世間ではクルマの電動化が叫ばれている。NA・MT車(三菱パジェロミニ)、ツーストロークバイク(川崎KDX200SR)を愛し所有している化石のようなマニア(筆者)はどうにも肩身がせまい。
けど今、なぜそんなモノにこだわってるかというと、「そのうち乗れなくなるよね?」という不安があるから。考えてみて欲しい。シビックタイプR、スイフトスポーツ、BMW、ポルシェ、フェラーリ……といった「NAエンジンの高回転を楽しむ」はずだったモデルもどんどんターボ化されている。
もうこれ修行だわ!! フェラーリ512TRのエンジン降ろしで感じた 「12気筒のタイムリミット」
排気量に応じて毎年支払う、まるで罰金のような「自動車税」や燃費のことなども考えると、もはや大排気量自然吸気車は超贅沢趣向品、セレブカーといっていいだろう。
その中でも別格なのが12気筒エンジン車である。
アストンマーチン、ジャガー、ランボルギーニ、BMW、メルセデス、トヨタ……と16気筒(実質ブガッティのみ?)に比べて「激安車」すら存在するので選びやすいのも面白いところだ。
で、今回はその12気筒軍団中、永久不滅の大スター、フェラーリ512TRの維持費やメンテ、注意点などについて敏腕カリスマメカニック・尾上忠則さんにハナシをうかがった。
文/池之平昌信、写真/成田颯一
■見学のはずが……55歳の初体験
手慣れた手つきでタイミングベルト部分のカバーを外す尾上忠則さん。スーパーカー全般から2輪車まで何でもOKなスーパーマンだ
あれ? エンジンを降ろすところを見学するはずが、なぜかツナギが用意されている。尾上氏は言う。
「燃料や冷却・排気系のパイプ類、マフラー、ドラシャ、その他たくさん外して、あとはチェーンブロックで引き上げるだけだから。ここまで準備するのにも一日かかったんだよ。はいじゃあ右手で持ってるほうを引っ張って!」
戸惑いつつもジャリジャリと鎖を引っ張ると「畳半畳」ほどはあろうかという巨大なエンジンとミッションがユルユルと持ち上がっていく。いったいこれどれくらいの重さなんだろうか?
「さあねー。軽トラで運んだことあるけど、ウィリー状態みたいになってたから相当なんじゃない? 300キロくらいかなあ」
げげげ。そんなものバランス崩して落としたら手足どころか命すら危ないじゃん。けど、テスタロッサエンジンおろしで骨折とかしたら、かなりカッコいいかも?名誉の負傷的な?
「はい、交代。ここからは1センチ刻みで上げてくよー。横とか運転席の後ろのガラスとかに当たんないように、支えながらよく見ててね」
と言われても……手を添えつつ、「もう当たる!」とか「ちょっとならOK!」と叫ぶくらいしかできない。自分だって幾多の修羅場をくぐってきた55才(編註:著者はF1全戦取材カメラマンでした)だが、こんなに緊張する作業は生まれて初めてのような……。工事現場によく掲示されている「つり荷の下に入るな!」という意味がよーくわかる。
当然だが真上にしか上がらない。1メートルほど持ち上げたら、サイドブレーキをおろしたクルマをそーっと押してヅラす。作業開始から意外と短い15分ほどで、180度V型(水平対向)5リッターエンジンが木製の台上に着地した。
■水平対向12気筒のためのボディメイク
さすがのテスタロッサ(赤い頭)だ。オーラが違う。そして改めてデカさに驚愕。こんなものを載せて走ってるなんて!
「そうだねー。出した後の空洞をみてもわかるけど、スポーツカーっていうより、このエンジンを運ぶためのクルマなの? って言いたくなるよね」
重心を低くできるはずの水平対向だが、エンジンの下にミッションがある「2階建て」構造。後部に見えているのはクラッチなのだ。そして見たこともないような大きさのオイルフィルター。オイル交換だけでもかなりの出費がかかりそうだ。
「このフィルター高いのよー。4万くらいするよ。エンジンオイルは12L入るし、いいオイル使わないと怖いから、両方で10万くらいだね。ミッションオイルも10Lほど要るよ。プラグはまあ1800円くらいのだけど、12本だからね! ブレーキローターやパッドとか、同時代の348(V8フェラーリ)と比べても高価だね。そりゃまあ仕方ないでしょう」
むむむ。聞けば聞くほど12気筒の維持費がすごいことがわかる。けど、意外と普通の部分はないの?
「今回はタイミングベルトの交換なんだけど、その部品代は普通だったかな。けど、こんなふうにエンジン降ろすのも大がかりになるし、そのリスクも高い。どうしても工賃は高くなるよね。
でもカウンタックとかに比べたら、まだこのテスタロッサ系はラクなのよ。あれはクルマの前を持ち上げて斜めにして、エンジンミッションを引き吊り出すような形になるからね」
いやー、これでもまだラクだったとは! 全てが特別な世界なんだなあ。まあパジェロミニでオフロードを楽しんでる自分には無縁なのだが、とある友人が「456GTとかフェラーリFR12気筒モデルが他に比べてかなり安いけど、どうなの?何かワナでもあんのかな?」と言ってたことを思い出した。
「確かに新車時の値段からしたら、かなりお得な気がするよね。ホントにそのモデルに憧れて夢のクルマだった! とか、いくらお金をかけても維持したい! という愛と覚悟があれば止めないよ。
けど、安いの買って見栄をはりたい、とかだとたいへんな思いをするかもね。パーツ代、消耗品、工賃、税金(512TRは毎年10マン以上)……どうしても高くなるから」
自動車税の納税通知書。泣く子も黙る10万越え
なるほど、フェラーリに限らず、12気筒モデルならではのワナというかヤケド要素があるわけだ。それでもこの先こういうエンジンのクルマは減少していくだけだろうし、もう新型も望めないだろう。
てことは、燃料が供給される限り中古相場価値は上がるいっぽうだろうか。ホントに欲しければ買うのは「今でしょ?」と考えることもできる。
なんとも悩ましいところだが、「愛と覚悟」があるかたはチャレンジしてみてください。人生は一度キリなのですから。ブオーーーン!
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みんなのコメント
180度Vは両バンクでクランクピン共用するから
対向にはならない
水平ではあっても対向ではないから
最後の擬音が大衆車の音やん🤣🤣🤣