発売から月日が経っても輝くクルマもあれば、そこまで日数が経っていないのにパッとしなくなってしまうクルマも多いように思える。
それはスーパーカーなどでも同じのようだ。ホンダが満を持して登場させた2代目NSX(2016年発表)。国産随一のミドシップスーパーカーはどうにもその輝きを失いつつある。
本当に高い?? 値札に騙されてない?? 割高感のあるクルマが適正価格か見極めるには
ハイブリッドシステムもAWDの技術も一線級なのに対し、日本のみならず世界的な評価は決して高いとは言えない。
なぜ初代では世界が震えたNSXが2代目でこうなってしまったのでしょうか。NSXに足りなかったものとはいったい?
文:清水草一/写真:ベストカー編集部
■人気はないのに納車待ちが3年という不思議な存在
北米でホンダNSX(正確にはアキュラNSX)に、イエローのボディカラーが追加発表されたという。
【ACURA NSX 2020年モデル画像ギャラリー】
スーパーカーなのに、いままでイエローがなかったのが不思議といえば不思議で、このイエロー、初代NSXでは5番目に人気のあったボディカラーだという。
北米アキュラNSXにイエローが追加された。そもそもスーパーカーといえばイエローは定番色に思えたが……。【NSXスペック】
パワーユニット:3.5L V6ツインターボ(ハイブリッド)、エンジン最高出力:507ps/6500-7500rpm、エンジン最大トルク:56.1kgm/2000-6000rpm、モーター最高出力(前/後):37ps/48ps、モーター最大トルク(前/後):7.4kgm/15.1kgm
いや、そもそもスーパーカーなのに、ボディカラーが8色しかなかったのが問題。それが9色になったところで大差はないとも言える。
たとえばポルシェ911は17色。フェラーリ488は25色もあり、目ン玉が飛び出るような追加料金を払えば、あらゆる特色のオーダーにも対応している。
思えば新型NSXは、エクステリアにスーパーカーらしくない部分が散見された。マイチェン前はフロントグリルにメッキが使われていたが、通常、スーパーカーにメッキが使われることはない。
メッキは基本的にラグジュアリー志向のもので、スポーツカーには似合わないからだ。イエローがなかったというのも、通常のラグジュアリーセダンっぽい感覚で作られたクルマだから? という気がしないでもない。
当然ながらフェラーリなどはイエローを通常色として設定している。やはりスーパーカーを作ってきた歴史の差なのか?
昨年のマイナーチェンジでフロントグリルのメッキはボディ同色に変更され、今回は北米でイエローが追加されたというのはつまり、NSXはスーパーカーのあり様を、発表後になって勉強しつつあるということだろうか。
正直なところ、新型NSXの人気は、世界的に低迷している。年間生産台数2000台、日本への割り当ては年間100台(?)と限られているため、現在も納車待ちは3年と言われているが、海外のオークションではすべて定価割れしている。
日本でも、走行距離がほんのわずかな個体が、2000万円を切っている。需要に供給が追い付かず、買いたくても買えない状態なら、こういうことにはならないはずだ。
前期型NSXのグリルにはご覧のようなメッキ処理があった。スーパーカーには基本的に見られない装飾だが……
我々の実感としても、新型NSX人気は、まったくと言っていいほど盛り上がっていない。NSXで走っていれば、珍しいがゆえに注目度は高いが、それだけ。いまごろになって「初めて見た!」という反応だ。
私の周囲にはスーパーカーファンが多数いるが、「新型NSXが欲しい」という人は、まだひとりもいない。人気はないのに納車待ち3年。実に不思議な存在だ。
■輝きを失わない日産GT-Rとは何が違ったのだろうか?
一方、登場から13年も経過した35GT-Rは、いまだにメディアからの注目度は高いし、世界中に熱烈なファンがいる。
35GT-Rも、ビジネス的に成功したとは言えない。販売台数を見ても、グローバルで年間1000台強にとどまっている。
いよいよ熟成の時期にきたGT-R。すでにモデルライフは13年を迎えようとしている
これは、フェラーリやランボルギーニの販売台数と比較すると数分の1レベルで、価格の安さを考えると、ビジネス的には大失敗と言ってもいいかもしれない。
しかし35GT-Rは、間違いなく神話になった。なぜならGT-Rは、価格当たりの速さなら世界一だからだ。
加えて、チューニングによって世界一クラスの速さに仕立てることもできる。他のスーパーカーはいじるのが難しいので、この発展性はGT-Rの絶対的な強みだ。
いっぽうNSXはどうか。
エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド・スーパーカーとしては、他にマクラーレンP1やラ・フェラーリがあるが、それらは1億円以上の超雲上界クラスで、NSXは断然値段が安い。
つまり、世界一安いハイブリッド・スーパーカーだ。しかし、世界一なのはその点だけ。世界一速いわけではなく、GT-Rのようにチューニングできるわけでもない。
価格は2000万円台中盤で、フェラーリやランボルギーニより「そこそこ安い」という微妙な位置にいる。
この微妙さ、まさにビミョーだ。富裕層から見ると安物スーパーカーなので魅力的ではないし、逆に大衆にはまったく手が届かない。
それでいて、クルマそのものに強烈な個性や、圧倒的な唯一絶対性があるわけではない。
初代NSXはセナがセッティングを煮詰め、そしてミドシップながら荷室もあった。そして徹底的に運動性能を煮詰めたタイプRも設定し伝説になった。現行型はいったいどうなる??
十分に速いし、よく曲がるし、シチュエーションによって使い分けもできるいいクルマだが、スーパーカーというのはバランスの良さではなく、圧倒的な非日常性のために存在している。
ハイブリッドというメカも、スーパーカーとしては特にアドバンテージにはならない。
現在、スポーツカーは二極分化している。雲上界か、ギリギリ大衆の手に届くかのどちらかだ。
前者はフェラーリやランボルギーニで、後者はポルシェ・ボクスター系からマツダロードスターまで。
ポルシェ911は例外的に中途半端な価格帯にあるが、これはポルシェという圧倒的なブランドゆえ、価格を超越して成り立っている。
現在ホンダは、大衆車としての地位は世界中でしっかり築いているが、ブランドイメージが高いかといえばそうでもない。
ましてやスーパーカーの世界では、初代NSXに続いてようやく2台目をリリースしただけの新参者。F1での神話も遠い過去の話だ。
つまりホンダ車は、NSXも含めて大衆車の延長線上にあるわけで、スーパーカーをリリースするなら、安い値段で天上界のスーパーカーたちをブチ抜く! という、下克上的存在にすべきだったのではないか。
棲み分けとしては、GT-Rのようにパワーで迫るのではなく、かつてのロータス・ヨーロッパのように、軽量ボディ&コーナリング性能で勝負する、ライトウェイトスーパーカーにすべきだったんじゃないか?
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いまさら言っても詮無いことだが、いつか次期NSXが出ることがあれば、ホンダのスーパーカーはどういうフィールドで戦うべきか、勝算があるとすればどういうポジションなのか、それを考えてほしい。
そして、世界中の大衆が憧れるような、独自のスーパーカーをリリースしてほしい。あくまで大衆向けでお願いします!
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