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豪快なブリティッシュ・ロケット──ジャガーFタイプRクーペ試乗記

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豪快なブリティッシュ・ロケット──ジャガーFタイプRクーペ試乗記

ジャガーのスポーツモデル「Fタイプ」の高性能ヴァージョン「R」に今尾直樹が試乗した。

内燃機関ならではの野生味

なぜ日産のVQエンジンは傑作なのか?

ETCゲートをくぐってアクセル・ペダルを深々と踏み込むと、フロントのボンネットの下に潜む5.0リッターV型8気筒スーパーチャージャーがグオオオオオオオッと獰猛な雄叫びをあげ、後輪を若干躍らせながら、獲物に跳びかからんばかりの強烈な加速を見せつけた。

ガソリン・エンジン搭載のジャガー・スポーツカーとしては最後となるであろうFタイプの頂点に君臨するモデル。ということは、現代のビッグ・キャットを象徴するアイコン。それが今回の試乗車、FタイプRである。メーカーが主張する0~100km/h加速は3.7秒。これはポルシェ「911カレラS」と同タイムであることを意味する。

ちなみに、911カレラSの車両価格は1760万円。FタイプRは1590万円で、価格的には911カレラの1429万円に近い。カレラの0~100km/hは4.2秒だから、もちろんゼロヒャクだけですべてが語れるわけではないけれど、少なくともジャガー・スポーツカーの旗艦はブリティッシュ・ロケットと呼ぶにふさわしい性能を備えている。

さりとて、FタイプRはポルシェ911とはまったく異なるスポーツカーである。ま、当たり前ですね。メーカーも国も違えば、エンジンの搭載位置、シリンダーの数、排気量も違うのだから。

なんですけれど、ここで申し上げたいのは、じつにブルータルな、その全開加速っぷりだ。獣のように野蛮で荒々しい。たまさか試乗車がソレント・イエローという特別色の黄色をまとっていたことから、筆者の頭に“黄色い悪魔”ということばが浮かんだ。

そう。梶原一騎作、辻なおき画の漫画『タイガーマスク』の主人公が悪役時代にとった異名である。FタイプRはガソリン・エンジンの最後にふさわしい、内燃機関ならではの野生味でもって、ドライバーを魅了するのだ。

Fタイプの進化

ここでジャガーFタイプについて若干の説明をしておくと、デビューは2013年にさかのぼる。その名称が示す通り、かのEタイプの系譜につながるフロント・エンジンのスポーツカーで、直接的には「XKクーペ&コンバーチブル」の後継に位置づけられる。アルミニウム製モノコックのプラットフォームはXKの発展型を用いているのである。

ただし、XKが2+2だったのに対して、Fタイプは純粋な2シーターで、2620mmのホイールベースはXKより130mm短い。もともとフロント・マスクは正統派の2枚目だったけれど、2020年モデルからご覧のようなクラムシェル型ボンネットとJ型のデイタイム・ランニング・ライトが採用されている。デビューから約7年の歳月を経て、よりアクの強い個性派に成長した、という感じでしょうか。スパイダーマンのヴィラン(悪役)、ヴェノムみたいな面構えになった。

内装にも手が入り、大型2眼だったメーターがTFTスクリーンの画像になるなどのモダン化が図られている。フェイスリフトを受けたFタイプは日本では2020年1月から受注を開始する。

試乗したのは、昨年、広報車として発注されたものだけれど、世界的パンデミックの影響で上陸が遅れ、今年5月に登録されたという比較的新しい個体だ。

エンジンのラインナップに、2.0リッター直列4気筒、3.0リッターV型6気筒、そしてこの5.0リッターV型8気筒の3タイプがあるのは従来通り。肝心なのは、FタイプR用V8の最高出力がそれまでの550psから575psへパワーアップされている点だ。サスペンションも、それに合わせてスプリングやアンチロールバー、そしてアダプティブ・ダイナミクスという名称の連続可変ダンパーを強化している、とされる。

タイヤは前255/35、後ろ295/30の、共にZR20が標準で、これでもリッパなスーパーカー・サイズだけれど、試乗車はそれよりさらに極太の前265/35、後ろ305/30の共にZR20をオプション装着している。

クラシックな味わい

筆者はガソリン・エンジンの単純なファンなので、スターター・ボタンを押して、グオンッとV8スーパーチャージャーが目を覚ました瞬間から、グッときた。その昔のXKエンジンを思わせる振動とサウンド。低回転域では、むおーっという怪物の鼻息のような音を発し、液晶画面のタコメーター上、真っ赤に塗られた7000rpm目指してさらに右足に力を込め続けると、V8スーパーチャージャーの音色は3500rpmあたりからぎゅううううううんっという金属音に転じ、8速オートマチックが電光石火で自動シフトアップ、さらに、ぎゅううううううううっ、という咆哮を繰り返す。

乗り心地はビシッと引き締まっている。めちゃんこ硬くて男らしい。電子制御の可変ダンピングを標準で備えているけれど、荒れた路面ではちょっとピッチングとかバウンシングが微妙に残ったりして、クラシックな味わいでもってドライバーを揺さぶる。

FタイプRは、じつのところ筆者はドライブ中、まったくそれと感知できなかったのですけれど、ピュア後輪駆動ではなくて、後輪駆動ベースの全輪駆動だ。通常はリア・ホイール・ドライブでは、つまり、リアの2輪だけでは扱いきれない、とコンピューターが判断すると、前輪にもトルクを供給し、車両の安定性を確保する。全開時に、なんとブルータルな! と、思うほどのパワフルさを、安全に享受できるようになっているのだ。

旋回性能は小気味いい。車検証上の前後重量配分は、1000:840kg、つまり54:46という明瞭なフロント・ヘビーだけれど、それによる悪癖を意識させない。前1585/後ろ1610mmのワイド・トレッドで、ショート・ホイールベース。全輪駆動の制御システムの前後トルク配分や、電子制御アクティブ・ディファレンシャル(トルク・ベクタリング・バイ・ブレーキ)の陰ながらの活躍もあるかもしれない。筆者にしかとわかるのは、自分の腰のあたりに旋回の中心を感じながら、このミドル・クラスのスポーツカーがスイスイ曲がっていくということだけだ。

ジャガーFタイプは過小評価されている。と筆者は思う。ヴェノム顔に好き嫌いはあるかもしれないけれど、リアから見たときの美しさはますますもってEタイプである。テール・ライトもフェイスリフトでより薄型になり、フェンダーの膨らみが強調されている。う~む。カッコイイ!

偉大なEタイプの血脈につながる、ジャガー最後のガソリン・エンジンのスポーツカー。懐に余裕のある御仁は1台、ぜひコレクションに加えておかれてはいかがでしょう。なんせジャガーは2025年に完全EV化すると宣言している。

ブリティッシュ・レーシング・グリーンからブルー、ホワイト、グレー、ブラック、オレンジ、そして、このイエローと、全25色のなかから選んで、自分好みの野生のジャギュアを仕立てることができる時間はあまり長く残ってはいない。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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みんなのコメント

7件
  • 豪快なジャパニーズ・ロケット

    負けていないですよ!トヨタプリウス!
  • 〉高性能ヴァージョン「R」に今尾直樹が試乗した。

    ヴァージョン!普通にバージョンじゃ駄目なんですよね。
    GQさんは。
    そんなら、ジャグァーって書けよ。
    イナガキと同じで中途半端な筆者だな。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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