毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回は日産 バサラ(1999-2003)をご紹介します。
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文/伊達軍曹、写真/NISSAN
■オデッセイの対抗馬、プレサージュの上級仕様としてデビューしたバサラ
大人気を博していたホンダの低床ミニバン「オデッセイ」の対抗馬として登場した日産 プレサージュの派生モデル。
しかしベースとなった素材(日産 ルネッサ)にそもそも難があったことと、「プレサージュの顔とお尻をちょっと変えただけ」という安直な姿勢がユーザーに敬遠され、発売からわずか3年半で消えていったミニバン。
それが、日産 バサラです。
バサラの「ベース」は、1998年6月に発売された初代日産 プレサージュ。1994年にデビューして爆発的なヒット作となった初代ホンダ オデッセイに対抗するために、日産が作った「日産版オデッセイ」とでも呼ぶべきミニバンでした。
初代プレサージュはオデッセイと同じヒンジ式の4ドアを採用した、サイズ的には初代オデッセイより少しだけ長く、幅は同じで、高さはオデッセイより75mm高いという低床ミニバンです。
しかし初代プレサージュは、後述する理由により車内のフロア高が高かったため、「全高が(オデッセイよりは)高い割に、車内はけっこう圧迫感がある」ということであまり人気が出ず、販売は伸び悩みました。
そのテコ入れ策の一環として1999年11月に追加された派生モデルが、今回紹介する「日産 バサラ」でした。
日産 バサラ。価格はプレサージュより高めに設定。プレサージュとエルグランドとの間を埋める狙いがあった。YESの曲「Owner of a Lonely Heart」と「そのスタイルは、心の奥に火をつける」というナレーションを載せたCMは当時大量に流された
こちらがプレサージュ(初代1998年~、2代目2003~2009年)。
V型6気筒のVQ型エンジンを搭載するなど高級ミニバンとして人気を博した。写真は初代のもの
基本的なシャシーコンポーネンツは初代プレサージュと共用で、内装や外板パネルもプレサージュとまったく同じものを使用。
そのうえで縦格子のビレットグリルとリアコンビランプを採用し、ヘッドランプやバンパーの形状も微妙にアメリカンテイストな方向へと振ったのが、バサラというミニバンでした。
搭載エンジンは3Lの自然吸気V6が主力で、そのほかに2.4Lのガソリン自然吸気直4と2.5Lの直4ディーゼルターボも用意。トランスミッションは4速ATのみで、駆動方式はFFとフルタイム4WD。
サスペンションはフロントがストラットでリアがマルチリンクです――というこのあたりも、実は初代プレサージュとまったく同じです。
リアビュー。全長×全幅×全高は4795mm×1770mm×1725mm、ホイールベースは2800mm。オデッセイ(初代)は4750×1770×1645mm、ホイールベースは2830mm。一見「近い」数字だが、後述される床面の高さが窮屈さと圧迫感を生んだ
そんな日産 バサラの販売は前述したとおり伸び悩み、一部改良やマイナーチェンジでなんとか起死回生を図ろうとはしましたが、事態は好転せず。
結果として2003年6月、プレサージュのほうは2代目へとフルモデルチェンジされましたが、バサラのほうはモデルチェンジされることなく、そのまま消滅しました。
約3年半という、新車としてはきわめて短い「生涯」でした。
■ユーザーから「敬遠」された!? バサラが鳴かず飛ばずに終わった理由
日産 バサラが、約3年半という短い期間でとっとと消滅してしまった理由。そのひとつには、「そもそものベースとなった車両が日産 ルネッサだったから」というのがあるでしょう。
初代プレサージュ/バサラのベースとなったルネッサの、さらにそのベースは、日産が1997年に北米で発売した「Altra EV(アルトラEV)」というリチウムイオン搭載のEVでした。
そしてAltra EVは1998年、日本でも「ルネッサEV」という名前で発売されました。
ルネッサEV(1997年 第32回東京モーターショーに出展されたモデル)
まあ1997年に発売された普通の日産 ルネッサは直4ガソリンエンジンを搭載するモデルでしたが、そもそものオリジンはEVですので、フロアはバッテリーを搭載できるよう二重構造になっています。
つまり床面はどうしても高くなり、そして頭上スペースは(車高を高くしない限り)窮屈になる、ということです。
そんなルネッサの骨格を利用して作られたのが初代プレサージュとバサラでしたから、低床ミニバンという割に全高はオデッセイより高く、しかし室内の高さは不足気味であるという、なんだかよくわからないパッケージングになってしまったのです。
これがまず第一に、日産 バサラ(と初代プレサージュ)が今イチ売れなかった理由です。
そして同時に、バサラの場合は「メーカーの安直な姿勢が嫌われた」というのもありました。
「ニューモデル、日産バサラ登場!」「プレサージュの上級バージョン!」とか言いつつ、実際に初代プレサージュと異なっていたのはグリルとライト、バンパー、そしてせいぜい内装のカラーやシート地程度。
それを「上級志向のニューモデル」として出されても、ユーザーとしては「なんだそりゃ?」と思うほかありません。
いや、昭和の時代には、そういった安直なバッジエンジニアリングもそれなりに威力を発揮していたものです。
しかし市場が成熟していくにつれ、そういった手法もだんだん通用しなくなっていきました。2020年の今となっては、まったくもって通用しないでしょう。
しかし日産バサラが登場した1999年といえば、元号で言うと平成11年。メーカーとしてはまだまだ昭和感覚が残っていて、「まぁぼちぼちイケるんじゃね?」と考えたのでしょう。
さすがに爆発的に売れるとは考えてなかったと思いたいですが、顔を変えることで「まあまあ程度は売れるだろう、イケるだろう」と考えたのです。
しかし実際は、ぜんぜんイケませんでした。
「小手先のワザ」はもはや通用せず、すぐに消費者から見破られてしまう時代になり始めたのが、日産 バサラが登場した平成11年頃のニッポンだったのかもしれません。
■日産 バサラ主要諸元
・全長×全幅×全高:4795mm×1770mm×1725mm
・ホイールベース:2800mm
・車重:1620kg
・エンジン:V型6気筒DOHC、2987cc
・最高出力:220ps/6400rpm
・最大トルク:28.5kgm/4400rpm
・燃費:8.8km/L(10・15モード)
・価格:301万8000円(1999年式 X)
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みんなのコメント
ヒンジドアも当時はそれでよかったと思いますけど、巷がオデッセイだらけだったので、良くも悪くも人と違うのが良いとこでした。
全てほとんど話題にも上らず売り上げ先細りでフェードアウトしていった車ばかり。