2019年11月、北米市場のみ209台が限定販売された、STI(スバル・テクニカ・インターナショナル)のコンプリートカー、S209。
約43mm広げられたワイドフェンダーやドライカーボン製のルーフ&リアウイング、4本出しのエキゾーストパイプで武装したエクステリアがド迫力だ。
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心臓部には345.7ps/45.6kgmを発生するHKS製ターボチャージャーを備えたEJ25型2.5Lフラット4ターボを積む。価格はWRX STI標準仕様に比べて約300万円高い6万3995ドル(約693万円)。
一方、ほぼ同時期の日本では、555台のWRX STI EJ20 Final Editionが完売し、カタログモデルのWRX STIも2019年12月23日をもって注文受付を終了した。
S209は日本では売らないし、現行WRX STIはついに販売終了か……と感傷に浸っていると、STIからS209に試乗しませんか? というお誘いが来た。
しかも、2016年のニュルブルクリンク24時間レース優勝マシンのWRX STI NBRチャレンジ2016にも乗ることができるという。
さて、日本では売らないS209とはどんなモデルなのか? 禁断の果実と呼べるスペシャルマシンに仕上がっているのか? モータージャーナリストの松田秀士氏渾身の試乗レポートをお届けしよう。
文/松田秀士
写真/西尾タクト
初出/ベストカー2020年5月10日号
【画像ギャラリー】日本で売ってほしいS209&歴代Sシリーズの系譜
S209を群馬サイクルスポーツセンターで乗った!
日本では販売されず北米専売モデルとなったS209と2016年ニュルブルクリンク24時間レース・クラス優勝マシンのWRX STI NBRチャレンジ2016を群馬サイクルスポーツセンターにて試乗!
アメリカでしか売らないS209だが、特別に日本で乗ることができた。2020年3月26日、場所は難コースで知られる群馬サイクルスポーツセンター。
このS209はSTIが米国仕様のWRX STIをベースにエンジンや足回りを専用開発。内外装にも専用装備を追加したコンプリートカー。
STIが考えるドライバーの意のままに操れる速さを実現すべく、大幅な性能向上を達成した米国向け専用モデルだ。
STI製専用エアロパーツがてんこ盛りのS209。特にフロントバンパーサイドのカナードやフロント&リアのワイドオーバーフェンダーはド迫力で、猛々しい雰囲気を纏っている
S209の開発責任者、STI商品開発部部長・高津益夫氏によると、米国では日本のSシリーズは禁断の果実と言われているほどで、ずっと米国でSシリーズを出してくれというオファーが熱烈に届いていたそうだ。
今回やっとその要望に応えることができ、STIのコンプリートカーとして初めての米国進出にとても熱い思いを寄せているとのこと。
試乗する前に、S209のボディをチェックしてみよう。まずはスペシャルといえるのは、カーボンルーフを採用し、車体剛性の最適化と軽量化を狙っていること。
ドライカーボンルーフを採用し、車体剛性の最適化と軽量化を狙っている。シャークフィンアンテナはブラック化
S209ロゴ入りのドライカーボン製大型リアスポイラー。これはS208と同じものを採用している
STI製フレキシブルドロースティフナーをフロントとリアに採用。実はリアのドロースティフナーは近々日本でも発売される予定
そして、Sシリーズの定番といえるストラットタワーバーやドロースティフナーといったSTI独自のフレキシブルパーツが採用されている。
足回りには歴代STIモデルで最大の幅を持つダンロップ製265/35R19ハイグリップタイヤを履いたBBS製19インチ鍛造アルミホイールを履き、専用開発のビルシュタインダンパーと専用コイルスプリングに強化ブッシュを組み合わせている。
約43mm拡大された専用のワイドフェンダーが特徴。STI製BBS19インチ×9.0J鍛造アルミホイールにダンロップ製265/35R19タイヤを組み合わせている
タイヤがワイドになったぶん、オーバーフェンダーで約43mm拡げている。特にフロントフェンダーは一体成型で日本仕様のWRX STIがちゃちに見えるほど出来がいい。
そして注目のエンジン。ベースは、米国仕様WRX STI専用の2.5L、EJ25ターボで、これにS209専用のチューニングを施している。
専用開発の大径ターボチャージャーと、排気系に大口径テールパイプを備えた専用設計低背圧マフラーを採用。
吸気系にも専用の大型エアクリーナーと専用吸気ダクトを採用して吸気抵抗を抜本的に低減している。
その出力は歴代STIモデル最強となる、345.7ps/45.6kgmを達成。熱による性能低下を抑制するインタークーラーウォータースプレーも装備している。
EJ25型2.5Lフラット4ターボは、S208などに搭載されるEJ20型2Lターボ、329ps/44.0kgmを上回るSシリーズ最強となる345.7ps/45.6kgmを発生する
345psのEJ25ターボによる走りは異次元の速さ!?
3500rpmから上の抜けるような加速はEJ20は敵ではない。ヤンキー野郎の絶叫する姿が目に浮かび、恨めしいと松田秀士氏
スターターボタンを押して走り出す。米国仕様だから当然、左ハンドル右シフト。シフトフィールは日本仕様のWRX STIよりもいいかも。引っかかる感触もないし、とてもスムーズ。
サスペンションのフィーリングは予想以上に硬いが、レカロシートのフィット感と剛性感が身体をしっかりと固定してくれるのですべての操作が的確に行える。
このコースは非常に路面が荒れているので、米国のサーキットで煮詰めたというサスペンションにはかなり酷なコースだ。
しかし、攻め込むにしたがってサスペンションの初期の動きがスムーズに路面の凹凸を捉えるようになる。スピードレンジが高いのだ。
タイヤのハイグリップ化に合わせてスプリングレートやダンパーも強化。リアスタビライザーも強化(19mm→20mm)しているが、フロントはそのままとのこと。
EJ25ターボエンジン内部ではS209の専用プレートが光る。限定209台のうち、このクルマはSTI所有車のため、ナンバリングは000/000となる
少し重めのステアリングを切ったと同時にノーズが動く応答性がバツグン。しかもリアが安定してグリップする。
リアにはフロントに加えて、ニュルのレースマシンからフィードバックされた新開発のドロースティフナーが装備されている。
感動したのはEJ25ターボエンジン。かなり強力で、6600rpmからレッドゾーンとなるのでEJ20ターボの8000rpmと比べると、スペック上ではもの足りないと思うかもしれないが、3500rpmから上の抜けるような加速は、EJ20は敵ではない。
エキゾーストノートもレーシーだが、3速ギヤでも4速に入れても胸のすくような加速が味わえる。
それ以下のギヤでは4WDでよかったね、という感じ。もうひとつ、フロント6ポッドのブレーキが素晴らしい。
S209を全開にして絶叫するヤンキー野郎の顔が目に浮かぶ。これがアメリカでしか買えないというのは実に悔しいし、恨めしい。
高津氏にS209を開発するにあたって苦労したのはどこか聞いてみると、排ガスの認証を取るのに苦労したとのこと。米国は厳しく、例え補機が壊れてもクリーンでなくてはならないのだ。
S209のインパネ。専用パーツ以外のマルチファンクションディスプレイやルミネセントメーターなどは日本仕様とほぼ変わらず
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2016年のニュル24時間レースでクラス優勝したマシンにも試乗!
クラス2連覇を達成したNBRチャレンジ2016の鮮烈な走り。ファーストスティントを担当したカルロ・ヴァン・ダムは大雨時にあわやクラッシュという場面で”神回避”を披露した
そして、もう1台。2016年のニュルブルクリンク24時間レースで優勝したマシンにも試乗した。開発責任者は辰己英治氏だ。
実は私、2008年のニュルブルクリンク24時間レースで辰己氏のもと、WRX STIのステアリングを握っているのだ。
こちらも左ハンドル車だがトランスミッションはシーケンシャル。アクセル全開にしていればクラッチを切らずアクセルも戻さず、シフトアップが可能だ。
電気的なシフトカットを装備しているから機械任せ。だからシフトレバーを叩くように引くたびにパンッ、パンッ、パンッ、と瞬時にシフトアップしてゆく。
搭載しているのは、2LのEJ20ターボエンジンで340ps/47.0kgmを発生。しかし、車体重量が1230kgと軽量だから加速が凄まじい。
エンジンはEJ20ターボで最高出力340㎰、最大トルク47.0kgmを発揮する
しかも、スリックタイヤを履いているので、ノーマルタイヤならばコーナーにある路面の凸凹で車体が吹っ飛ばされそうになる状況でも、しっかりとグリップする。
いや、スリックタイヤだから、というよりは、サスペンションが路面の凸凹ににしっかり追従しているといったほうが正解だろう。
張り付くようなグリップ感やブレーキングにおいては、S209に輪をかけたように強力だった。
NBRチャレンジ2016のコクピット。6速シーケンシャルギヤボックスのトランスミッション、O.R.Cツインプレートクラッチを採用する。フロントにヘリカルLSD、センターに機械式有マルチモードDCCD、リアにSTI機械式LSDを採用
乗り終えて、辰己氏に印象を伝えると、
辰巳氏:「あの時のクルマから凄く進化しているでしょう」。
私:「凄く乗りやすくて、安定性がバツグンですね」。
辰己氏:「いろんなことがわかったんですよ。ボディは剛性があればあるほどいいと思っていたけど、そうじゃない。適度にたわまないとダメなんですね。例えばマグネシウムホイールは硬くて軽くてイイと思っていたけど、今は適度にたわむアルミを使っています」。
熱い目で終わりのない開発話をする辰己氏。2020年のニュルブルクリンク24時間レースは秋に延期されたけれど、その活躍が楽しみになってきた。
NBR2016の横には辰己英治総監督、S209の横にはSTI商品開発部長の高津益夫氏。そして撮影当日のマシンコンディションを最善にするために尽力してくれたSTIスタッフのみなさん
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S209の主な装備品
■足回り/メカニズム
・STI製ビルシュタイン フロントストラット(倒立式)&コイルスプリング
・STI製ビルシュタイン リアダンパー&コイルスプリング
・STI製BBS19インチ×9.0J鍛造アルミホイール
・ダンロップ製265/35R19タイヤ
・brembo製フロントベンチレーテッドディスクブレーキ[ドリルドディスクローター&
モノブロック対向6ポットキャリパー(シルバー塗装、STIロゴ入り、STIパフォーマンスパッド)]
・brembo製リヤベンチレーテッドディスクブレーキ[ドリルドディスクローター&
モノブロック対向2ポットキャリパー(シルバー塗装、STIロゴ入り、STIパフォーマンスパッド)]
・STI製フレキシブルタワーバーフロント
・STI製フレキシブルドロースティフナー(フロント/リアシートバック)
・STI製ピロボールブッシュ・リヤサスリンク(ラテラルリンク前・後)
・STI製サポートフロント
・強化バルブスプリング
・強化クラッチ
・大容量インジェクター&燃料ポンプ
・専用低圧損インテークダクト
・大型エアクリーナー&専用エアクリーナーボックス
・大径吸気パイプ
・低圧損ダクトブーツ
・大径ターボチャージャー
・低背圧パフォーマンスマフラー(STIロゴ入り)
・専用ECU
・パフォーマンスシュラウド
・インタークーラーウォータースプレー(パドルスイッチ付)
・MOTUL製5W-40エンジンオイル
・エンジンソレノイドブラケット(シリアルナンバー付)
・VDC[ビークルダイナミクスコントロール]
・アクティブ・トルク・ベクタリング
・STI製ショートストロークギヤシフトレバー
■操作性・計器盤・警告灯
・ルミネセントメーター(マルチインフォメーションディスプレイ付、STIロゴ入り)
・マルチファンクションディスプレイ(STIロゴウェルカム画面表示付き)
・インパネセンターバイザー[レザー調素材巻+シルバーステッチ]
・ウルトラスエード®巻ステアリングホイール(STIロゴオーナメント付き、シルバーステッチ)
・STI製プッシュエンジンスイッチ(STIロゴ入り、レッドタイプ)
・STI製本革巻MTシフトノブ(STIロゴ入り、ブラック)、シフトブーツ(シルバーステッチ)
■オーディオ
・6スピーカー(フロント4+リア2)
・スターリンク7.0インチマルチメディアオーディオ
・ブラックカラードルーフアンテナ(シャークフィンタイプ)
■内装
・RECAROフロントシート[シルバーステッチ+シルバーアクセント、STIロゴ+S209ロゴ入り、SRSサイドエアバッグ、シートヒーター付]
・リアシート[シルバーステッチ+シルバーアクセント]
・インパネ加飾パネル(レッド、S209ロゴ付)
・サイドシルプレート(S209ロゴ入り)
・ドアアームレスト(シルバーステッチ)
・センターコンソール加飾パネル(シルバーステッチ)
・シリアルナンバープレート(コンソール)
・サブトランク(タイヤパンク修理キット付)
■外装
・メッシュタイプフロントグリル(チェリーレッドストライプ、S209オーナメント付)
・フロントアンダースポイラー
・サイドアンダースポイラー
・リアサイドアンダースポイラー
・バンパーサイドベゼル(スチールメッシュ&クロームメッキ加飾付)
・バンパーサイドカナード
・ワイドフェンダー(フロント+リア)
・フロントフェンダーエアアウトレット
・S209ロゴ入りサイドガ―ニッシュ
・リアバンパー(チェリーレッドストライプ、エアアウトレットグリル付)
・S209リアオーナメント
・ドライカーボンルーフ
・ブラックカラードドアミラー
・ドライカーボンリアスポイラー(S209ロゴ入り)
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