今自動車業界で騒がれている話題と言えば電動化だろう。この電動化の話題にはバッテリー電力のみで駆動するBEVだけでなく、ハイブリッド車なども含まれている。
しかし、ヨーロッパを中心にBEV化の動きが現段階では世界の中心と言える状況だ。もし世の中にBEVの車両が溢れだすとガソリンスタンドが姿を消してしまうかもしれない。そうなると雇用や経済面で問題が起きるかもしれないが、安全面でも問題が起きると筆者は考える。
EV需要でガソリンスタンドが危機に!! GS激減で無点検車が増加する!?
文/西川昇吾、写真/AdobeStock(トップ画像=beeboys@AdobeStock)
■実際のスタンドの数は?
低燃費なクルマやEVの普及によって、ガソリンスタンドの数はピーク時の半分以下となっている(Carolyn Franks@AdobeStock)
現在でも低燃費なクルマが増え、電気自動車が普及してきたことで昔に比べるとガソリンスタンドへの依存度は減っていると思われるが、実際のところの数はどうなのだろうか?
結論から言うと減っているのは事実だ。経済産業省自然エネルギー庁の調べによると、令和3年度(2021年度末)の時点で給油所の数は全国で28,475軒となっている。これは前年度比530軒の減少だ。
ピークは平成6年度末(1994年度末)の60,421軒なので、ピーク時からするとガソリンスタンドの数は半分以下になっているのだ。
■他人からクルマをチェックされなくなる
もしも将来的にBEV車が数を増やし、ガソリンスタンドで給油をしない未来がやってきたとしよう。現在のように無人の充電スタンドや家庭で充電することが当たり前になったとしたならば、一般ユーザーは他人からクルマをチェックされる機会がグッと減ることになる。
ガソリンスタンドではセルフ式であっても「タイヤの空気圧を見ましょうか?」「タイヤが減っているので交換した方が良いですよ」などと声をかけられることがあるだろう。そのような機会が減ってしまうのだ。
このような声掛けを“商品を売りたいから行う余計なお世話”と思う人にとってBEV化は好都合と思うかもしれない。もちろん営業目的のケースも多いが、なかには本当に心配して声をかけることだってある。
読者の皆さんの多くはクルマ好きであるから、自身が運転している車の状態を把握していると思うが、車は単なる移動手段と捉えている一般ユーザーは、自身の乗る車に無頓着なことも多い。タイヤの空気圧など普段は全く気にしない人がほとんどではないだろうか。
だからこそ、人から声をかけてもらうことで初めて気が付くことができるのだ。
(編註)国土交通省のアンケート調査によれば「日常点検をまったくしないでもよい」と答えた人のうち、11%が「ガソリンスタンドで見てもらったから」などの回答を寄せている
■一番身近なクルマの駆け込み寺
クルマに興味がない人にとっては、ガソリンスタンドがプロに目視でチェックされる唯一の場所。その場所がなくなれば愛車が危険な状態でも誰も気付いてくれないということになる(metamorworks@AdobeStock)
ガソリンスタンドはクルマに興味がある人もない人も、運転する人ならば誰しもが使う施設だ。マイカーを持っているほとんどの人がディーラーや整備工場の行くよりもガソリンスタンドへ行く頻度の方が多いだろう。言い換えればガソリンスタンドは一番身近なクルマのプロがいる場所だ。
BEV化でガソリンスタンドに行く必要が無くなったら、クルマのプロに目視でチェックされる機会が減ってしまうのだ。BEV車はオイル交換などは必要ないが、タイヤやブレーキは当然減る。そんな車両に車に対して無頓着な人が無人のエネルギースタンドで充電繰り返して乗っていたらどうなるだろうか?
きっとタイヤの空気圧はもちろん、減っても気が付かないだろうし、製造年月日が大幅に古くてもそのまま乗るだろう。タイヤ周りを覗き込むこともしないので、ブレーキパッドが減っていることにも気が付かないはずだ。
BEV車が普及して中古でも格安になり、多くの人たちに普及したら日常整備が疎かになっている車両が増えるのではないだろうか。ガソリンスタンドが減り、代わりに無人の充電スタンドの利用が増えるということは、何かしらの異常に気付いてもらえないクルマが増えることになると筆者は考えている。
「車検制度があるから大丈夫だろう」という声もあるかもしれないが、車検は基本的に2年に1度の検査で「その時だけ検査をパスできればいい」と考えるユーザーも多い。ブレーキパッドの残量は僅かでも検査に通るし、タイヤの製造年月日だって問われない(溝の深さだけ)。
電動化が進んでBEVが普及したとしても、有人のエネルギースタンドを生活に密着した形で残すべきではないだろうか。
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エンジンルーム点検するガソリンスタンドなんかないよ