この記事をまとめると
■メルセデス・ベンツの新型Eクラスにレーシングドライバーの中谷明彦さんが試乗した
メルセデス・ベンツは新型Eクラスを日本初お披露目! ガソリンエンジンによる上質で軽やかな走りと電気モーターによるスムーズでパワフルな加速を楽しめる【TAS2024】
■PHEVのE 350 eは十分なスペックを持っているが一般道はほぼEV走行でまかなえた
■E 350eとE 220 dとE 200はそれぞれ異なるキャラクターを確立させている
フルモデルチェンジしても伝統を継承する新型Eクラス
メルセデス・ベンツEクラスは世界中で大きなシェアを獲得しているミドルサイズセダンだ。今回、フルモデルチェンジを受け、日本国内にも登場した。
Eクラスは世界累計で1600万台以上販売され、メルセデス・ベンツの屋台骨を支える中心的なモデルとしても知られている。セダン、そしてステーションワゴンなど、実用性も高く、ドイツではタクシーに使用される車両のほとんどがEクラスであったり、また筆者自身もW124型のEクラスステーションワゴン「320TE」を所有していたこともあった。
今回の進化でパワートレインには2リッター直4直噴ディーゼルターボエンジン+ISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)を搭載するマイルドハイブリッド仕様と、同じく2リッター直4直噴ガソリンターボエンジンにISGを備えたガソリンエンジン搭載車、さらに25.4kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載するPHEV(プラグインハイブリッド)仕様が新たにラインアップに加わり、シリーズを構成している。いずれも9速のフルオートマチックトランスミッションを備え、後輪で駆動するFRモデルとなっており、Eクラスの伝統を継承している形だ。
今回試乗するのは、PHEVのE 350 eのセダンと、ガソリンターボエンジン+ISG搭載のE 200ステーションワゴン、さらにベーシックなモデルとなるディーゼルターボエンジン+ISG搭載のE 220 dセダンの3モデルである。
まず、PHEVのE 350 eに試乗してみる。外観的にはいずれも統一性が図られていて、新世代のメルセデス・ベンツらしく、清楚で品のあるデザインだ。また、フル電動モデルのEQシリーズのような電動化をアピールするフロントグリルをもち、先進さに伝統が融合されたような美しいデザインでまとめあげられている。
新型となったW214型はセダンで見ると全長+20mm、全幅+30mm、全高も+15mmと、先代となったW213型Eクラスよりもひとまわり大きくなっているが、その拡大分のすべてが2960mmとなったホイールベースも含めて、室内スペース拡大のために使われているという。
クルマに乗り込むと、その新デザインとなったインストゥルメントパネルが新世代のクルマであることを物語っている。ほかのメルセデス・ベンツやEQシリーズなどと同様に、カラー液晶のメーターがドライバー正面に配置され、ダッシュボード中央部には大きな液晶モニターが備えられている。 さらに、今回試乗する車両にはすべてデジタルインテリアパッケージが装備されており、いずれもスーパーモニターと呼ばれる、助手席側にも大きな液晶画面が用意されていて、EQシリーズとほぼ同レベルの先進的なコネクテッド機能を備えている。
しかし、シートの作りやステアリングホイールのスイッチ類など、従来のメルセデスベンツの仕組みを引き継いでいて、旧型モデルから乗り換えてもその操作に戸惑うことがないようにあつらえられている。
ブレーキペダルを踏み込みスタートストップボタンを押してシステムを起動する。デフォルトではエレクトリックモードとなっており(始動時のバッテリー充電残量レベルにもよるが)、走り始めはEVとして走行し始める。バッテリーの容量は25.4kWhで、EVのEQEよりも小型だが、通常のマイルドハイブリッドモデルよりは大きなバッテリー容量となっていて、WLTCモードも等価EVレンジでEV航続距離として112kmを達成できているとして公表されている。
E 350 eの駆動モーターは、エンジンとトランスミッションの間に配置され、95kWの最高出力を発生する。また、最大トルクは440Nmを0回転から2100回転まで発揮でき、EV走行時においては極めてスムースで力強く、静かな走り出しが可能だ。
ちなみにEVモードは時速130~140km前後まで持続可能であり、日本国内であれば高速道路の最高速度120km区間も含めてすべてEVとして扱えるのがうれしいところ。
一方で、組み合わされるガソリンターボエンジンは、2リッター直4直噴にターボチャージャーを装着したもので、最高出力は150kWを6100回転で発生する。最大トルクは320Nmを2000~4000回転で発生。システム総合出力としては単純にモーターとエンジンの出力をコンバインしたものとはならないが、それでも必要にして十分以上の出力を備えていると言えるだろう。
今回は一般道での試乗ゆえ、速度は低く抑えなければならないが、スペック的には十分な能力、性能を備えているということは承知しておく必要があるだろう。ちなみに車体の重量は2210kgとなり、それはバッテリーや駆動モーターの重さが作用したものであるが、バッテリー搭載位置などから重心が低く、また前後重量配分も向上させられているので、ハンドリングや操縦安定性に及ぼす影響は極めて少ないと言えるだろう。
一般道ではほぼEVモードで終始する。ドライブモードはコンフォート、スポーツ、エレクトリック、そしてバッテリー充電やエレクトリックとハイブリッドさらにインディビディアルと備わっている。スポーツモード選択時はエンジンが始動し、エンジンパワーとバッテリー駆動のモーターパワーの両方が適切に管理され発揮するようになっている。また、エンジンが稼働すればバッテリーへの充電が行われ、バッテリー残量が低下したときは、このスポーツモードを積極的に使用することで駆動バッテリーの充電量を増やしEVレンジを引き伸ばすこともできる。
また、スポーツモードではステアリングのレスポンスやトランスミッションの変速プログラム、サスペンション設定がスポーティにセットアップされ、フラットライドな乗り味を提供してくれる。
ただ、一般道においては、路面の段差や繋ぎ目などでハーシュがきつく感じられ、乗り心地は固めである。装着されているタイヤがミシュラン・パイロットスポーツのeプライマシーという電動車用に合わせて設計されたタイヤ、つまり重量の重い車両用として開発された銘柄であったことも要因として考えられるが、乗り味は全体としてハードで固め。コンフォートモードを選択し、ショックアブソーバーの減衰力を低めて走ってもハーシュの強さはそれほど変わらないため、タイヤ自体のサイド剛性が強く路面反力が減衰されないまま伝わってくるのではないかと思われる。
やや固めな乗り心地も動力性能や静かな室内など質感は高い
また、このE 350 eには20インチのホイール/タイヤがセットで組み込まれているため、通常の19インチ仕様と比べても、バネ下が固く感じるのは仕方がないところだろう。
一般道を走る限りにおいては、この足の固さが若干気になったが、それでも動力性能や静かな室内など質感が高く、EQシリーズに勝るとも劣らない静寂な質感を実現している。
試乗車にはオプションながら後輪操舵システムが備わっていた。これは低速では前輪とは逆相に最大4.5度まで転舵することができ、最小回転半径は5.4メートルと極めて小さく設定されている。国産コンパクトカー並みの最小回転半径は特筆に値するものだ。速度が上がると同相に転舵されるようになり、操縦安定性をより一層高めている。
ステアリング特性のリニアリティやパワートレインのドライバビリティのよさなど、極めてうまく仕付けられ、本当に扱いやすく走りやすい。狭い日本の道でも操作性がよく、運転のしやすいクルマになっていることが確認できた。おそらく完全電気自動車のEQEに踏み込めないような使用環境にあるユーザーであれば、このPHEVの存在は大きな魅力となるに違いない。PHEV化されることによる重量増は約200kg。販売価格は990万円台となっていて、 ガソリンやディーゼルのISGモデルと比べても割高な印象は受けない。
ちなみに試乗車のE 350 eスポーツエディションスターの場合、通常のE 200モデルでオプションとなるAMGパッケージ約60万円分が標準装備となり、国や東京都、各自治体の補助金などを加えると、実質的にはほかのモデルと比べても価格差はほとんどないという。
残念なのはPHEVバッテリーにより、リヤのトランクのフロアが若干高く配置され、それにより荷室容量が犠牲になっていることだ。マイルドハイブリッドのセダンであればゴルフバック3つが積載可能なところ、PHEVではふたつが搭載できるということだ。ただし、リヤシートバックは分割可倒式でトラックスルーが可能なので、そうなると荷室容量はかなり大きくなる。燃料タンク容量は50リッター確保されており、燃料消費率はWLTCモードで12.7km/Lとなっていて、EVモードの112kmを合わせると最大航続距離は747km前後となる。
PHEVシステムには、V2H(ビークルtoホーム)やV2L(ビークルtoロード)にも対応しているほか、CHAdeMOの急速充電にも対応しており、インフラに対する適合性も高いという部分で歓迎されることになる。
次に、ディーゼル+ISGのE 220 dセダンに試乗してみる。トランスミッションは同じく9速ATで、ドライブモードはエコ、ノーマル、スポーツ、インディビジュアルとなっているが、サスペンションはコンベンショナルなスプリング/ダンバーユニットのため、足まわりの固さは変化しない。ただ、トランスミッションの変速制御やステアリングの応答性などはモードによって若干異なり、エコモードでは軽くハンドルを切ることができ、女性にも好まれる特性となっている。
E 350 eで気になった路面のハーシュは軽減していて、ピレリのタイヤ特性によるところも大きいといえるだろう。全体としては非常に軽快感のあるハンドリングで、一方で車体の作り込みや雰囲気などは重厚で質感の高い走りを体感することができた。
E 200/220シリーズは後輪操舵を選択できないのでE 350 eよりも最小回転半径は大きくなるが、それでも前輪の最大切れ角は39度と大きく取れ、一般的な同クラスの車両と比べたら最小回転半径はずっと小さい。 この辺はメルセデス・ベンツ車が古くから持つ特徴をうまく引き継いでいるといえる。エンジンが縦置きだからこそできるこうした機能性の高さが引き継がれているのは、ユーザーとしてもうれしい限りだろう。
最後にワゴンのE 200ステーションワゴンへ乗り込んでみる。こちらはガソリン直噴ターボエンジンと組み合わされている。E 200のエンジンはガソリン直噴仕様でも車外にいると多少ガラガラ音を発している。E 220 dはディーゼルとしては静かだが、ガソリンも同じような音色、音量で音だけで区別するのは難しいと思えるほどだ。そのノイズは室内へはうまく高効率に遮断されていて、室内にいればディーゼルもガソリンエンジンも静かに感じるものとなっている。
エンジンの重量はガソリンエンジンの方がディーゼルより軽い。車体はステーションワゴンのほうが重くなるのだが、結果としてガソリン搭載のステーションワゴンは1910kg。ディーゼル搭載のセダンは1920kgでワゴンよりも10kgほど重量が重くなっている。
その結果、前後重量バランスに優れているワゴンは、荷室容量が最大1830リットルにもなり、かなりの荷物を搭載することが可能だ。5人乗車時でもゴルフバックなら3つを格納することができ、リヤシートバックを倒せば、スノーボードやスキー板など大きなものも搭載することができる。ステーションワゴンは昔から「たくさん積めるワゴン」として実用性の高さが評判だった。そうした特徴を新型も確実に引き継いでくれているのだ。
Eクラスといえば「ステーションワゴンがベスト」という印象を持っているユーザーも多く、今回EVではなく内燃機関を備えたマイルドハイブリッドとしてステーションワゴンが追加されたことは、大きな魅力として再び多くのユーザーの心を掴むことになるだろう。
E 350 eそしてE 220 dのセダンとE 200のステーションワゴン。これらはいずれも確立されたキャラクターをもち、価格差も大きくないため、 ユーザーは選択に大いに頭を悩ますことになりそうだ。
ただ、それぞれに特徴が明確に差別化されている部分もあり、たとえばPHEVならEV的な使用が可能であるということ、ディーゼルなら燃料代が安くなるということ、ガソリンエンジン仕様ならば軽量でバランスのいい軽快な走りが得られること。こうした差が明確に与えられていることも事実であり、今後どのような販売割合でEクラスが選択されていくのかも注目して見ていきたいところだ。
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