車として初となる4WSを搭載したことが特徴として挙げられる。ステアリングを切ると、リアタイヤの独特な動きに慣れを要したという人もいるだろう。
この時代のプレリュードは5ナンバー仕様であるのに対し、Siステイツはボディサイズ(全幅が1690mmから1715mmに拡大)およびエンジンの排気量ともに3ナンバー仕様となった点が大きな特徴。Siステイツには北米向け2.1L仕様のエンジン搭載が搭載されていたのだ。
その他、Siステイツの専用装備として、リアのエンブレム、グリーンガラスの採用(上級グレードはブロンズガラスが標準)、ボディ同色のサイドプロテクションモールなどの採用された。
ボディーカラーはジュネーブグリーンパールとチャコールグラニットメタリックの2色。シートはモケット地の他、オプションでタンおよびグレーレザーを選ぶことができた。
当時はまだまだ3ナンバー車が珍しかった時代。「オレのプレリュードは3ナンバーなんだゼ」が当時の女子にどれくらいの効力を発揮したのかはオーナーのみぞ知る・・・だが、少なくとも信号待ちで同じプレリュードと横並びになった時、ちょっとした優越感に浸れたことは間違いないだろう。
3000台という限定車としては多い生産台数ゆえ、販売されてから30数年たった令和4年現在でも中古車市場で見かけることができる。
多くのホンダ車オーナーの悩みの種である部品の確保という難題が待ち構えているが、当時の憧れを現実にするチャンス最後の時期・・・かもしれない。
■トヨタコロナスーパールーミー(500台限定)
エンジンは元のコロナと同じ3S-FE型。世界でもかなり珍しい(かもしれない)5ナンバー&レギュラーガソリン指定のリムジン。それがスーパールーミーだ
販売時期:1990年5月発売
エンジン:直列4気筒DOHC
排気量:1988cc
ps/kgm:125ps/17.2kgm
価格帯:200.5万円
通称「コロナリムジン」などと呼ばれているが、正式名称は「コロナスーパールーミー」だ。
トヨペット店の累計販売1000万台を記念して、1990年5月発売に500台限定で販売されたモデルだ。
全長×全幅×全高はそれぞれ4690×1690×1370mm。ベース車である2000EXサルーンGのボディサイズは4480×1690×1370mm。ベース車である2000EXサルーンGの前後ドアの間を210mmストレッチしているので、全長のみ異なる。
ちなみに、同年代に発売されていたGX80系マークIIのボディーサイズが4690×1695×1375mmだから、ワンランク上のクルマ並みのボディを手に入れたことになる。
それでいて価格は36万円高なのだから、製造の手間や部品代などを考慮するとバーゲンプライスといえる。
エンジンは元のコロナと同じ3S-FE型。世界でもかなり珍しい(かもしれない)5ナンバー&レギュラーガソリン指定のリムジンだ。
コロナスーパールーミーを初めて実車を見た時の衝撃は忘れられない。何しろ、コロナに電車の戸袋のような小窓(失礼!)がついたストレッチリムジンだったからだ。
初めて実車を見た時はまだインターネットのイの字もない時代(パソコン通信があったようだけれど、一部の人向け)。
調べようにも、クルマに詳しい友人に聞きまくるか、雑誌を読みあさるしかなかった。結局、正体が判明したのはカーセンサーに中古車として掲載されていたのを発見した時だったと思う。
1990年代前半のカーセンサーはそれこそ当時の電話帳のような分厚さで、現代のスタバでコーヒーを飲むよりも安い300円でさまざまなクルマの存在や相場まで知ることができた。
■トヨタハリアーザガート(250台限定)
250台&期間限定で販売されたハリアーザガート。ボディカラーはブラック、レッドマイカメタリックに加えて、オプションでホワイトパールクリスタルシャインを選ぶことができた
販売時期:2006年9月~2007年3月
エンジン:直列4気筒DOHC、V型6気筒DOHC
排気量:2362cc、3456cc
ps/kgm:160ps/22.5kgm、280ps/35.3kgm
価格帯:483.5万円~571.2万円
ザガートというと、日産レパードをベースに造られたオーテックステルビオザガートやザガート・ガビアを連想するマニアがいるかもしれないが、実はハリアーにもザガートモデルが存在した。しかも、2度発売されているというから驚きだ。
1度目は初代ハリアーをベースに1998年に200台限定販売であったが、人気を博して完売御礼。そして2度目は、2代目ハリアーをベースにトヨペット店50周年記念車として250台&期間限定で販売された。
抑揚の効いたフォルムは15年以上経過した現代においても充分に魅力的だ
主な相違点はザガートオリジナルデザインとなる前後バンパー、フロントフェンダーおよびグリル、リアクォーターパネル(ノーマル比+45mm)、ゴールドにペイントされたアルミホイール、専用のスプリング(-20mm)、アルミ製インテリアパネル(通常はプラの加飾)と、専用のエンブレムなど。限定モデルらしい仕様となっている。
ボディカラーはブラック、レッドマイカメタリックに加えて、オプションでホワイトパールクリスタルシャインを選ぶことができた。
ハリアーザガートはベース車の213万1500円高。グレードにもよるが、コミコミで600万円前後といったところか。これを高いと思うか「ザガート社が手がけたモデルがこの値段で!? 安い!」と思うかで解釈の仕方が大きく変わりそうだ。
このモデルに魅力を感じ、実際に購入したオーナーのカーライフが実に興味深い。ハリアーザガートを足車に、ガレージにはお宝級のクルマが何台も眠って・・・などと妄想を掻き立てる要素を持つクルマでもあったのだ。
■スバルレガシィコル・スコルビィ(200台限定)
販売時期:2004年
エンジン:水平対向6気筒DOHC
排気量:1994cc、2999cc
ps/kgm:260ps/35kgm、250ps/31kgm
価格帯:350万円~365.2万円
ブラックのボディカラーに対して、レッドレザーの組み合わせは鮮烈だ(画像は2008年に発売されたプレミアムレザーリミテッド)
東京スバル創立5周年を記念して2004年に「ConScrpii(サソリの心臓)」の名を冠した限定販売された。
ベース車はツーリングワゴン2.0GTスペックB、B4 2.0GTスペックB、アウトバック3.0Rの3車種。合計で200台というから、モデルによっては2ケタしか生産されていないものもあったはずだ。
レガシィコル・スコルビィは、レカロ製のパワーシートモデルである「AM19 スタイル ST-J」をベースに、オリジナルのレットレザーでカスタマイズ。
特筆すべきは、リアシートはもちろんのこと、シフトノブやシフトブーツ、前後ドアパネルの表皮までもがレットレザー仕様になっている点だろう。
専用のシリアルナンバープレート刺繍つきラゲッジマットまで作られたのだから、かなりの懲りようだ。ボディカラーはオブシディアンブラックのみ。
2008年に当時の富士重工業から発売されたプレミアムレザーリミテッド。ブリックレッドという名のレンガ色のレザーシートが採用された
ブラック/レッドの強烈な組み合わせ、ベース車に対して約35万円高は、専用レカロシートが装着されている点などを考慮してもかなり魅力的であり、お買い得といえる。
2008年には「Premium Leather Limited(プレミアムレザーリミテッド)」という特別仕様車が当時の富士重工業から発売された。こちらはブリックレッドという名のレンガ色のレザーシートが採用され、落ち着いたトーンにまとめられている。
なお、神奈川スバルでもレカロ製のシートを装着した限定車が販売されていたようだ。
■マツダユーノスロードスターRリミテッド(1000台限定)
販売時期:1995年2月
エンジン:直列4気筒DOHC
排気量:1839cc
ps/kgm:130ps/16kgm
価格帯:217.5万円
Rリミテッドの内装。1.6Lモデル時代の限定車であるSリミテッドと同じレッドレザーでありながら、こちらが落ち着いた色合いとなっている
さまざまな限定車が発売された初代ロードスターこと、ユーノスロードスター。
そのなかで1.8Lモデル(通称シリーズ1モデル)をベースに1995年2月に発売されたのが「Rリミテッド(1000台限定)」だ。
1.6Lモデル時代の限定車である「Sリミテッド」に続くレッドレザーのシートや内装を装備したロードスターの第2弾というわけだ。
Sリミテッドのブリリアントブラック/レッドレザーという、かなりメリハリの効いた内外装の組み合わせに対して、Rリミテッドはサテライトブルーマイカという名の紺色のボディーカラーと少し落ち着いたトーンのレッドレザーが与えられ、幌やフロアマットも内外装の色合いに合わせた凝った造りとなっていた。
オーディオこそオプション設定とはいえ、専用の内外装を持ち、BBS社製15インチホイールなどが標準装備された仕様でありながら、車両本体価格が217.5万円とはかなり魅力的だ。5速MT車のみという設定も時代を感じさせる。
106台のみ造られたという、シャストホワイトのボディカラーをまとったRリミテッド。カタログ非掲載モデルであり、幻の限定車といえるだろう(画像のロードスターは別グレード)
そんなRリミテッドにはカタログ非掲載モデルとして「シャストホワイト」のボディカラーが与えられた個体が存在する。
Rリミテッドとして最終出荷された生産台数106台がこのボディカラーという説が有力だ。初代ロードスターで「ホワイト/レッドレザー」の組み合わせを持つ限定車およびカタログモデルは、このRリミテッド以外には存在しない。
マニアのあいだでは知る人ぞ知る、まさに幻の限定車といえるだろう。
なお、マニアックなところだと、東京地区で限定販売された「東京リミテッド」というモデルが存在する。M2 1002の内装を一部流用し、ブリリアントブラックのボディカラーをまとったロードスターだ。
生産台数はわずか40台。M2の限定モデルでは選ぶことができなかったAT車も設定された。フェンダー部分に「TOKYO LIMITED」のステッカーがおごられ、内装色と同じ幌カバーやタン色の幌など、こちらも凝った仕様となっている。
5速MT車が245.8万円(専用フロアマット込み)、4速AT車は250.8万円はかなり魅力的な価格といえるだろう。
■ヘンタイ心の琴線を刺激する限定車よ、永遠に・・・
今回紹介した限定車はいずれも生息数が減りつつある。現オーナーや、未来のオーナーは「所有する」行為に加えて「保存する」ことも視野に入れるべき時期に入ったのかもしれない
5選ということで上記5台に絞ったが、挙げればまだまだキリがない。
このテーマにヘンタイ級のクルマ好きと居酒屋で飲んだら、どちらかが寝落ちするか「もう閉店です!」店員さんに追い出されるまで話題が尽きることはないかもしれない(笑)。
数ある限定車のなかでも人々の、なかでもヘンタイ心の琴線を刺激するこれらのモデルは生産されてからかなりの時間を経ている。
ワンオーナーカーとしていまでも所有されている個体はごくわずかかもしれない。すでに多くの個体が廃車となり、姿を消している可能性も高い。海外へと旅立っていったケースもあるだろう。
現オーナーや、未来のオーナーは「所有する」行為に加えて「保存する」ことも視野に入れるべき時期に入ったのかもしれない。
翻って現代の「限定車事情」だが、限定車に対するユーザーの目の色が変わってきた感がある。純粋なクルマ好きが手に入れるというよりも、投機目的の要素が強くなってきた気がするのだ。
クルマとして「走る」というもっとも重要な使われ方がなされず、ガレージや倉庫の奥深くで大切に保管され、20年後にデッドストック物として国内外のオークションに出品される可能性もある。
まるでタイムスリップしたかのように、新車当時のコンディションを維持したまま現存するのは喜ばしいことだと思うが、そこに魂のようなものが感じられないのは筆者の錯覚であろうか。
・・・とはいいつつ「動体・静態を問わず現存してくれたらそれでよし」なのかもしれない。
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ツッコめないでやんのw