今年も新年度の始まりとなる4月からの値上げラッシュに見舞われている。首都高の利用料金も見直され、利用方法によっては上限料金が見直し前の1.5倍に跳ね上がることがメディアでも話題となった。
首都高の利用者にとってそんな泣きっ面に蜂的な料金改定が行われたのか?それでも首都高の実入りが1%しか増えないという同社の主張のカラクリを深堀りしていこうと思う。
値上げの4月突入から間もなく1カ月! 首都高の上限料金値上げで何がどう変わるのか!?
文/清水草一、写真/首都高速道路(株)、Adobestock
■4月から料金見直しとともに料金所のETC化の拡充なども実施された
4月の値上げラッシュに時を同じく料金体系の見直しが行われた首都高。実はその1年半前にはこのような資料で値上げが実施されることが予告されていた(詳細は画像ギャラリーを参照)
4月1日から首都高の料金が値上げされたと聞いている人は多いだろう。が、その内容を詳細に知っている人は、それほど多くないのではないか。
今回の料金改定では、非ETC車(現金当利用)に対する値上げが最も大きく、1320円から1950円になった(普通車)。約1.5倍の値上げだ。
ただ、首都高の場合、非ETC車の利用率は3%台とかなり少ない。また、ETC車載器を付けない理由は、過半数が「あまり高速道路を使わないから」となっている。つまり、今回の値上げをきっかけに、車載器を付けるという人は少ないだろう。
値上げと同時(4月1日)に、首都高のETC専用入口は34カ所に増えた。3年後にはほとんどの入口がETC専用になり、2030年には完全にETC専用になる予定だ。つまり、近い将来、非ETC車は首都高の利用ができなくなる。首都高のETC専用化に関して、私は以前から反対しているが、それはまた別の問題なので、今回は割愛する。
■距離別の上限料金が1.5倍へ……ただ、これは35.7km以上を走った場合のみの適用
ETC利用の場合は、距離別の上限料金が、これまでの1320円(35.7km以上に適用)から、1950円(55km以上に適用)に値上げになった(普通車)。
この、「1320円から1950円に上がった」という部分だけを見ると、首都高の料金は、現金等利用の場合同様、全体に1.5倍になったのか? と誤解してしまうが、値上がりしたのは35.7km超走った場合だけで、それ以下なら料金は変わらない。
35.7km超走るのは、どれくらいの頻度だろう。昨年の自分の走行履歴を調べたところ、首都高を100回以上利用して、わずか4回だった。
実際の利用状況はどうか。首都高速道路株式会社のデータによると、35.7km超の走行は、全体の14%となっている。つまり、14%のケースで値上げになる。
■上限金額に達するのは利用者全体の約3%ほど。意外に少ないと見るべきなのか⁉
ただし、値上げ額は利用距離によってさまざまだ。14%のうち、42kmまでの利用が半分弱を占めており、この程度なら値上げ額は大きくない。上限の1950円に達するのは、全体の約3%だ。
利用距離ごとの値上げ率の加重平均を計算したところ、料金収入の増加は3%程度と出た。利用者にとっては、平均して約3%の値上げということになる。
逆に値下げされるのは、まず深夜だ。0~4時の利用は2割引になった。深夜の利用率は全体の約6%。つまり、これによって料金収入は1.2%減少する。ただ、深夜に首都高を利用するのはタクシー、トラック、バスが8割を占めていて、一般ユーザーの利用は非常に少ない。
■物流業者等、料金値上げが死活問題となる利用者には値下げ幅が拡大する
もうひとつの値下げは、主に物流業者が利用するETCコーポレートカードの割引率拡大だ。専門用語だと「大口・多頻度割引のさらなる拡充」となる。具体的には以下のような内容だ。
「車両単位割引の基本割引率について、これまでの最大20%からさらに最大25%まで拡充するとともに、その割引対象額のうち、中央環状線の内側を通過しない利用分については、これまでの割引率5%からさらに10%まで拡充します。その結果、大口・多頻度割引は、これまでの最大35%から最大45%(車両単位最大35%+契約単位10%)まで拡充されます」(首都高のHPより)
大口・多頻度割引の計算は複雑で、詳細な利用データもない。すべての利用の割引率が10%拡大されるわけではないが、ざっと推測すると、平均割引率は従来より7~8 %程度上昇する。つまり、ETCコーポレートカードの利用者にとっては、これまでの平均30%割引(推測)が37~38%割引(同)となり、10%ほど負担が減少する。
首都高の場合、ETCコーポレートカードの利用率は、約3割を占めている。つまり、これによる料金収入の減少幅は、約3%となる。
■値上げの言葉が目立つが実際は利用実態に合わせた調整であり、今回の実施による首都高の収入増は1%程度だ
物流業者にとって高速道路料金の値上げは収益悪化に直結する頭の痛い問題。これまでも深夜料金・早朝割引を活用するなど、努力は続けているが……( 11thAlbum@Adobestock)
もうひとつ見落としてはいけないのは、中型車と特大車の値上げだ。
首都高は6年前まで、「普通」と「大型」の2車種区分だったが、2016年の料金改定時、NEXCOと同じ5車種区分に変更された。ただし、従来「普通」扱いだった中型車(4トン積トラックなど)と、従来「大型」扱いだった特大車(大型トレーラー)は、区分の変更によって大幅な値上げになってしまうので、激変緩和措置として暫定車種間比率が導入され、値上げが抑えられていた。
今回、その暫定比率が撤廃され、普通車に対して中型車は1.07から1.2に、特大車は2.14から2.75になった。つまり、中型車は約12%、特大車は29%の値上げだ。中型車・特大車の利用者は、大きな負担増になる。
ただ、この影響は、全体から見るとそれほど大きくない。首都高の交通量のうち、中型車は12%、特大車は1.8%と少ないからだ。これによる料金収入の増加も、2%程度にとどまる。
以上、料金改定による首都高の料金収入の変化をまとまると、このようになる。
●上限料金の値上げ/3%増
●深夜割引新設/1.2%減
●大口多頻度割引の拡充/約3%減(?)
●中型車・特大車の値上げ/2%増
<合計/約1%増>
このように、今回の料金改定で、首都高の料金収入は微増するという計算になった。つまり、利用者にとっては若干の値上げである。
これはあくまで平均値であり、個々の利用者ごとに事情は異なる。一般ユーザーにとっては、おおむね上限料金の値上げだけが関係するし、中型車や特大車のユーザーは、大幅な負担増が避けられない。
ただ、中型車や特大車といったトラックユーザーは、大部分が物流業者。値上げ対象外の普通トラックや大型トラックも所有しているケースが多く、大口・多頻度割引の拡充や深夜割引の新設が効いて、平均3~4%程度の負担減となるはずだ。
物流業者は負担減になるという私の推計は、全国トラック協会の動向が証明している。同協会はこれまで、首都高の値上げのたびに大反対運動を行ったが、今回の料金改定に関しては無反応だ。全国トラック協会が今、最も問題視しているのは燃料価格の高騰で、首都高の料金については何も言っていない。
■今回の料金変更でますます首都高の利用方法は「短距離型」に移行するだろう
東京都内を網の目のように張り巡らされている首都高。利便性は高いが交通集中による渋滞も慢性化しており、交通分散への対応も急務だ (hallucion_7@Adobestock)
では、今回の首都高値上げで、いったいどんな影響が出るだろう。
6年前の料金改定では、料金の下限が500円から300円に下がり、上限が900円から1300円に上がったことで、短距離利用が増えて長距離利用が減った。
今回、長距離が値上げになることで、長距離利用が減ることは間違いない。それによって、例えば新大宮バイパスや環状8号線、国道1号線、15号線、国道357号線(湾岸道路)といった、首都高と主に南北方向に並行する幹線道路の交通量が増えるなど、多少の影響が出る可能性はある。
深夜割引の新設に関しては、首都高の場合、NEXCOの高速道路のような長距離利用はないため、割引額が小さく、わざわざ深夜に走ってまで節約しようというドライバーはほとんどいないだろう。そもそも深夜は一般道も空いているので、そこまでして深夜に走るくらいなら、首都高を使わないはず。それなら以前から実行可能だった。
今回の首都高の深夜割引の導入は、交通量の平準化に寄与せず、ほとんど無意味だが、これは首都高がETC専用になった後に導入される「ピーク時割増」のプレリュードと考えるべきだ。
また、今回は激変緩和措置として、上限料金が従来の1.5倍以内に抑えられたが、2030年のETC専用化に合わせて上限料金は撤廃され、現状の最長距離(さいたま見沼―幸浦間87.3km)だと2990円になる可能性が高い。
「ええっ! そんな値上げ、冗談じゃない!」
そう感じるのも無理はないが、あまり心配はいらない。わざわざ狙わないかぎり、それほど長距離を走る機会はまずないからだ。
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