クルマの走行性能を決める重要なファクターのひとつに車重がある。では、クルマは軽ければいいのか? 重いクルマはどのような理由で車重がかさんでしまうのか? 今回は車重の軽重におけるメリット・デメリットを考え、どんなクルマが軽く、そして重いのかを見ていくことにしよう。
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、マツダ、スズキ、ダイハツ、Newspress UK
ホントに「軽さは正義」なのか!? ライトウェイトの功罪を探る
どうして軽いクルマがいいとされるのか?
軽量なクルマはコーナーでの限界速度が上がり、加減速もスムーズになる。写真の現行型マツダ ロードスターの車重は約1000kgで、現代の基準ではかなり軽い
まずは車重が軽いことのメリットを考えてみたい。
物体を動かそうとする場合、重いものより軽いもののほうが動かしやすいのは感覚的にもわかるはずだ。これはクルマにも当てはまり、停止状態のクルマを発進させる際に必要なエネルギーは、重いクルマより軽いクルマのほうが小さくすむ。
これは動いている物体を止めたい場合でも同様で、クルマを停止、あるいは減速させるのに必要なエネルギーは、重いクルマのほうが大きくなる。
つまり、軽いクルマは燃料の消費か少なくなり、ブレーキのサイズ(容量)も重量級のクルマに比べると小さくてよいということ。もちろん、タイヤに同じパワーを与えた場合、軽いクルマの加速力は重いクルマのそれに勝る。
さらに言うと、コーナリング中の遠心力は重いクルマのほうが大きくなるので、タイヤのグリップが同じだと仮定すると、安全にコーナーを回るには重いクルマは軽いクルマよりもスピードを落とさなくてはならない。また、コーナリング中に限界を超えてクルマが滑り出してしまった時も軽いクルマのほうが制御しやすくなる。
ここまで見てきたメリットをすべて生かせるクルマのカテゴリーがスポーツカーだ。スポーツカーは、軽く仕上げることで加速力が高まると同時にコーナリングの限界も高まり、ブレーキの利きも良くなる。要するによく加速してよく曲がり、キッチリと止まるクルマになるわけだ。
重いクルマにメリットはあるのか?
SUVやミニバンはどうしても車重が増えてしまう。そのぶん剛性は高く、衝突安全性に優れたモデルが多い。ただし、燃費面においてはあまり期待できない
車重が重い場合、先にあげた軽いクルマのメリットが得られないということになる。まずは燃費が低下し、ブレーキに加わる負担も増える。そしてコーナーでの限界速度が下がってしまう。そう考えると重いクルマにはメリットがないようにも思えるが、実はそうではない。
クルマを純粋な運動する物体と考えた場合、重いことに特にメリットはない。しかし、乗用車が重くなるには十分な理由があり、その理由がメリットにつながる。
まずは車体の剛性だ。多人数が乗る大型のクルマでは、それを支えるために強固なフレームを作る必要がある。強固なフレームは重い車体を支えるだけでなく、衝突時の衝撃に対して強くなる。また、フレーム剛性が高いクルマは走行中のねじれも少なくなり、これが乗り心地の良さにも貢献してくれる。
近年は衝突安全に関する対策がより高度なものとなっていて、それにつれてクルマの車重は増加傾向にある。運動性能を考えるとマイナスに感じてしまうが、安全性を優先するのは当然であり、ドライバーを含めた搭乗者を守るためには仕方ないことでもある。
軽さによるデメリットは?
軽いクルマは壊れやすいかと言えば必ずしもそうではなく、設計時に十分な強度が考慮されている。しかし、重いクルマと当たってしまった場合は不利になることも
クルマが軽い場合のデメリットは、軽さそのものというより、クルマを軽く仕上げるための設計や素材選びから生じているケースがほとんどだ。
まずは安全性だ。最近のクルマは軽くてもしっかりとした剛性が確保されているが、やはり絶対的な強度では強固なフレームを持つ重量級に及ばないことが多い。ただし、同じスピードでぶつかった際には、運動エネルギーは軽いクルマのほうが小さく、搭乗者が受ける衝撃も小さくなる。つまりダメージが軽減される可能性が高いが、これは車体の剛性との相関を考慮する必要がある。
次に考えられるデメリットは乗り心地。どちらかというとフレーム剛性が低めになる軽いクルマは、走行中にたわみが大きくなり、さらに軽量ゆえに路面の起伏を乗り越えた際の挙動も敏感になることもあって、乗り心地は重いクルマに引けを取る。もっとも、この機敏さがライトウェイト車の魅力とも言えるのだが。
ライトウェイト車は各部の無駄を切る詰めることによって軽量に仕上げられているのだが、そのぶんクルマとしての寿命が短くなることもある。やはり、がっしりとしたクルマは劣化しにくいのは間違いない。
このように「軽いのが正義」は、こと乗用車においては当てはまらないケースもある。とはいえ、軽量なクルマをキビキビ走らせるのが楽しいのもまた事実ではある。
続いて、普通車の軽量級と重量級の代表車種を見ていくことにしよう。
軽量ナンバー1はあのクルマ!
21世紀の国産軽量車第1位はダイハツのミラ ジーノ1000(写真はその後継モデルにあたる2代目ミラ ジーノ)。最軽量グレードは780kgという軽さだった
ここからは、軽自動車を除く国産普通車の車重ランキングをチェックする。普通車と言ってもスポーツカーからミニバンまで存在するが、ここはすべての「普通車」をひとくくりにした。近年はクロスオーバーモデルも増えていて、カテゴリーの線引きが明確にしづらいという理由もある。
ランキングはベストカーウェブの調べによるものだが、資料によって多少の違いが出ることはある。その点についてはご容赦してほしい。また、今回は今世紀になってから販売された国産車に絞っている。これは安全基準の異なる20世紀のクルマが軽量の上位を独占してしまい、現在の実情に合わないためだ。
では、まずは軽量なクルマのトップ3を紹介する。
車重850kgで第3位に入ったのはスズキ イグニス。2016年に発売されたこのモデルは、コンパクトなクロスオーバーSUV。1.2リッターエンジンを搭載する5人乗りにもかかわらず、これだけの重量に抑えたのはさすが。
第2位はスズキが送り出すスポーティFFコンパクトカーのスイフト(4代目)。ガソリンエンジンのみやハイブリッドなど、バリエーション豊富なパワーソースが特徴のスイフトだが、マニュアルトランスミッション2WDのXGは車重840kgと軽い。
そして輝く21世紀の国産軽量車第1位は、ダイハツのミラジーノ1000だ。2002年にリリースされたミラ ジーノ1000は、すでに販売されていたミラ ジーノの上位モデルで4人乗りの5ドアハッチバックリッターカー。グレードによって車重に変動はあるが、一番軽いモデルの車重はなんと780kgだった。
スポーツカーが上位を占めると予想された国産軽量車トップ3は、少々意外な結果になった。もっとも、ライトウェイトスポーツカーは、今世紀では絶滅危惧種に数えられてしまうほど貴重なものとなっているが。
1&3位に共通しているのは、いずれも燃費を重視しているということ。この軽量級ランキングを見ると、やはりクルマが軽いと燃費が良くなることが理解できる。そして2位にスポーティな性格を持つスイフトが入ってスポーツモデルの面目(?)を保った。
ヘビー級はどのクルマが一番?
国産重量級チャンピオンはトヨタのグランエース。2019年に発売されたフルサイズワゴンが、全幅1.97m、全長5.3mという圧倒的なサイズとともに見事1位に輝いた
最後は国産普通車のなかからどのクルマが重いのかを確認してみた。以下がそのトップ3だ。
3位は国産高級SUVの代表格とも言えるレクサス LXの3代目。LX570とも呼ばれるこのクルマは、5.7リッターエンジンを積む4WDで、その重さは2680kg。2トンどころか3トンまで手が届きそうな勢いだ。
重量級の第2位には、トヨタのランドクルーザーがランクイン。数あるランドクルーザーシリーズのなかでも、2007年登場の200系は4.6リッター自然吸気エンジンを積み、フレームはランドクルーザー伝統の強固なラダー式。こうした組み合わせにより2705kgを記録するモデル(GX)もあった。
そして栄えある重量級横綱の地位に昇りつめたのがトヨタの8人乗りミニバンのグランエースだ。エンジンはターボチャージャー付き2.8リッター、オーソドックスな後輪駆動車ながら、構造が複雑なため重くなりやすい4WD車を抑えて堂々のトップを獲得。気になる重量は圧巻の2770kg。文句なしの1位を獲得した。
期せずして重量級トップ3はトヨタ系モデルが独占した。これは同社がミニバンやSUVモデルに強く、剛性を重視したクルマ作りの現れとも言える。
クルマの購入時にカテゴリーや車種を考慮することはあっても、重量を気にする人はあまり多くはないだろう。だが、走る・曲がる・止まるなど、クルマのあらゆる動きに影響する車重については、もう少し真剣に考えてみてもいいかもしれない。
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