衝撃の登場から丸9年が経過した2021年4月5日。トヨタとスバルの共同開発によるライトウエイトFRスポーツカーが第2世代となって「トヨタ GR86」と「スバル BRZ」として、ついに公開された。それぞれ今夏および今秋の発売が正式にアナウンスされるとともに、そのディテールも明らかに。さて、クルマ好きの期待を背負う2021年最大の注目株を文章と動画で立体的に紹介していこう。(※トヨタ86は新型からGR86に名称変更されます。本稿でも新型86はGR86と表記します)
NAかつD4-Sを採用した2.4Lのボクサーエンジンはスバル初
なにはともあれ、この記事をご覧になっている方が気になるのは、新開発の2.4Lエンジンだろう。2.4Lの水平対向エンジンは、2018年から北米で発売されている大型SUV「アセント」にも搭載されているが、あちらはターボ仕様。最高出力は263ps/5600rpm、最大トルク38.3kgm/2000-4000rpmで、パワーはそこそこでどちらかと言えばトルク重視のチューニングだ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
一方、今回「GR86」「新型BRZ」に搭載される新開発エンジンの日本仕様は、(現段階ではあくまで開発目標値だが)最高出力235ps/7000rpm、最大トルク25.5kgm/3700rpmというもの。トヨタの直噴/ポート噴射技術であるD4-Sも先代に続き採用され、スポーツエンジンに仕立て上げられている。ちなみに先代に搭載されたFA20型は、それぞれ207ps/7000rpm(6速MT車)、21.6kgm/6400-6800rpm(同)というスペックだった。
注目すべきは最大トルクと発生回転数の違いだ。先代比およそ15%向上した最大トルクを、新型エンジンはわずか3700rpmで発生するのだ。先代は速く走らせようとするとパワーバンドを維持するのにそれなりのテクニックが必要とされたが、新型ではよりイージーにスポーティな走りが味わえるはずだ。実際にその差はかなり大きいらしく、試乗した関係者は「発進時や低速走行時のアクセルワークが格段にイージーになった一方で、高回転まで段付きなく吹け上がる。軽快かつ熟成されたスポーツカーに仕上がっている」と証言していた。
SGP開発で得たノウハウを「GR86」「新型BRZ」に投入
プラットフォームは先代と同じくスバルが主担当となって開発された。基本骨格は先代で開発されたものを使われているものの、新たにSGP(スバルグローバルプラットフォーム)の開発で得られた知見が随所に盛り込まれ、インナーフレーム構造や構造用接着剤の採用など、ボディの剛性のさらなるアップが図られた。
フロントの横曲げ剛性は約60%、ねじり剛性もおよそ50%と大きく向上。その結果、先代でも定評のあったハンドル操作の応答性はさらに向上して、ライトウエイトFRスポーツらしい軽快な運動性能を実現しているという。また、プラットフォームの剛性バランスの見直しにより、とくにコーナリング時のトラクション性能もアップしているとのこと。ピュアスポーツカーらしい走りが堪能できそうだ。
またスポーツカーにとっての「軽さ」は、エンジンパワー以上の価値がある。先代もボンネットフードにアルミ製を採用するなど軽量化には並々ならぬ意欲を見せていたが、新型はフードに加えて、ルーフやフロントフェンダーにもアルミを使用。エンジン出力の向上や各種安全対策による重量増加を抑えるとともに、前後左右重量配分の適性化やルーフの軽量化による低重心化も実現する。
基本的なデザインは両車共通だがディテールにこだわり
基本的なデザインは、先代同様、トヨタチームが中心となって手掛けた。GRスープラに通じるダックテール形状のリアまわりの処理、テールランプは両車共通だ。ゆえに外観の違いは主にフロントマスク周辺に集中している。具体的には、ヘッドライト(ユニットの形状そのものは同じ)のデイタイムランニングライト、そしてバンパーフェシアの造形の違いだ。
実はダクトまわりの処理にちょっとした秘密がある。写真ではわかりにくいのだが、ダクトを囲むブラックの樹脂パーツの一部に、梨地のような微妙な凹凸処理が施されている。言われなければ気がつかないほど微妙な加工なのだが、空力性能が向上するものだという。
これは数年前、スバルチームがニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場したときのWRXに「ツヤ消し加工」が施されていたが、その時に得られたノウハウが今回のこの微妙な加工に反映されているわけだ。しかもGR86と新型BRZで異なった処理が施されているというので、実車が発売されたら直接触れてご確認いただきたい。
インテリアには両社の思惑が如実に反映されている。基本的な造形やスイッチ類などは両車共通だが、その中でも開発陣やデザイナーは独自の主張を盛り込んでいるのだ。たとえば、シート。形こそ同じだが、GR86は2種類のカラー(ブラック/シルバーもしくはブラック/レッド)を用意。一方、落ち着いたスバルはパーフォレーション(シート表地の織り目)にシルバーを織り込み、そこにレッドのステッチ類を施すなど落ち着いた雰囲気を重視している。
また、ボクサーエンジンをイメージしたインパネには、エンジンの始動/停止時に異なるアニメーションが写し出されるのも楽しい。GR86では、リア/リアサイドのガラスが全車素通しであるのに対して、新型BRZはブロンズ色のプライバシーガラスを採用しているあたりにも両社の微妙な考え方の違いが反映されている。
その違いは先代以上、走りの神は細部に宿る
パワートレーンやプラットフォーム、そして内外装の多くを共用する2車だが、その走りはスポーツカーに寄せる両社の想いを如実に反映したものになる。前出の関係者によれば「別モノとは言わないが、少なくとも先代とは比べものにならないほど(その走り味)は違う」という。
その違いをひと口で言えば、「新型BRZは従来の延長線上、一方でトヨタはGRという新ブランドに相応しい尖った走り」を目指したようだ。とくにトヨタ側の拘りは相当なもので、いったん決まりかけていたセッティングを「GRらしさが足りない」ということで一からやり直したほど。スープラ、GRヤリスと続く、GRブランドのグルーバルカー第3弾としての期待値はかなり高いのだ。
結果的に、サスペンションだけでなくパワーステアリングのセッティングもGR86独自のものとなり、かなり尖ったものになっているらしい。神は細部に宿るというが、スポーツカーの走りの神も細部のチューニングに宿るらしい。
繰り返しになるが、新型BRZの発売は2021年の夏(7月くらい?)、GR86はやや遅れて秋頃(9月~10月くらい?)と公表された。実際の発売までにさまざまなプレイベントも開催予定とのことである。情報を入手次第、お届けしたい。「動くGR86/BRZ」はこちらからどうぞ!
[ アルバム : 新型GR86/BRZ はオリジナルサイトでご覧ください ]
トヨタ GR86/スバル BRZ 主要諸元(プロトタイプの開発目標値)
●全長×全幅×全高:4265×1775×1310mm(※)
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1270kg(6速MT仕様)
●エンジン:水平対向4気筒 DOHC
●総排気量:2387cc
●最高出力:173kW(235ps)/7000rpm
●最大トルク:250Nm/3700rpm
●トランスミッション:6速ATまたは6速MT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●WLTCモード燃費:未発表
●タイヤサイズ:215/40R18
●車両価格:未発表
※全高はルーフアンテナを含む数値。ルーフ高は1280mm。
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