中国では17%もの減産が確認されている
日産が2024年度最初の決算発表を行い、営業利益が前年比99%マイナス、2024年度の販売台数見通しも下方修正するという衝撃的な決算内容が判明した。日産が今後に直面する厳しい見通しを解説します。
「アリア」が挑むのは電気自動車の激戦区 [日産アリア試乗記:その1]
まず、今回取り上げたいのが2024年4月から6月における日産の決算内容です。グローバル全体の販売台数は78万6637台と、前年同期比でマイナス0.2%とほぼ横ばいです。マーケット別の内訳を確認すると、日本は8%のマイナス成長。日産の最大マーケットである北米も1.7%のマイナス成長。他方で、中国は3.3%の増加を実現しています。
ただし、懸念するべきは生産台数という観点です。グローバル全体では、前年同期比で7.5%もの生産台数減少であり、とくに中国は17%もの減産が確認されています。
中国国内の日産の生産能力は、これまで160万台程度を有していましたが、キャッシュカイを生産していた年産12万台級の生産工場を閉鎖するなどの対応に迫られていました。
ところが、直近の四半期の生産台数が16.9万台ということは、現在の日産の中国国内の生産台数は年産70万台ペース。2023年の80万台ペースと比較してもさらなる減少です。つまり、そのぶんだけさらに生産能力の余剰が深刻化してしまっているはずであり、工場の稼働率の低下は、自動車メーカーにとっての収益性の悪化に直結することから、おそらく、2024年度までに中国国内の車両生産能力のさらなる調整は避けられない情勢です。
次に注目するべきは、収益性をはじめとする財務実績という観点です。まず、売上高は2兆9984億円と、前年同期比で横ばいだったものの、営業利益は10億円と、前年同期比で99%マイナスという、まさに利益が消し飛んだ格好です。日産が3カ月間、世界全体で懸命に営業活動を行った結果、10億円しか稼ぐことができなかったとイメージしてみると、その日産の稼ぐ力が急速に衰えてしまっていることが見て取れるでしょう。
その一方で、2024年7月から2025年3月までという2024年度全体の見通しについて、最終的な営業利益は5000億円を予定しているという点も重要です。つまり、2024年度第二四半期以降は、むしろ急速に収益性を改善させる予定であるということを意味します。
しかし、懸念するべきは、想定為替レートです。2024年度を通しでのドル円の為替レートは155円を想定しているものの、現在急速に円高が進行中。よって、日産の想定している為替レートが円高方向へ修正される可能性が出てきており、主力マーケットが北米であることからも、2024年度通しでの収益性の見通しも下方修正の可能性が出てきているわけです。
アメリカでの在庫台数が最高レベルに到達
そして、日産について懸念するべきマーケットが、北米と中国市場です。
まず初めに、北米市場について、とくに問題なのがアメリカ市場の動向です。販売台数は3.1%のマイナス成長であるものの、それ以上に懸念すべきは、在庫車両の増加という観点です。
現在、アメリカ市場の在庫台数は、過去1年ほどで最高レベルにまで到達しており、在庫適正化のためのディーラーに対する販売奨励金や追加のマーケティング活動などによって、販売管理費が大幅に増加しています。具体的には、Q2におけるアメリカ市場単体の販売奨励金や値段改定の影響によって、営業利益に対して747億円ものマイナスの影響が出てしまっており、この四半期の営業利益99%マイナスの大半は、このアメリカ市場の在庫適正化によるものといえます。
そして、ここに為替レートの問題が追加されるわけであり、2024年度においては、昨年度のような極端な円安による収益性改善は通用しなくなっていくことから、まさに、日産の本当の実力が、2024年度通しにおける在庫台数を踏まえた販売台数、および営業利益という数値に反映されてくることになるでしょう。
次に中国市場について、確かに四半期単体の販売台数では3.3%の販売台数増加を記録しているものの、2024年上半期における販売台数では5.4%のマイナス成長です。
他方で注目するべきは、中国市場の全体需要という点です。経済停滞といわれている中国市場ですが、じつは自動車販売台数という観点で、むしろ1.6%のプラス成長を実現しており、やはりそれを踏まえると、日産が中国市場で苦しい戦いを強いられている様子が見て取れます。
この中国市場においては、ここからさらに販売台数を大きく落としていくのではないかと推測されます。日産の中国国内の主要車種の月間販売台数の変遷を見てみると、日産は大衆セダンのシルフィの販売台数に頼り切っているという、いわゆるシルフィ一本足打法を強いられている状況が見て取れます。
そして問題は、このシルフィが属する大衆セダンセグメントの販売動向について、販売台数が低下傾向になる日産シルフィとは反対に、中国BYDのQin PlusとDestroyer 05が、完全に大衆セダンセグメントを支配してしまっている状況です。
その上、BYDが5月末から発売をスタートしているQin LとSeal 06も、6月単体だけで2.5万台と、急速に販売台数を増加中です。Qin LとSeal 06の存在によって、さらにシルフィの販売台数に悪影響を与えるものと推測可能です。
すでに年間生産台数が70万台規模に低下してしまっている中国国内で、さらに生産規模低迷の可能性が出てきているという点は、日産としては極めて深刻な状況にあるわけです。
いずれにしても、日産が発表してきた2024年度第一四半期における決算内容は、極めて深刻な決算内容であることが露呈した格好です。在庫過剰による販売奨励金や値段調整を強いられているアメリカ市場は、円高が進行することによってさらに収益性が悪化する可能性が高く、このことからも、この1~2年ほどの収益性改善の理由は、いわゆる円安マジックなだけだったのではないかと懸念せざるを得ません。
さらに、今回の決算発表ではそこまで注目されていないものの、中国市場は2024年度下半期、アメリカ市場以上に懸念するべき存在になり得ます。シルフィのさらなる販売減速によって大規模な生産能力削減は避けられない情勢でしょう。
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