新型コロナウイルス感染症による影響に続いてウクライナ侵攻が始まり、物流や商品供給への影響が続いている。日本の自動車業界に関しては、ロックダウンなどによる海外の生産工場の停止と、それに伴う世界的な半導体不足による新車供給の遅れのほか、原油高などで家計への影響が大きいことから、中古車販売が好調となっているが、海外ではどうなのだろうか。
イタリア在住の筆者が 欧州の状況を中心にご紹介しよう。
日本だけじゃない!! コロナ渦+ウクライナ侵攻で欧州もクルマ事情が大混乱な実情
文:立花義人、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:Adobe Stock_OceanProd
写真:STELLANTIS、VW、RENAULT、Mercedes-BENZ、TOYOTA、DACIA、ベストカー編集部
もともと十分でなかった半導体供給
イタリアは、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響がいち早く広がった国。2020年3月は新車販売が85%減少、翌4月には約98%の減少にまで追い込まれた。欧州には自動車の生産工場が多数あるが、厳しいロックダウンにより一時的な閉鎖を余儀なくされたためだ。
半導体不足は、この時に発生したと思われがちだが、実はパンデミックが始まる前から半導体の生産はフル稼働状態。数年先を見越して体制を整えようと業界が活発に動いていた矢先にパンデミックが発生し、サプライチェーン全体の混乱を招いたのだ。
複雑なアウトソースが多い自動車用半導体の場合、他の産業よりもチップの確保がしづらいため、多くの自動車メーカーが工場を再開しても半導体を確保できず、クルマを完成させられないという状況に陥った。この影響が現在に至るまで、基本的には解消されないまま続いている。フォードは半導体不足の影響で、2021年の自動車生産台数が110万台減少した。
もちろんフォードだけではなく、欧州自動車工業会(ACEA)の発表によると、2021年の新車販売台数は2020年と比較しても全体で2%減、ルノーは6%減、VWは3%減、ステランティスは1%減。そんななか、トヨタは8%の増。トヨタは2011年の東日本大震災時に部品の供給が滞り、減産を余儀なくされた経験から供給リスクを回避する対策を強化してきたことが功を奏したようだ。
新車納期は、欧州も日本と同じような状況
欧州に限った話ではないが、半導体不足の影響は2022年中も解消されないとの見方が強いようだ。その理由の一つがロシアによるウクライナ侵攻。半導体の製造にはネオンなどのレアガスが欠かせないが、ウクライナはその主要生産国の一つであり、原材料のレアメタルの一部にも、ロシアへの依存度が高いものがある。戦争が長引けば、半導体のサプライチェーンへの混乱は続いていくだろう。
欧州の新車納期に関しては、たとえばアウディは、A3やA4などは4~5ヶ月と比較的早いものの、A6やQ5、Q3スポーツバックといった車種では8~10ヶ月かかる。またメルセデスはもっとも早いAクラスでも8ヶ月、GLAやGLEなどは1年3ヶ月程度、EQシリーズも1年以上かかるようだ。
BMWも人気の3シリーズやX3は6ヶ月程度、DSは3~4ヶ月、ヒュンダイ、キアは6ヶ月、フィアットは一部の車種に「ナビやラジオがなければ早く納品できる」としているものもあるが、ラインアップの多くは4ヶ月程度かかる見込みのようだ。
一方、中古車販売の状況に関しては、欧州で有名な新車・中古車オンライン販売のとあるポータルサイトの調査によると、イタリアでは2021年に中古車販売が13%増加したとのこと。価格も上昇しており、2021年12月の平均価格は前年同期比で21%増加、2021年全体でも7%増加したようだ。
また、多くの人が中古車を購入する予算も新車と同じくらいの金額を見ており、程度の良さを求める傾向が強かったと分析している。2022年も中古車を購入したいと考えている人が依然として多く、その10人に2人(20%)が主に「新車の納期が遅いから」を理由として挙げているようだ。
というように、新車販売に関しても中古車販売に関しても、状況は日本とそれほど変わらない。
電動化加速の流れも
欧州では依然としてディーゼルの比率が高いが、最近では原油高の影響を受けてハイブリッドやBEVの購入を検討する人も増えている。給電設備の整備はまだまだ発展途上の感が否めないが、シティコミューターとしてクルマを使いたい場合は燃料代も決して無視できない要素であることから、原油高が続く限り、この流れは加速していくことだろう。
最近ミラノでもよく見かけるシトロエンAMI。ガソリン価格の高騰は確実に今後のクルマ選びにも影響を与えそうだ
筆者の住むミラノでは、このパンデミック中に自転車での移動の推進(自転車専用レーンの整備)やカーシェアリング(BEVモデルも多い)の積極的な導入などが進み、この2年間で内燃機関モデルの走行が実感として減ったように感じる。欧州では2035年までに内燃機関(ICE)エンジンの乗用車の販売が禁止されることになっていることから、BEVやPHEVの販売数が飛躍的に延びており、脱ICEの動きは今後ますます活発化すると見られている。
その一方で、ICEモデルより大量の半導体を必要とするBEVが、材料の供給不足にどのように立ち向かうのか。そのジレンマはしばらく続きそうだ。
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