国際レースにかけるフェラーリ
ここまで、フェラーリの黎明期に誕生した代表的なモデルとモータースポーツへの取り組み、その代表的なものを解説してきたが、それはあくまでもフェラーリの歴史の中ではごく一部分を切り取っただけでしかない。ここではもう一度時間を戻し、これまで触れることができなかったモデルを紹介しよう。まずはフェラーリが、1950年代から積極的に参戦したスポーツ・プロトタイプ・レースに投じられたモデルを振り返ってみることにする。
V12ミッドシップ「テスタロッサ」の系譜(1984-1994)【フェラーリ名鑑】
ワールド・スポーツカー・チャンピオンシップが新たにFIAによって制定された時、そのレギュレーションに実は排気量に関する規定というものがなかった。実際にその制限が設けられたのは1958年からで、フェラーリもそれに従って、気筒あたりの排気量で記すのならば、166に始まり、195、212、250、255、275、340、342と、さまざまなサイズのV型12気筒エンジンを搭載したモデルを開発し、レースを戦った。
ちなみに1958年シーズンからの排気量制限は3000cc以下というものだったが、フェラーリにとって3000cc=250は未知のものではなく、すでに十分な経験値をもつもので、事実マラネロのファクトリーでは250 GT SWBの生産も行われていたタイミングだった。フェラーリは急遽、アウレリオ・ランプレディを中心に、1958年用のレーシング・スポーツの設計をスタートすることになった。
250 Testarossa(1957)
赤いヘッドカバーをもつ「テスタロッサ」誕生
ここで完成したのが、それまでの250系のエンジンをさらにチューニングし、ホイールベースを2350mmにまで短縮。サスペンションはフロントにダブルウイッシュボーン、リアにはダブル・トレーリングアームのリジッドアクスルを与えたサスペンションを組み合わせた(ただしワークスカーにはドディオン・アクスルと横置きリーフスプリングが採用されていた)「250テスタロッサ」だった。
テスタロッサとは、イタリア語で“赤い頭”を意味する。それはフロントに搭載される2953ccのV型12気筒エンジンのシリンダーヘッドが赤く塗装されていたことに由来するもの。6基のウェーバー製キャブレターが組み合わされるこのエンジンは、最高出力で290psとも、あるいは300psともされるほどハイパフォーマンスなもので、その最高速度は実に270km/hに達した。
さらに進化型の「250 TR 59/60」では、306psまでエンジンが強化されると同時に、トランスミッションは4速MTから5速MTに。最終進化型となった「250 TR/LM」では、360psを発揮するというから、その高性能ぶりは、この数字の変遷からも想像できる。
750 Monza(1954)
戦績こそフェラーリの宣伝
4気筒モデルも、この時代のレースには多くがエントリーされている。気筒あたり625ccとなる2498cc直列4気筒エンジンを搭載した「625TF」(ただし車名の由来と思われる、ツール・ド・フランスには出場した記録はない)や「735S」、「500モンディアール」、「750モンツァ」などは、その代表的なところ。これらの中にはカスタマーに販売され、カスタマーチームからエントリーされるモデルも多かったが、そのリザルトはフェラーリにとっても有効な宣伝材料となった。しかし、それがレースのレギュレーション変更という事態を招くのだから圧倒的な強さというものには、いつも羨望の眼差しと同時に反感の視線が注がれていることが分かる。
それでもフェラーリは、サーキットから去ることはなかった。レギュレーションが厳しくなればなるほどに、優秀な戦績を残すフェラーリに多くのカスタマーやファンが熱狂することにエンツォは誇りを感じていたからだ。この頃、販売の主力となる市場は、すでにヨーロッパからアメリカへと移っていた。タフでスパルタンなスポーツモデルだけではなく、速く、そして快適なドライブが楽しめるGTを同時に造らなければならない・・・。そのようなエンツォの考えを現実のものとしたモデルが続々とマラネロから出荷されていくようになるのは、あの250GTシリーズ以降のことになる。
【SPECIFICATION】
フェラーリ 250GT SWB
年式:1957年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:2953cc
最高出力:221kW(300hp)/7200rpm
乾燥重量:800kg
最高速度:270km/h
フェラーリ 750 モンツァ
年式:1954年
エンジン:直列4気筒SOHC
排気量:2999cc
最高出力:187kW(250hp)/6000rpm
車両重量:760kg
最高速度:260km/h
解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
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