1台限りのクルマを所有できる稀有な機会
ベントレー・バトゥールへ求められる驚くほどの金額は、カーボンファイバーやレザー、様々な金属、高度な技術だけに支払われるのではない。他人が所有していない、1台限りの特別なクルマを注文できるという、稀有な機会へも支払われるといえる。
【画像】オーナーの望み通りに ベントレー・バトゥール 2021年のバカラル 他銘柄の限定車も 全139枚
実際のところ、可能な限りオーナーが望む通りのクルマを提供しようと、ベントレーは努めている。ラインナップの1つ、コンチネンタルGTを例にすれば、マリナーが厳選したオプションの組み合わせは460億通りにもなるという。
オーダーする側は、対価を支払うことをいとわない。平均で1台に3万ポンド(約525万円)も、オプションへ費やされるとか。
一層特別な1台を求めるなら、「マリナー・ビスポーク」という、ワンランク上のオプションも用意されている。そのぶん価格は跳ね上がるが、2022年のベントレーの生産数は前年比で4%増に留まったのに対し、利益を82%伸ばした要因の1つになっている。
しかし裕福なクルマ好きの場合、既存モデルに専用オプションを追加しただけでは納得できないという人もいる。そこで社内のコーチビルド部門、ベントレー・マリナーの出番となる。
バトゥールの英国価格は、198万ポンド(約3億4650万円)。カスタマイズの幅は、従来の比ではない。合計18台が作られるものの、ある1台のコーディネートが他の17台とかぶることはないはず。
ベース車両はコンチネンタルGT スピード
バトゥールのベース車両はコンチネンタルGT スピードで、現在完成しているのは、プロトタイプの2台のみ。ベントレーのデザインの方向性を示し、W型12気筒エンジンの有終の美を飾り、コーチビルド・プログラムの頂点に輝く存在となる。
2021年に登場した、印象的なベントレー・バカラルをご記憶の方もいらっしゃるだろう。バトゥールは、その後継モデルに当たる。
同社は、スタイリングについて特徴を3つ挙げている。ライオンが身を屈めて休んでいるような、レスティング・ビーストモードと呼ばれるテールエンドの処理と、サラブレッドの胸筋のように、屈強さを主張する直立したフロントグリルが、そのうちの2つ。
そして、エンドレス・ボンネットと主張される、フロントノーズから滑らかにボディ後方へ流れるラインが3つ目。確かにバトゥールを横から見ると、フロントからリアへ勢いよくカーブで結ばれている。W12気筒エンジンの存在を強調するように。
究極的には、世界で最も美しいクルマの1台に数えられる、1950年代のベントレーRタイプ・コンチネンタルを彷彿とさせることが目指されたそうだ。つまり、バトゥールも類稀な美しさが追求されたということだろう。
ベントレーでマリナー部門とモータースポーツ部門の最高技術責任者を務める、ポール・ウィリアムズ氏は、「わたしたちの未来のデザイン言語(特徴)を知っていただく機会です」。と話す。
W12は内燃エンジン技術の1つの高み
まったく新しいボディが、コンチネンタルGT譲りのメカニズムを包み込んでいる。とはいえ、フロントガラスの取り付け位置や、ルーフ部分の構造を担うヘッダーレール、主要なコンポーネントを固定するハードポイントなどは共有している。
衝突安全性のテストを受け直す必要があるほど、既存モデルへ手が加えられたわけではない。すべてのバトゥールは、英国で少量生産のクルマが対象となる車両認証(IVA)を受けると、アメリカへ渡るという。
未来のデザインという点で、筆者が関心を抱いたのはヘッドライトとフロントグリル。かなり主張が強く、大胆な処理を得ているように思う。ウィリアムズは、「過激さや不快さを感じさせるようなことはしません」。と口にする。
流れるようなボンネットの内側には、ベントレー自慢の6.0L W12型ガソリン・ツインターボユニットが、改良を受けて収まっている。コンパクトでありながらパワフルで、内燃エンジン技術の1つの高みにあるといっていい。
この傑作ユニットは、欧州の規制基準に準拠しているにも関わらず、2024年での製造終了が決定している。2030年までに、ベントレーは電気自動車のみをラインナップすることになる。
軽量で快音を響かせる、V8ツインターボはまだ当面作られるが、W12エンジンの猶予はあと少し。コンチネンタルGT スピードで指定することも可能だから、関心をお持ちなら急いで問い合せた方が良いだろう。
もし現実が許すなら、筆者も1台オーダーしたいところだ。
この続きは後編にて。
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