個性的で大胆なスピリットは入れ替わった
見た目は悪くない。だが、客観的に評価すると疑問も残る。それが、新しいスマートの#3だ。
【画像】ボルボEX30と同じ基礎骨格 スマート#3 サイズ的に近い電動SUVは? 先発の#1も 全157枚
メルセデス・ベンツとジーリー・ホールディングスの合弁ブランドとして再興したスマートは、もはや革新的なブランドではないのかもしれない。再編に伴い、個性的で大胆なシティカーを提供していた時代のスピリットも、入れ替わってしまったようだ。
新体制下での初の量産モデルを、電動コンパクト・クロスオーバーとした彼らの決定は理解できる。市場のニーズは小さくない。遅かれ早かれ、提供されるであろう複数のモデルの1つに、#1は加わっていたはず。
しかし、BMW iX1やプジョーe-3008などのライバルとなる#3に、革新という言葉は似合わないだろう。周囲とは異なるスマートらしさは、#1以上に感じにくい。数ある中型SUVの中で、スタイリングの個性も強いとはいえないと思う。
スマートは、過去よりメジャーで、周囲を意識したブランドになろうとしている。「中国では、ライバルのマネをすることが競争力を示す方法の1つです。デザインや技術を模倣することへ、強い抵抗はありません。むしろ推奨されています」
メルセデス・ベンツの従業員だったスマートの関係者は、筆者へそう話した。創造的になることが難しい社風なのだという。
果たして誕生した#3は、既存モデルの要素が巧みに融合されている。確かにまとまりは良く、魅力的に映る。しかし、それでは独自の個性を生み出すことはできない。ハンサムかもしれないが、迎合的。スマートとは呼びにくい。
プラットフォームはボルボEX30と同じSEA
恐らくジーリー・ホールディングスは、スマートのメルセデス・ベンツ化に満足している。アウディとセアト、アルファ・ロメオとフィアットとの関係に、少し似ている。
インテリアにも、社内デザイナーの姿勢が現れている。メルセデス・ベンツより若々しいブランドとして、従来まで実現できなかった領域をカバーする目的があるのだろう。#3のターゲットは、#1より若い層だと主張される。
これまでのスマートは、コンパクトさとシンプルさ、機能性が、特徴的なデザインで表現されていた。視線を集める見た目や、知覚品質以上に。そんな過去を、思わず懐かしんでしまう。
さて、#3が基礎骨格とするのは、ボルボEX30なども採用するSEAプラットフォーム。ベーシックなシングルモーターでは、最高出力271psがうたわれる。前後アクスルに1基づつ載るツインモーターの#3 ブラバスでは、2基合計で428psを発揮する。
駆動用バッテリーは、49kWhか66kWhの2種類から選択可能。スムーズな面構成と、#1より約80mm低い全高のおかげで空力特性に優れ、航続距離は後者の容量で455kmが主張される。クラストップの数字ではないものの、充分な競争力はある。
急速充電能力は、49kWhで最大130kWまで。66kWhでは150kWまで対応する。
車内空間は、滑らかなルーフラインから想像するほど狭くない。着座位置が低く、身長の高い大人が座っても、リアシート側でも膝前や頭上に充分な余地が残る。荷室も広い。
充分に練られていないシステム・デザイン
ダッシュボードの中央には、12.8インチの大きなタッチモニターが立ち上がり、実際に押せるハードスイッチは限定的。殆どの車載機能はモニターへ触れて操作するが、デジタル的な使いやすさはEX30の水準には届いていない。
タッチモニターの下にはショートカットキーが並び、インフォテインメント・システムの操作を補完できる。ところが煩雑で、狙い通りの役割は果たせていないと感じた。
ドライバーの正面には、小さなメーター用モニターが据えられ、上位グレードを選ぶとヘッドアップ・ディスプレイも装備される。パワーウインドウとドアロックは、従来のクルマのようにドアパネル側。これはハードスイッチで、操作しやすい。
ドアロックの音は、不思議とコミカル。ウインカーをオンにすると、カチカチとクラシカルな電子音が鳴る。
アダプティブ・クルーズコントロールや車線維持支援など、多様な運転支援システムが備わるものの、過剰に警告されるため、正直なところ逆効果。機能をオフにする手順も複雑で、それぞれのメニューに別れており、慣れても30秒ほどは掛かるだろう。
ソフトウエアだから、無線でのアップデートで改善は可能かもしれない。しかし、根本的にシステムのデザイン自体が、充分に練られていない印象。メジャーアップデートが施されるまで、ディーラーには不満が寄せられそうだ。
この続きは、スマート#3へ試乗(2)にて。
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