この記事をまとめると
■BMWは直列6気筒エンジンに対してこだわり続けているメーカーだ
かつては直4もあったけどいまは全部直3! なぜ軽自動車には「直6」「V6」「V8」などの多気筒エンジンがないのか?
■N52型エンジンは量産車用直列6気筒として意欲的なエンジンに仕上がっていた
■直列6気筒エンジンに対する情熱や熱意はBMWの威信や自信を如実に体現している
BMWといえばやっぱり直6エンジン
航空機エンジンメーカーをルーツとするBMWは、その社名もずばりBayerische Motoren Werke(バイエリッシュ・モトーレン・ヴェルケ=バイエルン・エンジン工場)の頭文字からとったものである。創業は第1次大戦中の1916年。戦闘機フォッカーD VIIに積まれた直列6気筒19リッターのタイプIII a型が、その記念すべき第1号だった。
最初のエンジンが直列6気筒だったというのは、今にして振り返れば、なんともBMWらしいシリンダー形式だったといえそうだが、同社初の4輪生産車となった1933年の303も、1173ccのM78型直列6気筒エンジンを積むモデルだった。
その後BMWの4輪生産車は、直列4気筒からV型12気筒まで多彩なエンジンを開発、搭載する歴史を歩んできたが、6気筒エンジンに関しては頑なまでに直列6気筒にこだわり続けている。何か理由があるのだろうか?
108年におよぶBMWの歴史のなかで、同社がひと際直列6気筒に対して強い主張を示したエンジンが、2004年に登場させたN52型(2497cc/2996cc)だった。当時、6気筒エンジンは2000~3500ccクラスの排気量をカバーするシリンダー数と見なされ、全長が短いV型6気筒はFF車両にも搭載可能であることから、もはや全長の長い直列6気筒は不要、という考え方が一般的となっていた時期である。
こうした時流にあって、BMWは質の高いミディアムサルーンを構成する要素として直列6気筒は必要不可欠と姿勢を打ち出した。新たな直列6気筒を作り上げたが、その内容がすさまじかった。量産車のエンジンでここまでやるか、という贅の尽くし方だった。
直列6気筒は、エンジン全長が長くなるため、エンジン重量が重くなりがちである。まず、この点に対応(というより払拭)するため、使用する材質を徹底的に検討した。クランクケースにアルミニウムとマグネシウムによる複合素材を採用。よく知られるように、軽量だが腐食や温度補償の問題がつきまとうマグネシウムに対し、BMW設計陣はその弱点を補う目的でアルミニウム素材を併用。
ほかにも軽量マニホールド、軽量中空カムシャフト、マグネシウム合金製ヘッドカバー、アルミニウム合金製シリンダーヘッド、アルミニウム合金製オイルパンなどの採用により、それまでBMWの中軸を担ってきたM54型直列6気筒と較べ、約10kgほど軽い161kgのN52型を作り上げることに成功。このN52型は、量産車用直列6気筒として最軽量となるエンジンに仕上がっていた。
BMWの理論では直6がクルマ用のエンジンとしてはベスト
では、なぜBMWはここまで直列6気筒にこだわるのか? 逆の見方をすれば、直列6気筒の長所と短所は何か、という話でもある。
短所に関しては、エンジン全長が長くなることで搭載する車両のエンジンルームにそれなりのスペースが必要になること、クランクシャフトが長くなることで重量が増えること、などが挙げられるが、これらについてはFR車に搭載、軽量化技術をふんだんに投入することなどで解決。少なくとも、N52型直列6気筒を搭載する上で、パッケージングとして見た車両側に問題点を残すことはなかった。
では、長所は何か、という話になるが、これはBMWの直列6気筒に対して歴史的に使われてきた形容語句「シルキーシックス」の表現にすべてが集約されている。絹のようにしなやかでスムースな肌触り、そんな回り方をするシリンダーレイアウトが直列6気筒であるという主張、そして評価である。
直列6気筒のクランク軸位相は120度である。これをシリンダーに置き換えると1番と6番、2番と5番、3番と4番のピストン/コンロッドが同じ位置(角度)にあることになり、慣性力は1次、2次、偶力もキャンセルされることから、ほかのシリンダーレイアウトにはない振動上の利点をもつことになる。理論的には、90度軸位相の直列8気筒エンジンも同様にスムースな特性となるはずだが、エンジン全長、重量など実用上の点から、もはや非現時的なシリンダーレイアウトであることは明らかだ。
BMWは、FR方式の市販乗用車に搭載し実用化(商品化)する上で、ネックとなる搭載スペースと重量の問題(軽量化しても全長が長いぶんだけ重心点は前方に移動するが)をクリアすれば、理想的な特性が得られるシリンダーレイアウトとして、歴史的に直列6気筒エンジンを採用し続けてきた理由はここにある。
余談だが、70年代終盤、BMWが意欲的に開発したミッドシップカー「M1」のエンジンも直列6気筒3453ccのM88型だった。4バルブDOHCヘッドをもつスポーツカー/コンペティションカーでの使用を前提としたエンジンだったが、やはりそのスムースなまわり方には定評があった。ちなみに、ボア93.4mm×ストローク84mmのシリンダースペックだったが、このエンジンは2気筒を切り落として2302cc(直列4気筒なので当然クランクシャフトは新規設計)のE30型M3用のS14型エンジンとして再活用されている。
パッケージング、効率の問題などから、6気筒はすべてV型レイアウトという認識になっていた当時の「常識」にあって、「いやいやそんなことはない」と、最新のテクノロジーで作り上げた直列6気筒のN52型は、まさにBMWの威信、自信を如実に体現する「シルキーシックス」の直列6気筒エンジンとしてひとつの完成形に達していた。
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