2018レースカーから探るSTIの先端技術 Vol.4
2018スーパーGTの開幕が待ち遠しいが、スバルSTIの参戦マシンBRZの製作現場を取材させてもらった。ここ数年、リストリクター、ハンデウエイト、給油速度制限などマシンだけでなく全般的に性能調整で厳しい状況のSUBARU BRZ R&D SPORTチームだが、2018年はどんなマシンに仕上げてくるのか?チームのテクニカル・コーディネーターの澤田稔氏に話を聞いてきた。<レポート:編集部>
2018 Super GT300 BRZ machine detailed information & strip image
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最初にチーム状況をお伝えするとGT300のマシンレギュレーションでは、グローバルで共通のカテゴリーとされるGT3車両規定で製作されたマシンを使うことと、JAF-GT300規定で製作されたマシンが混在している。JAF-GT300にはGTアソシエーションが販売するマザーシャシーを使うチームと完全オリジナルで、規定に合わせて製作したJAF-GT300マシンがあり、BRZはマザーシャシーを使わない、完全オリジナルのJAF-GT300マシンだ。そのマシンを製作しているのはR&D SPORTで、エンジン、トランスミッションをSTIが担当するというチーム体制で参戦している。
2018年のチーム体制は2月9日に発表されたが、総監督がSTIの渋谷真プロジェクトゼネラルマネージャーが担当し、チーム運営をR&D SPORTが担当するという役割分担になっている。
詳細記事:スバル 2018年モータースポーツ活動計画を発表
■ボディ形状の変更
さて、2018年のBRZはどこが変更されたか。まだお披露目されていない状況のマシン撮影ができたのでお伝えしよう。
まず、空力の変更が行なわれカウルデザインが変更になった。ボディカウルの前後フェンダー形状が変わったのが目立つ変更点だ。形状変更の狙いはもちろん空気抵抗を減らしつつもダウンフォースを減らさないデザインにすることで、ある意味レーシングカーの究極のテーマでもある。
ポイントでは、BRZのフロントカウルはカナードやフェンダー変更で、ボディ上部、サイドへ流す風の道を変え、よりリヤウイングへいい影響がでるように変えているのだ。また、リヤフェンダーは上部へ流す部分と後方へ流す風の道を変更した。特にリヤフェンダー上部から後端にかけてダウンスロープの形状に大きく変更している。
デザインはSTIが担当し、ドラッグを減らしつつもダウンフォースを減らさないという高い目標でデザインし、スバルの群馬工場内の風洞実験室でテストを行なったという。結果としては狙い通りの数値が計測できているということだが、今後はシーズン前テストでドライバーのチェックを含めて煮詰めていく必要があるということだ。
18年型のボディデザインは狙い通りのスペックになったと説明しているので、17年よりはいい結果になったことは間違いなく、あとはレースに向けて空力を活かしたセッティングを煮詰めることが重要になってくる。そうすれば、いい結果につながっていくのではないかと期待も膨らむ。
■ブレーキの変更
17年の最終戦でブレーキトラブルという予期せぬリタイアがあったが、澤田氏によれば、ブレーキはかねてからの懸案事項で、もっとブレーキでタイムを稼げるようにしたかった、ということもあり、今季思い切って変更したという。
フロントブレーキはローター径を380mmから390mmへサイズアップし、それに伴いキャリパーも変更している。澤田氏は、もっともっとブレーキで勝負しなければならない、と考えている。またブレーキの部品メーカーもAPからブレンボ製にチェンジしている。これは市販車に採用しているメーカーのものがベターだとしていたが、レースで勝つために、いろいろな要素とのマッチングを見ていった結果、ブレンボ社製に決定したという。
一方リヤブレーキは特に問題とならなかったので、変更はないものの、フロントブレーキと合わせるために、メーカーをブレンボに変更している。ただしサイズ変更はない。
■サスペンションの変更
サスペンションはご存知のように、スプリングとショックアブソーバー、そしてジオメトリーで構成されるが、ここがキーでもある。これらの構成要素はレースのたびごとに変更され、ベストなマッチングを探す作業を繰り返して行っているが、今季も同様にそうしたマッチングを探すことが中心になりそうだ。
もちろんタイヤありきの話で、17年同様ダンロップタイヤを使用する。タイヤサイズもレギュレーションで規定された330(幅)/710(直径)R18(ホイール径)で、GT300は統一されている。しかしながらサイズは同じでもコンパウンドをはじめスペック違いは数多くあるので、その装着タイヤがベストなパフォーマンスを発揮できるサス・セッティングを探すことがポイントになる。
ショックアブソーバーはオーリンズで、スプリングはハイパコと変更はない。しかし前述のように空力性能が変更されているので、当然ダウンフォースも異なり、セッティングの熟成が重要項目となるわけだ。
澤田氏によれば、BRZの予選は大排気量の多いGT300の中でパワー的に厳しいものの、そこそこ速く走れている。それは単独走行ができるからで、レースで結果につながらないのはレコードラインを走れるケースが限られているからだという。つまり、ライバルとの競争であり、GT500マシンも混走しているので、レコードラインからハズレることがある。そうした時でもベストタイムが出せるようなセッティングが理想だということだ。
つまりレコードラインの幅が広いマシンづくりという見方もでき、エンジン同様ピーキーなアシでレースを勝つのは難易度が高すぎるということだ。そして、レコードラインを幅広くするためには、こうすればいい、といった簡単な答えがあるわけでもないことは、われわれでも想像できる。
「それはレースカーの究極の理想で、永遠のテーマですよ」と澤田氏は言うが、逆に「その永遠のテーマに挑戦していることでファンは応援してくれていると思いますし、そこを探していかなければいけないと思います。これまでも新しいことは試してきて、ぜんぜんダメだったということも多いですが、そういうことを繰り返しながら、見つけ出さないとだめですよね」と。
BRZはまだ、いじれる幅がある、とも言う。だがフレームは継続利用なので根本的には変更がない。オリジナルのパイプフレームを今季も使用するので、やはり、サス・セッティングと空力、ブレーキで稼ぐことになる。もっともパワーがあれば解決してしまうかもしれないが、性能調整のBOPで燃料リストリクターや30kgのハンデウエイトを搭載していることもあり、1150kgの車両規定にプラスの1180kgだけに、簡単にはいかない。もっとも現時点では、燃料リストリクター、ハンデウエイトが17年と同じ条件なのかは未定で、GTAからの判断を待っている状態でもある。
ちなみに、17年にトランスアクスル化を行なったが、その恩恵として前後重量配分が52:48から51:49へと変わっている。この数値的にはわずか1ポイントの違いなのだが、ぜんぜん違うらしい。そのメリットも18年は大いに活かしてほしいと期待する。
最後に、パワーユニットであるエンジン、トランスミッションに関しては来月レポートを予定している。また、2月22日は今期初のシェイクダウン・テストが富士スピードウエイで行なわれる。新空力デザインのお披露目でもある。そして開幕前の3月には岡山国際サーキットと富士スピードウエイで公式テストが行なわれるので、こうした変更がどのような結果になっていくのか、今から楽しみでもある。
■コックピット解説
ステアリング篇
右上段オレンジが右ウインカーボタン
その下グリーンはチーム無線。押しながら話す。
下段ブルーボタンがワイパースイッチ
イエローのボリュームはアンチラグ(ALS)の効き具合調整。5段階調整できる。
その左のON-OFFスイッチはピットレーン・リミッター。ONで50km/hに制限される。
左上段オレンジが左ウインカー
その下イエローはパッシングライト
右のグリーンは押しながらパドルを引くとニュートラルになる。
下段のレッドボタンが充電制御のON-OFFで、電気的抵抗をなくす。
その右のボリュームは3段階でターボ・ブースト特性の変更ができるが、ドライバーあまり変更しない
センターコンソール篇
上段のRainとLightは雨用と通常のヘッドライトスイッチ。
雷マークはキルスイッチ
IGはイグニッションのメインスイッチでONにしてから、下のスターターボタンで始動する。
2段目、PADDLEと書かれたトグルスイッチはパドルの電源スイッチ
EPSはパワステの電源
BLOWはフロントのデフロスター
COOLはクールスイッチの電源
W/Iは冷却用ウオーターポンプの電源ボタン
下段、ABSMAPは8段階で介入タイミングの変更ができる
T/CMAP 5段階トラクションコントロール
PADDLE MAP 6段階で変速スピードやドグを押す強さの変更が可能
EPS MAP パワステの特性変更で5段階調整できる
Fr、Rrはスタビの前後ソフト、ハードを変更できるスイッチ
最下段左の2つの白いノズルは、ドライバーのクールスーツとジョイント
> 特集 2018レースカーから探るSTIの先端技術
*取材協力:SUBARU TECNICA INTERNATIONAL
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